異世界へ来たみたいだ
最後の記憶は、薄れゆく一人の女の泣いてるような笑っているような顔だったか、再び暗転した世界は光を帯びる。
眩しさに目を開けると、見知らぬ人物達が、おかしな恰好をして話かけてきているようだ。
ってなんだ!?耳が聞こえない!?って一体なにが起こったんだ?混乱する頭をなんとか動かし現状把握に努めようとするが、状況が理解できない。
大勢の人達と一緒にいて光に飲まれて、なんだ!?思い出せない、思いだせたと思ったら、まるで靄がかかったように薄れる記憶、これは一体どうなってるんだ?
雑音に聞こえていた言葉が、やがて意味を持ちだした。
なんだこれ!?日本語なのか、いや違う急に言葉が理解できるようになったみたいだ。
「あなた、しっかりしなさい!私の言葉がわかる?」
そう言ってこちらに話かけてくる珍妙な恰好をした女、だがどこか気品を感じさせる不思議な人物だと思った。
「おい!王女さんよ!本当にこいつ大丈夫なのかよ!ずいぶん様子がおかしいぞ」
学生服の男が、女にそう話しかけた。
そして、俺は彼女が王女なのだと理解した。
落ち着いて、よく周りを見回してみると、どうやら王女と学生服の男の他に、学生服を着た女性が3人とRPGに出てくる神官のような恰好をした男女らが、周囲にいることがわかった。
「あなた、しっかりしなさい!回復の魔法を至急、急ぎなさい!」
王女の言葉を発端に、周囲の人達が慌ただしくなりはじめる。
「いや、大丈夫だ……と思う、それよりこれはなんなんだ?」
俺は慌てて、自身の健在をアピールする。
回復魔法ってなんだよ、そんな得体のしれないもの使われてたまるかよ。
「どうやら、大丈夫ってことみたいだな、おまえだけ、ずっとぼんやりしてたかた心配したぜ」
そう学生服の男は、安堵したように話す。
「本当に、心配したんですからね、でも無事なようで嬉しいです」
「私は、秋月葵です。これからよろしくお願いしますね」
おっとりした、黒髪の大和撫子風の女の子が、そう話してくる。
かわいくて良い子ではないか!俺はそう結論付けることにした。
「てっきり、異世界なんかに飛ばされたみたいだから、あんたの魂は飛んで行ったかと思ったじゃない」
どこか、猫のような印象を感じさせる。これまた美人がそう言った。
「あー私は高良澪、まぁよろしくね」
なんだと?今聞き捨てならない言葉を発したぞ、異世界だと!?
また、脳内が停止しそうになる所に
「ではでは、私は音、葉室音なのです!異世界(笑)を楽しみましょう~」
異世界を楽しむだと!?ずいぶん能天気だな、しかし幾分気分が楽になった気がするわ。
「最後に俺だな、天川陣それが俺の名だ。これも何かの縁というやつだ仲良くやろうや、それでおまえの、名前はなんなんだ?」
「俺の名前は……?あれ?」
どうしたというんだ!?名前がわからない!?どういうことなんだこれは!
「名前がわからないみたいだ……」
俺は一同にそう告げると、間違いなくこの場の体感気温が一度下がった。
「と、とにかく王の間に行くわよ、そこでステータス確認をすれば、あなたの名前もわかるはずよ」
王女が、顔を青くしながらそう言った。
ステータスか、また気になる単語が、しかしまず名前だ!名前がわかないとか緊急事態以外の何物でもない。
「もーう、とにかく色々問題がありそうだけど、改めて言わせてもらうわ!私の求めに応じてよく来てくれたわね勇者達!」
こうして俺たちは王女、ガスール・エグマ・ミュール先導の元、王の間へと移動するのであった。