表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

7番

テンプレへの対処をどうするか決めているとあくびが聞こえた。

振り返れば双子が眠そうに目をこすっていた。

外は日も落ちているのだが、さっきまでは夕日が見えていたので、まだおねむには早い。


「もう眠いのか?」

「今日はちょっと疲れたからさ」

「私もです」


実に寝むそうで声がふにゃふにゃしている。

子供だから仕方ないのかと、一瞬思ってしまったが、これまた一瞬で思いが吹き飛ぶ。

こいつらは俺の一個下なのだ。

見た目が9歳くらいでも、中身はもう中学生だ。

このくらいの時間帯なら全然活動時間だろう。

疲れたとしても眠たくなるまではいかない。


「二人とももうちょっと我慢しておくれ。もうすぐ部屋につくよ」


そんな双子におばちゃんがもう少しの辛抱だと話かける。

二人はおばちゃんに返事をしてまたあくびをした。


「ついたよ。二人はこっちで、あんたはここね」


案内された部屋は通路一つ挟み迎いの部屋だ。


「先に言っておくぞ。明日は聞きたいことが山ほどあるからな」

「わかってます」

「じゃぁ、おやすみ~…」


ボーっとして二人は部屋に入って行った。


「あんた、晩御飯はどうするんだい?」

「食べるようなら、後で頼む」

「そうかい、まぁ店番がいるうちはいつでもいいよ。風呂は好きに使ってくれて構わないよ」


おばちゃんはそう言って引き返していく。

ハードボイルドみたいなその後ろ姿はなんだかかっこよくすらみえてしまう。

後ろ姿が見えなくなったところで、部屋に入った。

中はアメリカン風の造りをされていて、ベッドはそこそこ大きく二人で寝ることも可能そうだ。

体が小さいなら3人でも寝れそうだ。

窓は一つ小さいものがあり、机が一つ設置されている。


掃除が見事に完了しており清潔感がある。

暗いので明かりのようなものがないか探す。

経験からして、たぶんどこかにクリスタルがあるはずだ。


明かりのスイッチというのはそれを使いたいときの状況を考えて入口付近に備え付けるのが定石だ。

なので、入口の近くの壁に何かないか手探りで確認。

右にはなにもないようなので、次は左。

すると、予想どうりぽこっとはみ出ている場所を見つけた。

手触りは数回触ったクリスタルなどと変わらないのでこれがそうだろう。

早速明かりをつけるために魔力を流す。

すると、それを起点にしたかのように部屋全体があかるくなる。


「ふぅ」


と、一息ついてから俺は大きなベッドに大きく横たわる。

弾むような弾力があった大変気持ちがよく、ここでならしっかりと休めそうであった。


「眼帯だけは外しておくか」


封印と言いつつも寝る前には必ずはずされる眼帯。

俺もがばがばな設定だなとは思うんだが、それでも寝るときにまでこれを付けていようとは思えない。

頭の後ろにある止め具を外そうと手を回す。


「ん?なんだ?」


止め具があるはずの箇所にあるはずの金具が見つからず止め具が外せない。

なので、少し無理やりなのだが強引に引っ張って取ろうとしたのだがうまくいかなかった。


(なぜだ…眼帯がとれない?)


縫い付けられているかのように眼帯はビクともせず、周りの皮膚が眼帯と共に引っ張られている。

これではまるで、実際に眼帯を取ると何かが起こりうるようではないか。

俺は、半ばそれが正解であることを察してしまっていた。

思い返すのはただ一つ。

俺のステータスにある詳細が閲覧できなかった項目、【邪眼】だ。


剣を器用に使い最終確認のように眼帯を切ってしまおうとした。

だが、それも意味をなさない。

見えない力に弾かれるかのように刃は通らずにとどめられる。

俺の眼帯は革製で安い素材な物よりは頑丈さを誇っているだろうけども切断されかけてなお無傷なくらいに固くはない。

剣で切ろうとすればあっさりと切断されている。


「はぁ…。効果を直接みたわけでもなく決めつけるのはまだ早いかもしれんが……」


と、そこまで口に出したところで首を振る。

逃避するようにそんなことを行ったところで無駄であるからだ。


「これしかないだろうなぁ…」


まさに、幸先不安という感じだ。

投げやり気味にベッドに体を預ける。


(あぁ、俺もなんだかんだで疲れてたようだな…。眠気が……)


俺はそうして瞼を閉じた。



(寝てたか……)

「お、眼が覚めたみたいだね。おっはー」

「!?」


疲れのせいから寝てしまっていた俺は目覚めると深くフードをかぶった何者かにまたがられていた。

反射的に顔に拳を飛ばした。

ど真ん中一直線でこの距離ならば外れることもなく顔面を捕えるだろう拳は、空を切る。

その体勢からどうやったのか拳が当るギリギリで宙を一回転してまるで重さがないような身軽な回避をしてみせたのだ。

俺はベッドから跳ね起きて臨戦態勢を取る。


「大賢者からは追手がこないように処理しておくと言われてたんだがな。お前みたいなのが来たということは駄目だったということか」

「ん~ん~?違うよ違う。僕とその件は一切関係ないよ。僕はちょっと君とお話ししたいだけなんだよ」

「お話しだ?……ならこう答えよう。――ふざけるな」


こんなに怪しいのに話し合いなどふざけている。

まず、個人が泊っている部屋に無断で侵入している人間を即座に信用するなんて誰にもできまい。

そっと武器に手を当てる。

まだ使ったこともないので戦闘は軽くならしてからにしたかったのだが致し方ない。

秩序も日本より悪そうなこの世界。

闇討ちがきても自分で対処しないといけないのだから武器になれていないなんていう言葉は通用しない。


「ふっ!!」


勢いよく抜刀し腹を狙った横一文字。

を放とうとしていたのだが。


「甘いね」


耳元でささやかれた一言。

正面に立っていたはずのフードの人物は認識すら許さずに抜かれるはずだった剣の柄を押さえ体が触れあうくらい近くに移動していた。

手は両方武器に添えてあるので構えるのに一つモーションが挟まれる。

なので腹部への膝蹴りをしてやろうとした。

しかし、それは叶わない。

もう片方の手で先読みされたのかがっちりガードされていた。

忌々しいこと俺では真っ正面から挑んでも勝ち目がないのを見せつけられたようなものだ。

――――ボゴッ

音と共に俺の体は壁まで吹き飛んだ。


「がっ……!?」


腹にひざ蹴りをお見舞いしようとしたのに、逆にお見舞いされていた。


「遅い遅い、ん~困ったね。僕は君と話がしたいだけなのに……」

「おま…え、みたいな…あやしい、奴…と、話したいなど……だれ、も思わない」


痛みに耐えながら途切れ途切れながらも会話をする。


「しかたないなぁ~。じゃぁ今日は帰ることにするから、今度来たらちゃんと話しさせてよね?それと、戦いがお望みなら頑張ってぼくらの領域まで来てね。次会う時それができないと判断したら、その時は―――きちんと話をしよう?」

「くっ…お、前…ふざけ……るな…!」

「ふざけてないよ?ところで約束はしてくれる?」

「こ、と…わる」

「…………はぁ、なんて意固地なんだろ」


ドゴッ!と顔面に一発入れられた。

脳が揺さぶられて一気に視界がゆがむ。

切れてしまっているのか口の中から血が出てくる。


「ぼく帰るからあとはよろしく~。ばいばい、またね。目的達成できずか~。ぼくの短気もなおさなきゃ……」


(ハハッ…ざまぁみろ……)


ローブの去り際の捨て台詞のような言葉をかすれていく意識のなかで聞いた俺はそっとほくそ笑んだ。




「あぁ…最悪な朝だ」


起きるとボソッとつぶやいた。

鼻のあたりがジンジンと痛み口内にも痛みがある。

腹部にまで痛みは残されていて最悪な朝の最悪な気分を助長する。


「いま何時だ?って時間の単位はあるのか?この世界」


腹を押さえながら立ち上り体に不自由が生じていないかを確かめる。

室内の鏡で顔の傷がどの程度な物なのかも把握。

それなりに赤くなってしまっているのだが、ちょっとぶつけたとでもいえばごまかせるだろう。

まず、注視しないと気づけない程度だ

次に蹴られた腹だ。

こちらは、思ったよりも生々しく青く大きな痣になってしまっていた。

それなりに鍛えられていた腹筋なのにこんな悲惨な事になってしまっていてそこそこ気が落ちる。


ともかくとして、これならば大きな問題はなく外を出歩けるだろうと部屋をでる。

もう明るくなっているのに宿内は昨日より暗い気がする。


(誰かが俺の部屋に来た様子はなしか…。壁に激突した音は決して小さくはないはずだが…。案外防音はしっかりしているようだな)


宿屋の設備に関心しながら俺は受付を目指す。

こういう場合、途中廊下で客とすれ違ってもいいはずだが見事に俺一人だった。

部屋にいるのか、もともと誰もいないのかはこの際置いておこうと思う。


「おい」

「あら?おはよう昨夜はよく眠れたかい?」

「最低な夢と一緒にな」

「なんだい、部屋に満足できなかったかい?」

「そんなことはない。問題は部屋にはなかった」

「他のところには問題ありって言いたいのかい?いいけどね。朝食は食べるならそっちだからね。適当に座ってればテーブルに届くよ」

「わかった」


俺は部屋の方向とは逆の通路へと行く。

テーブルなどが並ぶ部屋に行けるようになっていてみたことある二つの姿があった。

そして、俺はその光景に眼を疑った。


二つの姿、ハクとセキがいたのはいい。

朝食を食べようとしてここに来るのは別に俺だけではないからだ。

しかし、そこに積まれていた皿の量が異常だった。

軽く30枚はある。

一皿どのくらいのボリュームで食事が運ばれているのかは知らないがあれだけの量を食べるのは難しい。

さらに、それは二人ではなく一人によって行われている。


馬鹿だ馬鹿だと言っていたが、セキは食欲馬鹿でもあったらしい。

ハクがやれやれといった具合に食事の風景を眺めているのを尻目にセキは食事を続ける。

まさか、あんな小柄な体のどこに吸収されていくのかと微妙に眼を疑うレベルだ。


「おはよう!」

「お前、大食いの才能があるな」

「そうですね。無料なのは二回目までなのでこれからは我慢をしてほしいところです」

「痛手になるのを黙認しなければいけないのか。お前も苦労人だな」

「今はあなたのことのほうが苦労の原因になりそうな気がしていますけどね」


ぽろっと毒を吐く。

俺は目に見える敵意にまで慣用になれる人物ではないので軽く睨み威圧した。

ハクはそんな俺を謝るでもそっぽを向くでもなく一直線に睨んだ。


一触即発な空気に現在挟まれているセキは居心地が悪そうだ。

相手を射抜かんばかりの視線を両端から浴びせられているといえば当然だろうか。


そんな中にセキの救世主現る。

給仕の女だ。

適当に双子の隣に座った俺に朝食を運んできたのだ。


「これが朝食になります。昼食はないので、次に会うとしたら夕食の時になります」


それだけ行って他の仕事をてきぱきとこなしている。

掃除して、食事を運んで、接客してとせわしなく動き回る。

日本であれだけやれたらチーフくらいにはなっていそうだな。


「話は終わりだ」

「そうですね」

「………ふぅ~」


ほっと息をついてまた食事を再開するセキ。

俺はこいつまだ食べるのかと軽くドン引いたが無言で食事をする。

汁物は味噌汁に見えるが絶対に同じものではない。

なぜなら匂いが違うから。

それと主食は米ではない。

まぁ、これはここがヨーロッパ感ある世界であった時点で予測がついていたので特になにも思うことはない。

あとは肉野菜炒めがあって飲み物はお茶だ。


「いただきます」


箸はない。

スプーンとフォークで食べる。


「マイ箸でも造るか…」


フォークとスプーンを使うよりも箸を使うほうが多い日本人。

やっぱり食事には箸が欲しい。

俺はどこかで木材加工の店でも見つけて箸の製作を依頼すると誓う。

そんなに難しい事でもないので、しっかり説明すればプロであれば仕事をこなしてくれるはず。

むしろ、芸術的な価値があるような箸ならまだしも普通の箸を造ることもできないような木材加工師など役立たずだ。

二つの棒を俺の要望通りに造り上げるだけだ。

やれないほうがおかしい。


俺はスプーンを使わずにフォークだけで食事をしていく。

正直スプーンとフォークのどちらが使いやすいと聞かれたらフォークと答える。

スプーンの方が使える場面が多いかもしれないがフォークでもやってやれないことはないし刺せるというのはフォークにしかないいいところだ。

そうなってくると、スプーンの先だけがフォークのようになっているオムライスなどによく付いてくるあれは画期的発明の一つかもしれない。


「ごちそうさま」


さっさと済ませてしまう。

横では未だ尚黙々と食べ続ける阿呆がいる。

いつまで食べるのやら。

俺はやりたいことが多くあるのに。


「おい」


セキは放置安定で、ハクを呼ぶ。


「なんでしょうか?」


ハクは、俺が今の状態のセキに話しかけることはないだろうと察してのことか返事をした。

どちらを呼んだのか不明でどっちが返事してもおかしくはないと自覚していたのにしっかり返事をされたのは久しぶりだ。


「回復の薬か回復の魔法などを使える奴を知っているか?」

「そこらへんで売ってますけど……」

「そうか」


俺を疑うような鋭い目で射抜いてきた。

常識を知らない俺を疑っているみたいだ。

こいつは俺を魔族だと疑っている。

異世界から来たせいで、常識のない俺を、魔族であり人間の文化を知らないのだと思っているといったところか。

誤解は解いておくべきか一瞬思案したのだが、めんどくさいという感情が勝ってしまったせいで見送る。

そもそもがあと少しでさよならなのだ。

印象を変えておく必要もないだろう。


「何に使うんですか?」

「回復だ。怪我を直す以外に何がある?」

「してるんですか?」

「……………チッ」


言われると昨夜の記憶が浮かんで腸が煮えくりかえった。

話がしたいなんて理由で部屋に侵入された上、反撃しようとしたら手も足も出なかった。

とてもいい気分にはなれない。

男として手も足も出ずにぼこぼこにされたのは来るものがある。


(絶対に次あったらぶっ飛ばす)


復讐の文字を胸に深く、深く刻み込む。

ただ、昨夜かたくなに拒み続けたことは悪手だったとだけ反省すべきと考える。

実力に差がありすぎて、俺では対処の仕様がなかった。

連れ去るなり、あの場で拘束するなりされたかもしれない。

俺じゃ抵抗しても無駄だったからそれをされていたら終わってた。


(それでもやっぱりぶっ飛ばす)


冷静になって確固たる差の事を事実として認識しても判定ジャッジは変わらない。

それほどまでに頭に来ている。


「教えてくれなくてもいいですけど、即時効果があるものが欲しいならお金がいります……が問題はないですよね」

「そうだな。今の俺はプチリッチだ」

「?」

「なんで、あんなアンデットの話になるの?」

「…………わからないならいい」


言葉は通じるが、どうやらなんもかんも伝わるってわけではなさそうだ。

リッチが誤解釈されてしまったようだ。

アンデットのリッチ。

死者達の長であったり、死者の中の貴族であったりと、作品ごとに微妙に立ち位置が違ったりするアンデット。

ほかの死兵と比べ、魔法が優れていて近接戦よりも遠・中距離戦を得意としている。

元の世界の知識を簡潔にまとめればそうなるか。

実物はここからどこまでかけ離れているのか。


「道を教えろ。俺は早く薬が欲しい」

「店に行く必要なんてありませんよ」

「なに?」


すぐそばに置かれている宝物庫から取り返してきた武器の杖。

ハクはさっとその杖を持ち上げ掲げた。

薄く、伸ばされるように魔力が杖に纏わりつく。


「【治癒術】(ライトヒール)」


呪文に従い魔力が杖を離れて俺の体を覆った。

ほんわかと温かく気分がすぐれていく。


「ふむ」


おなかをさすってみる。

どうやら治っているらしい。

痛みは消えている。


「回復の魔法か」

「はい。もっとも、本職の方には劣りますけど」

「これくらいの即時回復効果があるならいいと思うが?」

「いえ、私は怪我や傷を治せても欠損した部位などになるとどうしようもなくなるので」

「そこまでの大怪我はそうそう負うことはないだろう。それくらいの回復量があればいいほうだろう」

「………ダメなんですよ」


暗い何かがハクに宿ったように見えた。

俺に対し良い印象を持たないハクはそもそもがあまり明るく見えなかったが、まるで憑き物でも付いたようだ。

セキはそれを知ってか知らずか、黙ってもくもくと食事をし続けた。


「ギルドはどこだ?もうしばらくしたら行くぞ」

「え?しばらくってどんくらい?」

「俺が部屋に行って、ここに戻ってくるまでの間だ」

「うっそ!?ちょっとまってよ!!」

「待たない」

「食べ終わらないって!?」

「じゃぁ置いていく。片割れがいればいい」

「ひどいっ!」


心外だとセキは喚き散らした。

だが、そんなことを俺が許可するわけがないだろう。

泣こうが喚こうが、行くと言ったら行くのだと、強引に話を進める。

とりあえず、ハクが嫌そうにしながらも承諾したので俺は部屋へと戻る。


「詰め込めるだけ、詰め込まないと……」


背後から聞こえたアホな言葉は、聞かなかったことにした………。






「テンプレが起きると面白いが、この世界のギルドはどうなってることか」

「テンプレ?」

「気にしなくていい」


街中で城を除いたらもっとも巨大な建造物の前に俺たちはいる。

正直言って、この街でこの建物だけがアホのように浮いている。

あたりまえだ。

ヨーロッパ風の建物が騒然と並ぶこの街で、ここだけが中国と日本の建築方式を足して2で割ったように風貌だから。

ドアはなく暖簾で外と内を区切り、柱には木を、屋根には瓦が使われている。

あいにくと、壁まで日本や中国っぽくはなく、そこだけは金属のような素材で作られていた。

高さ的には、7階層マンションと同等と言ったところで、木造に近いのにこんなに背が高いのは物理法則を無視しすぎではないかと、浅い知識で愚考した。

専門の知識も雑学的な事も知らないのに、確かとかおそらくとかでしかないような記憶である。


暖簾をくぐり抜けるとまずは受付のようなカウンターが設置されている。

こういうのは入口のすぐそばに用意するものじゃないと思ったのだが、内装を見渡せば奥にもにたようにカウンターが用意されているので、こっちは用途が別なのだろう。

受付に立つのは美人ではないが不細工ではないような、THE・平凡と言いたくなる女性。

俺が暖簾から顔をのぞかせると一瞬顔を顰め訝しげに観察をしてきたのだが、ひょっこりと双子が顔を覗かせると表情が一変した。


「久しぶり!」


セキが言う。


「久しぶり。元気だった?」


笑顔で受付嬢がかえす。

宿の女将といいここといいなにかと顔が広い双子らしい。

しかし、久しぶりと声を掛けたり、掛けられたりしているということは、それなりの期間牢屋にいたはずだ。

どうして、牢屋に入っていたことがばれたりしていないのか。

たとえ、冤罪で捕まったとしても、捕えられたなら、罪を犯した人間として名前くらい公表されていそうだが。

警察が捕えた犯罪者をニュースなどで、名を出して報道することをどうだろうと思ったことがあるのだが、あれは、こいつが犯人だった。犯人は捕まえたと、民衆に知らし安全になったという報告だと聞いたことがある。

単にここではそれをしてないのか、それとも別の理由があるのか。


「そっちの子はだれ?」

「あー……。リュンヌだ」

「えっ?」


セキがいらないことを口走りそうなので先手を打って睨む。

一睨みすれば、ここまでの対応から余計な事をするんじゃないと暗に伝えているとわかったようだ。

偽名くらい使うのは当然のことだ。

宿くらいならいいが、ここでは名ばれしたくない。

考えれば思い至るはずだ。

どこかに泊る時などには本名でもかまわないかもしれないが、名が周りに知られることになる可能性のある場合こういった対処はしておくべきだと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ