4番
キラは元の世界で自分のことを『常闇の狂人』と名乗っていた。
そして、常闇の狂人として中二を謳歌するために今の服装と、エアガンを所持していた。
数多くの曲り道があって長い廊下があっても、こんなに多い人がいると俺の位置がばれてしまう。
何でこんなに人が多いのか。
俺が召喚されたところには誰もいなかったというのに。
(クソが!…これじゃぁ見つかる。人目がない瞬間をねらってどっかの部屋に転がり込むか)
走りながら人がだれも俺を視界に入れていないところを探す。
50m程走ったところで俺はちょうど機会を得た。
廊下が何mあるんだと突っ込みたいが今はそんな場合じゃない。
扉にはクリスタルが付いている。
王の間や宝物庫よりはましなので魔力によって開けた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息を整える。
実はかなり長い廊下だったせいで走った距離は1kmくらいに及んだ。
同じ廊下に出てしまった時もあるのだがそれでも広すぎる。
「ふぅ…。ここは何の部屋だ?」
整った息で小さくつぶやく。
質素な壁や床に下への階段。
長い長い階段なんてことはなく数段下りて終りという軽いものだ。
この部屋を少し掘り下げておきたかっただけだろう。
建築でもそんなことにこだわる人がいるとかいないとか聞いたような気がする。
どうでもいいことだが。
(!?……危なかった)
不用意に階段を下りたことを後悔した。
なぜなら、下ったすぐそこに人がいたのだ。
あの様子ならば俺はまだ見つかってないようだが要人はすべきだ。
装備は頭だけを保護するようなヘルム。
頭部全体を覆うようながちがちなものでなくて助かった。
体はチェーンメイルで防御よりは機動力を重視した作りだろうか。
椅子に腰かけあちらを向いている。
こちら向きに座られていたらちょっとめんどうなことになっていた。
「さて、折角入った部屋だからな別のチャンスを待つくらいならここをどうにかするか」
とはいえども、現在俺は素手である。
武器なんて持っておらず、攻撃力は皆無に等しい。
殴ろうものならばあの装備で逆に手が傷んでしまいそうだ。
「……落せばいいか」
だからといって、対処法がないわけではない。
日本人はこんな場面でも戦えるように技を編み出してきたのだから。
どうするのか?
別段、特に変わったことをするつもりもない。
ただ、絞めればいいのだから。
忍び足で極力俺のことが気取られないように背後に迫る。
中二病というのは面白いもので、かっこいいと思ったらそれを実践したくなってしまうのだ。
まぁ、俺のことだが。
つまり、俺は忍者の動きにかっこよさと憧れを持ちまねたことがある。
素人同然の忍び歩きでも、なるべく音を立てないようにすることくらいなら可能。
なんなく、後ろを取り、締め上げた。
「ぐぅぅぅぅ!!!!」
「お前にうらみはないし興味もないのだが、俺のためだ。しばらく寝ていろ。安心しておくといい。お優しい仲間が助けに来てくれる。そのうちな」
「は、なせ…」
抵抗する男の首に腕をからませて絞める。
気道を抑えられ空気の補給が困難となった男は抵抗も虚しく、意識を手放していく。
俺はゆっくりと床に男を寝かせた。
(…しまったな。こいつからあそこまでの道のりを聞き出せばよかった)
今更そう思っても時すでに遅し。
男は気絶してしばらくの間目覚めることはないだろう。
「なにか捕えておくものは…。ちょうどいい」
近場にロープが落ちていたので椅子に座らせ括り付けた。
これで起きても逃げられない。
兵士の所持している剣を拝借しておくのも忘れない。
ロングソード。
鞘は紋章は彫られており装飾に手を凝ってあった。
剣の方も刀身は普通なのだが束は装飾が付いており邪魔だ。
小ぶりの宝石が取り付けられ、いよいよ武器として使うことを目的としているのか怪しい。
(こっちの方が武器として向いていないか?)
サブウェポンとして携帯されていた短剣もあったので回収。
こちらは実に実用的で、使い込まれた後もある。
この男、こちらを主力として使っていた感がある。
わざわざうっとうしいロングソードまで携えてなにがしたいのやら。
短剣を主力として扱うのならロングソードなんて持たず予備の短剣を数本仕込んだほうがよいだろうに。
「……なるほど、こいつもかわいそうな奴だな」
ロングソードをよく観察すると装飾にエルモンドの名が彫られていた。
この剣はエルモンドに係わる剣で、たぶん功績でもあげたから下賜されたのだろう。
受け取ったのはよいが、短剣を使っていたか、王から頂いた剣を持っていながら他の剣を腰に差すなど許されなかった。
王からの好意はありがたいが、もらった物は邪魔以外なんでもなかったと。
予測でしかないが、大きはずれていたりはしないと思う。
「にしても、ここはなんの部屋だ。とりあえず部屋があったから入ったが…」
俺はまだ、ここが何の部屋かまでは確認していない。
扉の前にも看板なんてなかったし確認のしようがなかった。
この部屋どころかどこの部屋にもそんなものなかったことからどこが何の部屋なのかは全員把握しているようだ。
「ふむ、これは手錠か、こっちは鎖?」
男のふところをあさり武器以外の所持品を床に並べてみた。
手錠、鎖、鍵などとここがなんのための場所か所持品が教えてくれた。
ちょっと進めばこんなものがなくても一目瞭然になったが。
「牢屋だったのか」
ここは牢屋だ。
鉄格子が張られ罪ある者が捕えられている。
常識を守ってルールの中に生きていればまずこんなところに来ることはない。
外でと違いかなり制限はかかるし、労働させられるしでいいこともない。
常人はこんなとこにきたくもないから法を遵守する。
そこから外れた人間がここにいる。
犯罪者とは接点を持たぬようにするのか一番いい。
「まぁ、牢に逃走者がいるなんて思わないか。逆に安全ともとれるのかもな」
椅子など座る物があるとよかったがあいにく男―おそらくは看守―を縛り付けてるので使えない。
二個椅子があってもいいだろうと言いたいところだがあきらめた。
壁を背に、俺は腕組をしながら地べたに座り込んだ。
牢獄の中には汚らしい男や蛇のような女。
まぁ、堅気とは違った雰囲気の奴らが入っている。
汚れていて掃除されているのかはだはだ疑問だが牢の外の床は清潔感はあるので掃除が行われているのだろう。
それなりの距離を走ったので足に疲れが来ていた。
体力はまだあるが、あまり走ってばかりはよくない。
スタミナは温存しておいた方がいい。
これから遠出しようって時に車のガソリンが足りない。
ガソリンスタンドがないから補給は不可能。
電波も繋がってないから助けも呼べない。
俺のスタミナが切れるのはそうなるのと同義だ。
隠れるついでに、休憩とこれからどうするかを考える時間ができてちょうどよい。
「隠れてるのはいいが、追跡の魔法とかあったら居場所がばれてるんじゃないのか?…はぁ、悪いことばかり想像してもどうにもならんか。可能性の一つとして頭に入れておけばいいな」
冷静になった頭で、これからのことと、今までのことをゆっくりと思考する。
すると、浮かんだのはなぜ俺があそこまで感情的に動いたかということ。
自慢ではないが、俺はもうちょっと自分のことを冷静な男だと評価している。
いらついたくらいで、癪に障った程度で、気に食わないなんてことで、自身が追い込まれるようになる行動を取ったりしない。
「……もしかして」
思い当ることはあった。
いつもと違うこと、今日初めて変わったこと。
今日はどちらも大量にあったろうが、特に怪しかったのは、ステータス。
EXPマップの内容が一番しっくりきた。
ふところから取り出してステータスを表示。
全ての文字が浮かんだところで、詳細のチェックが済んでなかった物を細かく見ていく。
最初は即死魔法から。
即死魔法
―――――――――――――
・マインドデス MP消費1000 生きながらに殺す。
・デス1 MP消費50000 絶対の死を贈る。
need skill point 1000
―――――――――――――
「―――――っ!?」
言葉もない。
逸脱しすぎた魔法に絶句するしかなくなる。
名前からしてこういう魔法であるのは明らかであったのだが、これは露骨に強すぎる。
(この魔法…。MPさえあれば俺は魔法戦最強になれそうだな。それに、まだ先がある)
MMOなどオンラインゲームでのPVPは魔法職より戦士職の方が強い。
例外もあるのだが、魔法などは詠唱の隙があったり、MPの枯渇で戦えなくなったりと弱点も多いからだ。
アルゴリズムが決定づけられているMOBならまだしも対人においてはその弱点はチャンスになる。
まぁ、ほんとうに強い作品では強いのだが、総じて安定した強さを誇るのは戦士職だ。
俺は、攻撃力や素早さを高め、近距離戦闘に少々魔法を交えて戦うプレイングが好きだ。
この世界に来れて現実でその戦い方をしてみようとしていたがこのような魔法があると魔法のステータスのガン上げ。
及びに魔法の道を究めるのも悪くない。
闇魔法の使い勝手はよさそうだ。
そこに、こんな化け物魔法が混ざってくるのだ。
これならば、最後の邪眼も期待してよいだろう。
俺は短絡的だが、どうしようもないそんな頭で邪眼の文字に触れた。
魔力を宿して触れただけで詳細に切り替わっていたのだが、
(ん、なぜだ?反応しないだと?)
EXPマップは反応を示さなかった。
数回EXPマップに触れいていて前回は触れるとほぼ同時くらいに変化が訪れたのだが。
他の人間にもこんなことが起こりえるのだろうか。
それとも異世界から来た俺だけに起こる不具合なのか。
理由はいずれにせよ解明しないといけない。
邪眼が必ずしも良性なスキルとは限らない。
誰か、知識が豊富な人物との繋がりがあるならば教えてもらえたのだが、颯爽とその繋がりを打ち消してきたのは俺だ。
今更どうこう言ってあいつらにこびへつらうのはまっぴらだ。
「とりあえずは魔法を試してみるか」
というものの魔法の使い方についての知識がない。
魔力の扱いだけならって魔法の使用法については一切会話がなかった。
「チッ…大賢者に聞いておけばよかったか」
今更ながらに後悔したって遅い。
早いうちに魔法の使い方を吐かせるべきだった。
使い方に何の検討もつかないことはないが、たぶん使えない。
「今までのパターンだと、まずは魔力を纏っておけばよさそうか」
手に魔力を宿してみた。
まずは挑戦してみる。
「ダークボール」
どの魔法で試すか迷ったがなんとなくで発動させて貴重な魔力をなくすのも嫌なのでMP消費がもっとも低い魔法にした。
もしかしたら、これでうまくいってくれるかもしれないと期待したがそう都合よく行かないのが人生。
「ダークボール」
魔力を込めて名前を言っただけだったのでお次はニャンスや発音の問題かもとより英語表現で発音。
ダークボールが英語なのだからどっちかといえばこのほうが確率は高いはず。
成功するかは置いておいたとしても。
「ダークボール!」
躍動とそれっぽい動きも追加してみた。
楽にはさせてもらえないようだ。
うんともすんともいわない。
「……おい、何を見ている」
俺に刺さる視線の主。
牢屋の中の住人を軽く威圧。
人の事をジッと見ている不届き者のいる牢屋の中には二人の子供がいた。
片や真っ赤な髪に真っ赤な目を持つ少年。
片や真っ白な髪に真っ白な目を持つ少女。
紅白で色が違う二人だが顔つきや背丈はよく似ている。
「なにをしているのですか?」
「お前らにかまってる暇はない。頭を使え」
小さき者などいなかったと魔法を使える何かがないかと考えた。
しかし、知識はある俺だが知らないことまでは把握していない。
名案が浮かんできてくれるなんてこともなく時間だけが浪費される。
「はぁ……二つ名でも見ておくか」
ため息一つ吐き出してEXPマップの二つ名の勇者or魔王を詳しく調べることとした。
さぁっと詳細が現る。
何気なくEXPマップを使うたびにMPが減っていってる。
ステータスのMPがちょっとずつ下がってきた。
20程消費してしまっている。
ステータスを見るだけなのにMPが削られてしまうとはとんだクソゲーだ。
現実なのだが。
俺はステータス確認しただけでMPを使うゲームなんてあったかと思いめぐらせた。
(っとくだらないことを考えてる暇はないか)
さっさと浮かんでいる二つ名の詳細を見やる。
俺はアメリカ人をほうふつとさせる素振りで目を覆った。
oh…。そんな幻聴が聞こえてきそうなジェスチャー。
<勇者or魔王>
―――――――――――――
勇者にも魔王にもなりうる君に与えられる名。
感情によって精神に干渉する
善なる時は勇者のごとく、悪しき時は魔王のごとく行動することになる
勇者と魔王。対極で矛盾してしまう君は特別である
―――――――――――――
王のまえでの行動全般はこの二つ名に強く影響されたから。
つまり、俺の苛立ちを悪しき時とし魔王のごとく行動することになる効果が発揮されたと。
俺は魔王ではないので魔王になろうと発動し精神に干渉したようす。
苛立ったからといって短気に感情で動いたりはしない。
あまりにも行き過ぎていたならば理屈とか関係なしになるがあのくらいでは暴走しない。
馬鹿げた二つ名の干渉ありきの言動であったのだ。
「苛立っただけなんだがな…。これくらいで悪だなんて二つ名は綺麗好きか?」
手の中の紙きれに向かって皮肉を浴びせた。
紙なのでそんなことをしてもちっともストレスが解消されない。
人間の感情の起伏はおどろくほどに激しい。
上機嫌でスキップしていたようなやつが10分後には憤怒で塗りつぶされてたりなんてざらだ。
だから、小さいことで悪だとか善とかで効果をはっきされるのは面倒だ。
どっちかといえば悪のほうに偏りやすいのが人間であるのでさらに達が悪い。
もしも、俺と同じ二つ名を持つ者がいて、其の者が勇者の一面しか覗かせないならそれは危うい、偽善者だ。
嫌いな人種だ。
(どちらにせよ、俺には勇者としての道は存在してないようだ。ちょうどよかったのかもしれんな)
落ち着いている今ならば冷静な判断をしやすい。
二つ名もふざけるなと某俺のあだ名の根源のように喚き散らしたがあきらめるほかない。
そして、こうなったらと俺は腹をくくる。
「本腰入れて魔王を目指す…か」
強力と思わしき魔法もあるのだ。
魔王になることを到達点としてもよさそうだ。
「そうときまったなら禁書をとっておさらばしないとだな」
しかし、次の行動が決まったそばから邪魔が入る。
牢獄の外の俺の姿を注視する有象無象の囚人たちのまるで砂漠にオアシスかなにかを見つけた探索者のような目。
底知れない気持ち悪さのある視線は俺の背筋を冷やした。
その視線の主の一人、赤髪の少年は俺に対し懇願した。
「ま、まってよ兄ちゃん!!」
「…何だお前。俺はこれからやることがある。ガキにかまっているほど暇な身じゃないんだ。忙しいんだよ」
「それならちょうどいい!俺らを連れてってよ!」
「断る」
きっぱりお引き取り願う。
厄介事は抱え込まないようにするのが一番だ。
すでに大きな大きな爆弾(厄介事)をふところにしまってしまっているが。
「頼むよ!俺らは悪い事何もしてないから!」
「犯罪者の上等句だろうが、それは。ひとついい事を教えてやろう。悪い事をしてないやつは汚い牢獄の中に捕えられたりはしない」
「ほんとなんだってば!」
豚箱にぶち込まれるような子供なんてろくなもんじゃない。
なにがあってもお断り。
だが、俺は軽い違和感を感じた。
(なんだ?こいつらの牢屋。他のと比べてやけに綺麗だな。毎日掃除されているようにしか見えない。それにほかの牢獄内には設置されてないベッドがあるだと…?)
この赤髪の少年と白髪の少女を閉じ込める空間は囚人を捕えておくにしては不自然なほどに清潔。
横の牢と比較してもきれいだ。
牢屋を綺麗に保つなんて風習があるようでもないのに。
暗い中よくは見えないのだがよく注目してみれば血の気もあり顔色もすぐれている。
食事をきちんと取っている証拠。
囚人にまともな食事を与えるような王ではないはず。
お世辞にも良い人ではなかったからな。
むしろかなり合理的な男だったろう。
だから、この二人のそのほかは皆顔色が優れず青白くなっていた。
「…………お前らはなんだ?」
おかしなことなので質問を繰り出し様子見。
まぁ、納得のいくような回答を提示してこようが提示しまいが俺はどうこうしないが。
「それは、言えません」
「そうか」
力の籠る目で少女が言った。
それならばもう用はない。
俺は踵を返し背を向けた。
「まってよ!」
そんな俺を少年は呼びとめる。
「……なんだ。出してほしいのか?―――ほざけよ。俺に情報を渡さないくせに俺はお前らのために動けと?世界は常にgive&takeだ。なにも与えない者には何も与えられない」
「で、でも・・・」
互いの顔を見合わせる二人。
アイコンタクトで相談でもしてるのだろうか。
しばし見つめ合いが続くと少女は首を左右に振り少年はうなだれ肩を落とした。
「もういい。俺は時間を使いたくないんでな」
「すみません。こちらは素性をあかしたりすることは無理なのですが、絶対にあなたの役に立つことができます」
「……役にたつ、お前らがか?馬鹿も休み休み言え」
「私は魔法を使い戦えます。自慢じゃありませんがそこら辺の魔法の使い手よりも格段に腕はいいと自他共に認めるほどだと断言できます。セキは武器を用いての戦闘が得意です。さらに、多少ですが魔法を使えます。城には兵士がいて、大賢者、魔導師もいるのですよ?あなたにとって私たちがいるのは絶対にプラスになると思いますが」
「……で?」
俺に広い物をする機会があらわれたかもしれない。
こんな薄暗い牢獄に捕まっているくせに待遇は悪くない。
そのうえ何かを隠しているときた。
抱え込めばメリットもある。
ただの戦力としてもいいし、知恵袋としてもいい。
しかし、きっとデメリットも大きいはずだ。
だが、うすうす感ずいてるがおそらく捕まっているのは大罪を犯したとかそんな大それたものではない。
これは確信にも近い。
罪を犯す人間、犯した人間は周りから嫌悪されやすい。
こんなとこでそれなりの待遇でいられるのは事情のせい以外になにがある。
ろくなもんじゃないのには変わらんが。
俺に必要な魔法の知識を取るか。
余計な厄介事を持ちこまない代わりに戦力と知識を捨てるか。
なるほど。
厄介な二託だ。
「おい。そっちのガキ、お前は俺らは悪くないとほざいたな?それはほんとうか」
「ほんとだってば!俺らは悪くない!」
「……」
鍵はなんだかたくさんあってうっとうしいがどれかがこの牢屋の鍵のはずなので開けられる。
探し出す手間もいらない。
鍵を牢獄の中に投げ込んでやり自分たちでさがさせればいい。
(どうしたものか…)
「おい、嘘偽りがないと、お前らは心から言えるか?」
「出してくれるの!?」
「黙れ。質問に答えろ」
「ありません」
きっぱりと言い切ったのは少女のほうだ。
にらみを利かせた目でじっとその眼を見つめる。
これでも人を視る目は生きてる上で培ってきた。
その俺の経験が、嘘はない。
騙そうとはしていない。
そう告げた。
「……秘密は隠したままでいてもいいとしてやる。だが、俺の必要な情報は残さず吐け」
「いいんですか?」
「あぁ、それとお前らはここを出て情報を俺に残したらさっさと消えろ」
「それが条件ですか?」
「不服か?」
「いえ、どちらかと言えば満足です」
何故か、助けたらこいつらが付いてくる前提で進めていた。
馬鹿か俺は。
ゲームなんかのやりすぎだ。
助けたキャラは付いてくる。
そんなのゲームないだけだろうが。
こうやって厄介なものを遠ざける方法はいくらでもあるじゃないか。
「せいぜい役立て」
「うん、約束するよ!」
「お前には期待してないから安心しろ。用があるのは白いほうだけだ」
「ひどっ!?」
ガビーンと少年は憤慨した。
知ったことではないが。
俺は魔法のための知識がほしい。
戦力として数えられるのだとしても、一時的な協力関係でしかないのだ。
共に行動する時間は、極端に短い。
はっきりと言ってセキはいらない。
「魔法。まずは最低限それについて教えろ。あとは、一般的な常識などだ。後者は後でいい」
「魔法について教えるのですか?」
「あぁ、前払いとして教えろ。そうしたら城の外を目指す」
「…?わかりました。えっと魔法についてと言いますが、あなたは魔法を覚えていますか?」
「覚えている。だが使用法がわからん。MPも足りているがどうやればいいんだ?」
少女は大きく首をかしげた。
おかしな点でもあっただろうか。
俺はただ事実を伝えただけなのだが。
「それはおかしいですね」
やはり何かがおかしかったのか。
少女は腕組をして唸った。
「おかしいだと?」
「いえ、もう一度聞きますけど魔法は覚えているんですね?」
「そうだと言っている。逆に覚えてもいないのなら教えてもらおうとなんて思わないだろう?で、おかしいとはなんだ?」
「いえ、魔法は覚えた瞬間に頭に知識が流れてきてなにもせずとも使えるようになるはずなのですが…」
「……覚えた瞬間だと?」
「はい、なんならもし使い方を忘れることがあっても意識さえすればいつでも魔法の発動条件を思い出すことすら出来ます。たしか、全ての記憶を失った魔法使いが魔法の使い方だけは完ぺきだったという峰を書いた本がありました」
ならばどうして俺には魔法を扱うための知識が流れてこないのか。
ある過程を数個用意してみた。
そのなかで、他の過程よりも確率が高い予想。
実は、俺が魔法を覚えたのは元の世界で。
しかし、魔力も何もないあっちじゃ知識が流れてくることもなく、俺は魔法を知覚できない。
そして、こっちの世界にやってきのはいいがあっちの世界で覚えた壁害か知識が流れずに留まっておると。
この仮説はスキルポイントを集めて新しく魔法を覚えればおそらく実証することとなる。
なんにせよ、使用不可なため経験を積んでスキルポイントを100溜めなければ。
じれったいものだ。
魔法を覚えているのに使えず、新しい魔法を覚えなければいけない。
それにしたところで、俺の建てた仮設が外れていたら魔法の知識は流れてこない。
原因を探らなければいけなくなる。
(チッ…めんどうだ)
「EXPマップが反応するなら魔力がおかいしいことはないでしょうし」
「それはそうだろうな」
もし俺の魔力がどこかおかしいならば、大賢者がなにかしらアクションを起こしたはず。
なかったので、俺の魔力敷いては魔力の扱いは問題ない。
あれでも、大賢者と呼称されているのだ。
そこらへんは専門だろうから信用してよさそうだ。
「あ、エンハンスの魔法は覚えていますか?」
「エンハンス?それなら覚えている」
「よかった。魔法の発動は魔法により様々な為、私ではどうしようもないのですが、エンハンスだけならどうにかなるはずです」
「なぜだ?」
「エンハンスの魔法は、他の魔法とは異なり万人で共通の使用方なので」
「つまり、エンハンスの魔法の使い方だけはわかると?」
「おもしろいですよね。魔法は魔法ごと、人ごとで使い方も威力も、消費魔力に形状も変わってくるのに、それこそ名前が同じでも魔法ごとに効果が違うっていうのに、エンハンスの魔法は共通だなんて」
おもしろいかは置いておくとして不思議だと疑問に思うのは賛成だ。
なにか、魔法にも規則性ってものがあるのだろうか。
深読みしたところでこの世界の知識の欠如している俺にはわからない。
「エンハンスの効果は?」
「対象に魔法と同一の属性の付与、加えて耐久や強度などを向上させ魔法に対する僅かな耐性を与える効果です。純粋な魔法使いになる程のMPはないけどもエンハンスの魔法だけは覚えてるという人も一定数いるので戦闘の開始時にエンハンスだけ掛けるという方も多いです」
「需要はあると」
「あるでしょう。強度も耐久も増すので武器にでも使えば切れ味が上がりますし、刃こぼれなんかもしにくくなりますから。おすすめはしませんが人体に使用してもいいですし」
「ほう、使い方は?」
「対象がないとまず使えません」
「まぁ、エンハンスだからな」
俺はそこら辺の手錠やらなんやらに試してみることにした。
別になんでもいいなら変な事になっても嫌だし俺の私物で実験しなくてもいい。
折角ポッケに俺の元の世界の思い出の品が入っていることだし。
ふと、そのポッケの中の物をつかむ。
俺の手によく馴染むそれは、
「……エアガン」
そう、エアガンがしまってあるのだ。
説明したとおり中二であるため、やはり自身の愛用する武器のようなものが欲しくなった俺の購入した武器がこれだ。
まぁ、刀なんかも惹かれたがとある戦争映画にはまり銃にあこがれたのだ。
そんなことから、俺はこのエアガンを基本自作したホルスターに収納していた。
今回も例にもれず携帯していたおかげで共に持ってこれたようだ。
エアガン、眼帯、コート、他はBB弾くらいなものか、この世界に持ってこれたのは。
「ま、これを使うこともない…か」
取り出すことはしなかった。
もしかしたら、相手を牽制するくらいはできても武器としては期待できない。
殺傷能力がないので、あたってもせいぜいちょっと痛いで済む。
だいたい、あんな重装甲な奴らにこんなおもちゃで立ち向かうとか馬鹿のやることだろう。
ちなみに、俺は『常闇の狂人』となんとも痛いネーミングの二つ名である。
付けたのは俺じゃない。
中二(同志)の一人が俺の在り方を見てぴったりだろうと付けた。
案外愛着がわいたのでそのままそれを名乗らせてもらっていた。
エアガンにも名前があり、勝手にアデスと名付け喜んでいた。
しっかりとした製品のホルスターがあればなおよかったが手に入らなかった。
自作なのはそのためだ。
ホルスターを作るまではポケットやポーチにしまっていた。
昨日はホルスターの糸がほつれたので直すためにポケットに入れてたが。
ホルスターはあっちの世界なのであたらしく作らないといけない。
(武器にならないと言っても、なんだかんだいって俺の愛銃…手元にあると落ち着くか)