3番
「光魔法や聖魔法はどうやら勇者の固有魔法のようですね。多くの者がこの二つの魔法を所持していたそうですので」
「・・・そうか」
「それと、魔法はEXPマップを映した時のようにして触れると、所持している魔法について詳細が詳しく見れますのでお試しください」
「あ?」
俺はてっきりどんな魔法が使えるのか聞いてくると踏んだが、はずれてしまった。
「どうかされましたか?」
「あ、いやな。俺の魔法について聞き出そうとするかと思ってたからな」
正直に答えてしまった。
「あぁ、すみません。説明しておくべきでしたね」
「なにをだ?」
「他人の能力の詮索は御法度です。マナー違反というのも有りますが、統治主次第では最悪処刑までありえます」
気付かぬうちに書いていた冷や汗を拭う。
そんなルールがあったとは助かった。
(相手がゴミ共だとわからんが、とりあえず大賢者はそれを守ってるようだな…運が良かったか)
一先ずステータスが露見して大ピンチなんて未来は回避された。
EXPマップを見下ろし闇魔法の文字を魔力と共に触れる。
説明どおりなれたのか酔いはもうない。
ヒョウジされていた文字はスゥッと消えていき白紙に戻る。
その上から新たに別の文字が薄らと浮かび上がる。
原理はよくわからないが、これは見ていて楽しい。
ジッと見つめる。
闇魔法
―――――――――――――
・ダークボール MP消費1~ 魔力を込めると威力が上がる。
・エンハンスダーク MP消費50 道具、もしくは自身に属性を付与および強化を与える。
・THE ダークネス MP消費30 自身を中心とし一定範囲への攻撃。
need skill point 100
―――――――――――――
「need sukill pointとはなんだ?」
「それは次に魔法を習得するまでに必要なskill pointです」
「?」
なんのことやら。
首をかしげる。
たぶんステータスのところにあったskill pointが関わっているんだということはわかる。
経験値のようなものなのだろうか?
「ステータスにskill pointとあるのは見ましたか?」
「あぁ」と口に出し、小くりと頷く。
ステータスをヒョウジさせたさいに一番上に書かれていた。
「戦闘を行ったり、訓練をして修練を積んだりすることによりskill pointが溜まっていくのですが、たまったスキルポイントはステータスの強化に使うのです。
ステータスを強化した際に使ったポイントのぶんだけニードスキルポイントは減っていきます。それが0になるとあたらしい魔法を習得することができます」
「ステータスの強化はどうやる?」
「それは、キラ様がご自分でスキルポイントを溜めた際にその文字に触れて頂ければ」
「実際に試してみろと言いたいのか?」
無言のままに会釈をしてきたので、俺の言葉を肯定してるのだろう。
「あぁ、一つ聞きたいことがある。というかもう一度聞きたいのだが」
「構いませんよ、なんでしょうか?」
「俺はまだ14だぞ?」
「はい、それは先程聞きました」
「わかっているのか?俺はまだこんな歳だ。なのに、なぜ俺を召喚したんだ」
高校生くらいの年齢ならまだしも俺くらいの年齢の、まだ子供を召喚したのはどうしてか。
少なくとも俺ならば、もっとましなのを召喚しようとするだろう。
例えばプロボクサーとか。
確かに勇者補正的な物のお陰でステータスはそれなりな物になっているが、軍人でも連れてくればこのステータスも、もっと引き延ばされていたのではないだろうか。
この世界の人間が俺を呼び出したのはどういった経緯があってのことなのか、どういった思惑の元なのかは知っておきたい。
なんて、思ったのだ。
よくわからない陰謀に巻き込まれてしまうなんて言うのは異世界召喚者ではお約束みたいなもの。
こんなことになるならもっと情報を集めておけばよかった!なんてことにはなりたくない。
俺はいろいろと考慮したうえで聞こうと思った。
だが、そんな心配はさくっと消えた。
「はっきり申します。理由などはありません」
「は、理由がないだと?」
「私たちは確かに勇者を召喚させようよ魔法を唱えました。しかし、これは任意で勇者を選び出す物ではなく、この術そのものが強制的にただ一人を選び出す物なのです」
「そういうことか」
要するに、こいつらが俺を自らの意思で呼び出したのではなく、魔法がランダムで俺を選出したと。
歳なんかは関係なかったってことか。
「詳しい原理はわかりかねますが、禁書を読み解くと召喚魔法は勇者としての素質がある者を優先して呼び出すようです」
「つまり、俺にはその素質があったわけか・・・」
他の素質も持っていたが、なんてことは言わない。
折角ひと段落ついて、助かったというのに自分から地雷を踏みに行こうとはしない。絶対に。
それにしても、やはり14歳という年齢の俺が召喚されたのはおかしいと感じたが実際はそうでもなかったようだ。
はたから見たら強そうでもないし、一応中二の恰好により目立ってはいるのだが。
やはり世界を救ってもらおうとだれかを召喚するならより強そうな人物を選出するのが筋だろう。
スポーツの引抜などと一緒だ。
弱い奴を引き抜いても何の意味もない。
強い奴を引き抜くからこそ意味があるのだ。
それにしても、少し考えれば、この可能性には至ったはずなのだが。
俺はちょっと先入観が強すぎるのかもしれない。
割と先入観のせいで物事を見落とすということはやってきたことだ。
何回か直そうともしたがそう簡単に治ってくれるものでもない。
思い込みは視野を狭める結果となるので、これは今後も直すべき課題のひとつになりそうである。
まぁ、俺の読んできた小説の中にはしっかりとランダムの方で召喚されるほうもあったから、思いつかなかったのは少し間抜けな話だが。
これがひどくなってしまえば、危険を危険として認識できない馬鹿と一緒になる。
魔王なんてのと戦いに行くのだ。
命のやり取りをしなければいけないのに自ら視野を狭めていったらいけないであろう。
一つ、二つとより多くの可能性を危惧しておくべきだろう。
「確かに我々は、こちらの都合で勝手にキラ様を召喚致しました。しかし、分かってほしいのです…。今はまだ余裕がありますが、いつ崩れてもおかしくない現状。この猶予が残されている間にどうにかして打てる手を打っておきたいのです」
「そのくらいどうでもいい」
俺が黙り込んだことで、大賢者は話題の転換をしてきた。
というかは懇願というのがしっくりくるかもしれない。
「ありがとうございます」
「で?他におれが知っておくことはないか?」
「えぇ、大事なことと言えば・・・と、それはまだあとにしておきましょう」
大賢者は耳に手をあて、独り言をつぶやいている。
「国王様が待っております。こちらへ」
「国王?」
日本なら非常に痛く、白い目でみられ社会的に死んでもおかしくないが、ここではそうならないだろう。
魔法なんて便利なものがあるくらいなんだ。
それに、ありかたがなんだか携帯と似ている。
きっとあれはテレパシーのような魔法なんだろう。
「国王エルモンド・カルヨダ・キギルツ様になります。召喚の成功の吉報が伝わったようなのでキラ様を王の間へと案内するように指示されました。私についてきてください」
「いいだろう。さっさと連れて行け」
この部屋からでる。
部屋から出ると、いきなり長く暗い階段がある。
かつかつとそれを登っていく。
一番上までに数分よ要した。
階段が終り、扉の前。
扉をひらけば辺り一面白白白。
長い廊下に繋がっていて、どこを見ても白ばかり。
大理石のような素材の建築物ばかりで少しの自然とよくマッチしている。
遠くに目をこらしたとしても、白色が続いているだけで先は見えない。
こんな場所にでたのせいで、場違い感を感じてしまった。
俺の恰好は全身漆黒状態。
真っ白な世界に真っ黒な男がいるのだ。
実にミスマッチ。
それに俺は夜などに目立ちにくいように黒いコートをこのんだのにこれじゃぁ反って目立ってしまうだろう。
あっちのほうに白色の服をした人が立っていても気がつかないかもしれないがあっちから俺はよく見える。
こんなところにいたら人目につきやすくなってしまう。
だが、幻想的であり現実からかけ離れたような気持ちにしてくれるこの場所は俺の心を奪っていった。
ヨーロッパ辺りの宮殿によく似ているが当然違う。
黒色を全面的に推す俺ですらもこの白色の美しさには感動を覚えてしまう。
「きにいりましたか?」
「そうだな・・・。これはなかなか美しものだ」
「それはなによりです。では、参ります」
一声かけてから大賢者は歩き出す。
国王の元まで案内するつもりなのだろう。
細かい細工なんかに気を配りながら俺は後を追う。
めずらしいどころでは済まされないからな。
「この建築物の素材は大理石か?」
「大理石?違いますね、それはキラ様の世界の鉱物でしょうか?」
「あーまぁそんなものだな」
「そうなのですか。質問にお答えすると、この城野床や壁には主にオリハルコンと鉄を混ぜ合わせて作られています。
純度も高度もオリハルコン単体と比べれば随分と劣る者となりますが、それでもよほどの手合いでないかぎりは壊すことも許されないでしょう」
「オリハルコン・・・か」
架空の金属の名をあたかも当然のように、いや当然なのだろう。
元の世界では空想の存在でもこちらの世界では存在する物のもすくなくない可能性もある。
とはいえども知識の乏しい今のまま考えてはらちがあかない。
歩きながら壁に触れたり、叩いて音を聞いてみたりとやってみた。
オリハルコンと鉄の合金というこの壁はすべすべしていて強度も素晴らしい。
「にしても、広いな。日本でこれだけの建造物に住もうとしたら金がいくらあっても足りんな」
マンションやビルとかみたいに部屋を貸しだしたのなら平気かも知れないが、この城の大きさは赤字になる。
税金を払うのは辛い。
どんな金持ちでも家計が火の車。
まぁ第一、公共の福祉などの法律があるので建設は許可されないだろうが。
「ん?あの扉はなんだ?」
厳重に固められている大きな扉を発見した。
巨大な鎖で開かないように何重にも固定されており、南京錠にはクリスタルのようなものがひっついている。
そして、俺の目にはそのクリスタルから白い光、おそらく魔力が立ちあがっているかのように見えた。
直感でしかなく、察するするしかないがクリスタルからあふれ出る魔力は相当だろう。
俺もクリスタルへと近づくのがなんとなかく憚られる。
「そこは宝物庫になっております。キラ様を召喚するにいたった知識が詰め込まれていた禁書はここにしまわれています」
「見張りの一人もいないぞ?ほんとうに宝物庫なのか?」
「この城には三つの宝物庫がありここは最後の宝物庫で、あまり重要視されていたものは収納されていないのです。最初は盗まれたとしてもたいして痛手にならないものしかなかったのですが、
姫がここから禁書を見つけたことで扱いが変わりました」
「扱いが変わった?」
「思わぬ掘り出し物に驚き、さらに禁書などというものが見つかり、他にもどんなものがあるかわからない現状ですので中の物を全て把握するまでは誰一人として立ち入りを許されておりません」
「その割にはザル警備に見えるんだがな」
俺だったら見張りの数人を用意する。
「あのクリスタル。キラ様は魔力を宿してるのを見ましたか?」
「あぁ」
「では、あのクリスタルの魔力の膨大さには気づいておられるでしょうか?」
それはなんとなくでだが気がついた。
確信なんてものは何一つなかったのだが。
「あぁ」
「あれを破壊するのには宿っている魔力を上回る量の魔力が必要です。ので、この扉を突破できることはそうそうありません」
「そうなのか」
無理に破壊しようとしたらさすがに音でわかるか。
なるほど、重要視されているのは間違いないようだ。
「もういい。さっさと国王のところへ進むぞ」
「もう宜しいのですか?」
「面倒ごとはさっさと終わらせる。まだ興味があったらその後で調べればいい」
「面倒事ですか・・・」
一国の王への言い草ではないと、大賢者は苦笑いをした。
止めていた歩みを再開する。
それにしても、人をみかけない。
それなりに歩いているのにもかかわらずだ。
人のひの字も見当たらない。
だが、それはそれとしておき俺は大賢者についていく。
気になればあとで調べるだけだ。さっき言ったように。
数分歩き続けたところでようやくぽつぽつと人の姿が現れた。
俺が召喚されたあの辺りはこの城では端だったりして人が早々近づかないとかそういうことなのだろうか。
さらに歩くこと数分。
使用人のような格好の人間やメイドの恰好の人物を見かけ出した。
長かった白い廊下は終りレッドカーペットが敷かれている綺麗な階段の元へとたどり着いた。
階段を登り終える位置には宝物庫の時より若干だが大きな扉がたたずんでいる。
大賢者が扉の取っ手に手を掛ける。
と同時に魔力を放った。
すると取っ手は白い光を放つ。
光は当然魔力のことで、宝物庫についていた南京錠のクリスタルと酷似している。
詳しい事はなにもわからないが、魔力を流さない限りは開くことはない扉だと認識しておいた。
ギィィィィィィィィ
大きな音を立てながら扉は開く。
「よくぞ参られた。異世界からの勇者よ!」
「・・・・・・・」
「どうかしましたか?」
どうかしましたかって、もっさりとした髭を生やしたおっさんが扉の前で出町してたら言葉もでなくなるだろう。
「こいつが国王でいいのか?」
「無礼だぞ!」
大賢者に確認をとったら髭の後方に控える兵士からそんな怒号が飛ばされてきた。
「よさんか」
髭は手を上げて静止する。
兵士は敬礼をするとすぐさま後ろに下がる。
「いかにも、私がこの国の現国王エルモンド・カルヨダ・キギルツである」
「ほぉ」
大賢者を一瞥。
急に視線を向けられたせいか首をかしげている。
(見た目だけだと髭の方が賢者って気がするんだがな)
見た目のイメージはそんなものだろう。
ローブをきて長い髭を生やした貫禄のある者。
俺の中の賢者なんてそんな抽象的な像しかない。
「勇者よ、すでに大賢者より我々が勇者を召喚した経緯については聞き及んでいるであろう」
「あぁ」
俺の態度が気に食わないようで先と同じ兵士が鎧を鳴らしながら前へ出ようとした。
他の兵士に止められたことで留まったが、どうもあれは感情で動くタイプのようだ。
「ならば話は早い。この世界を救うため、そちには魔王を打ち取ってもらいたいのだ」
「ふむ」
俺は一応考えるそぶりだけは見せておくことにした。
折角の異世界への勇者召喚。これを無駄にして魔王を倒して世界を救うなんていう人生において体験できるのはほんの一握りしかいない、それどころか実際に体験するのは数えられるほどの人間しかいないだろう経験を積むのは吝かではなかった。
とはいっても、念のために聞いておくべきことはあるのでそれくらいは質問しておくべきだろう。
「その答えは、俺の質問に答えてもらってからにしようか」
三度兵士が文句ありげにしている。
わざわざ視界に入れたりなどはしていない。
加えて放置安定。
「これは聞いておきたいが、俺は元の世界に帰れるのか?」
この問いかけの答えは基本的に異世界ものではNOと返ってくる。
理由は簡単だ。
勇者をつなぎとめておくため。
帰れないのだからこの世界を救うしかないのだと思わせるためだ。
帰れるのだから早く返せ、家に帰りたい危険なのは嫌だと御寝られるのは困るから。
よくいる偽善者主人公たちのように正義感だけで、損得関係なしに、誰かのために何をやれる人間なんて実際のところいないだろう。
それだからこそ物語の主人公はそうなのだから。
ありえない理想を空想にぶつける。
それが完成された正しい主人公というやつだから。
「送還の魔法は今のところ見つかってはおらん」
「まぁ、そう答えるだろうな」
誰にも聞こえない程度の声音で微笑。
国王や大賢者、周りには届かず声は無散していく。
「だが、今のところは、である」
「いまのところは、か」
「そのとおり、今のところ送還の魔法が記載されておる禁書などは発見されてはおらん。が、召喚の魔法が存在しておるのだ、その逆が存在してもおかしくはあるまい?」
巧い事言うものだ。
不覚にも感心しそうだそのふてぶてしさに。
これなら送還の魔法がすでに手元にあったとしても隠しておける。
仮に見つかったのならば、ようやく手に入れた。とでも言っておけばいい。
持っていないのが真実ならばそれを魔王討伐にこぎつける。
俺なら禁書を探していけばいつかは見つかるはずだ。魔王は禁書を所持している。この二つの情報を俺に伝えるか。
ずるいが、賢い。
なんとなくでしかないがこの国王は優秀。
駆け引きをするのはそれなりに得意なのだろう。
「もし勇者であるお主が期間を望むのならば我々は尽力を尽くして禁書を探し送還の魔法を見つけよう。しかし、我々ではさすがに暗化した大陸には手を出せん。それを何とかしてもらいたくお主を召喚したのだ、どうだろうお主が心から帰還したいと願うなら自身のためにも魔王を倒してもらいたいのだが」
(やはりそうくるか)
想定していた通りの受け答えに頭は切れるだろうがアドリブに弱そうな印象を受けた。
「別に元の世界に戻りたいなんて思ってない。あんな世界クソだ。滅べばいいくらいにな」
「それはこちらの願いを断るということか?」
「早とちりするな。俺は、俺の世界をクソでどうしようもないゴミだと評しただけだろう?」
「ならば、こちらの希望をかなえてもらえると解釈しても構わないか?」
「ふむ…」
王の間をぐるりと見渡し観察。
兵士達、王の座席から見て左手に用意された椅子に腰かけ成り行きを伺う、おそらくは貴族か何かの者達。
召喚されたあのへやにいた魔法使いのような格好の連中に大賢者、大魔導師。
最後に国王。
どいつもこいつも勇者なら受け入れて当然とそういう表情をしていた。
気に入らない。
ギリッ
歯と歯が擦り合わされる音。
発信源は俺だ。
(結局のところ変わらないか。どこへ行っても欲ばかりだな。人間は期待して、ご都合解釈をして、大人数の意見が自身の物と一致すればそれを善の正しいことと勘違いする。自分勝手で相手を道具か何かとしてしか見れない)
腸が煮えくりかえってきた。
たまにはそうじゃない俺の基準でのいい人もいるが、基本的にはこんなやつらばかりだ。
目を見ればわかってしまう。
「私は勇者であるお主に懇願させてもらおう。どうか、魔王を討伐し、我々の世界の平和と取り戻してはくれまいか」
(駄目だ。気持ち悪い。これじゃぁ元の世界にいた時と変わらないぞ…。大賢者を見たときはもしかしてと期待したが―。あぁ、別にあいつは特別だったってわけでもないようだな)
大賢者を一瞥したのは特に意識してのことじゃない。
ただ気が向いたからというのか一番近い。
だが、それで俺の回答は完全に決まった。
歯ぎしりが静けさの中に一つ。
皆はその音を異にも解さない。
だれしもが俺の次に紡がれるであろう言葉に耳を傾け待っている。
だが、そこには安堵しかない。
それが気に食わなかった。
「…………断る」
―――――――――――――――は?
国王は、それだけでなく、そこにいた全員が正しいだろう。
全ての人間は俺の回答に表情も、その動きも固めた。
沈黙し、答えを待つこいつらに断られるなんて未来は存在しない者だったのだ。
困っている人を助けるのが人情。
バカな事を。
人間は十人十色だが、必ず共通するところはある。
それは、自分の意思が一番大事だということだ。
誰かのため、世界のために、御立派な感情だ。
欲の為、願いの為、大層結構だ。
俺に言わせれば両方同じものでしかないが。
「な、なぜ…こちらの願いを拒否するのだろうか。命の危険はあるだろう。困難で険しい目標なのもわかるが、しかし…」
お前は勇者だろうと、国王が言わんとすることは聞かずとしても聞いたようなものだった。
「態度が気に食わないからだ」
「た、態度が気に食わん…だと!?その程度の理由で…。よし、ならば態度など今すぐにでも改めようぞ!言ってみよ。態度はどうにかしよう。望むならばお主の気に障った者に処罰を与えてもよい。あとは―」
「違う。違うんだよ国王」
「何が違うと申すのだ!!」
俺は魔力を纏う。
真っ黒なのだが、透き通るように輝いていた魔力は、なぜか濁り、光から透いて見えていたはずの部位は見えない。
王の間に動揺が走る。
俺が魔力をすでに扱えることを知っているのは大賢者一人だからだ。
もしかしたら何か道具を使うか魔法を使うかしてすでに伝わった事実だったかもしれないがこの驚きようは、俺の魔力に関し初見のようだ。
勇者召喚について知る為禁書は読んでるはずのお偉いさん方のはずなので、過去の勇者の例と比べているのだろうか。
しかし、俺は見逃さなかった。
俺の言葉と行動に、苛立ちと、憤怒、そして大きな欲を燃え上がらせているのを。
「キ、キラ様!?」
大賢者も不安げに近づいてきた。
「あぁ、大賢者には一応感謝を述べておこうか。お前のお陰で俺はこの世界でも生き抜けるはずだからな」
「そんなことはどうでもよいでしょう!なぜ、なにゆえに断るのですか!」
「態度が気に食わなかったと言ったはずだろうが。ここに来て言葉わかりませんなんていうなよ。お前は中国人か」
「あなたは、自身が勇者と言われたときあれほどまでに喜んでいたではありませんか!チャンスを棒にふるつもりなのですか!」
表に出したつまりは無かったのだが、俺の召喚された喜びは大賢者に見抜かれてしまったか。
こいつにとってはそれは勇者として呼ばれた喜びのせいだと脳内で思っていたみたいだが。
大賢者は徐々に徐々に声を荒げていく。上に立つ者であるためなのか冷静さを保とうとした感じだったが、これ以上の感情の制御ができなかったのだろう。
「勇者として召喚され喜んだんじゃない。異世界に呼ばれ、くだらない世界から抜け出せて喜んだだけだ。そこにそれ以上もそれ以下の感情もない」
嘘はない。
ニタァとした笑み。
このお偉いさん方からはどう見えるか。
きっとろくなもんじゃないとは分かってもらえてるんだろうな。
「それに、勇者として召喚されて、俺がそれを喜んだのだから勇者になってくれるなんて理屈はおかしいだろ?俺が勇者になるとだれが決めた」
「なにを…」
国王は目を見開く。
大賢者へとすぐさまに指令を与えた。
「ただちにこ奴のステータスを調べよ!」
どよめき。
マナー云々というよりはもしかしてステータスののぞき見は忌み嫌われてる行為なのかもしれない。
大賢者から詮索や覗き見は御法度なのだと伝え聞いていたので思考は追いついた。
位地国王ともあろう人物がやるようなことではなかったか。
王としての尊厳の問題になってくるのだろうきっと。
民達の手本になってしかるべき王が自ら忌むべき事をしたことで何かしらと感情的になったか。
もっとも俺の知ったところではない。
「さ、さすがにそれは……」
大魔導師もそれはどうなのだろうとたしなめていた。
当然と言えばそうなるのだろう。
しかし―
「やるのだ!!」
「………はっ!」
深く重く返答し大賢者は魔法を使った。
なぜ使ったと断言するのかは、大賢者が魔力を纏ったからだ。
心を読んだりステータスを見たりと多彩な事で大変喜ばしい。
ステータスは隠しておこうとしていたが、あきらめてさらすのもいいだろう。
「こ、こんな馬鹿な!?」
「なんなのだ!早く伝えよ!」
「ステータスが歴代の勇者たちよりも――」
「どうでもよかろう!私が知りたいのは二つ名のみだ!」
この王はやっぱりおもしろいな。
ステータスを調べさせたことといい。
能力値よりも二つ名なんかを最優先としたことといい。
嫌いだ。
ルールやマナー、伝統を守るコンプライアンスは必要。
といっても、俺はそれを臨機応変に切り替えるべきであると断ずる。
楔となっているだけならば解き放つ時も来るべきであり、どうせさびていつかは開く。
ならば楔をどう利用するかが大事になってくる。
「勇者or魔王。こんな二つ名……あぁ、そんなことが――」
「ありえん……こんなことがあっていいはずが――」
二人から、三人目。
三人目から四人目と驚愕の連鎖は終わらない。
最後の一人まできっちりと連鎖は繰り返される。
魂の抜けた、それどころかもともと魂の無い器だったように固まり動かなくなった。
吐息の音のみが聞こえる。
面白いほどに望んだ流れになってくれたようでなによりだ。
ニヤニヤとした笑みが治らない。
「さて、さしずめ俺は勇者にも魔王にもなれる。さながら偽善に走る勇者(馬鹿)と欲を満たす魔王(天才)は紙一重って感じだ。俺の記憶に間違いがないなら、二つ名はその時その者に正しくもっとも『らしい(・・・)』ものになるそうだな」
「回りくどい。何が言いたいのだ」
「こういうのは過程が大切なんだろうが黙って聞いてろ。――俺はなどちらにもなれる奴が勇者にはならないと決めたことに着目してもらいたい」
「まさか!?本気なのか。それは愚かと括られるのだ。いいやそれどころかただの狂人と同義であるぞ!」
「それが?」
「!?」
魔王になる身振り手振りでわざとらしくアピールしただけあって国王は物申した。
今この王の間。
だれがこようとも王の間であるかぎり主役は国王になるはずのこの王の間で、誰よりも、国王よりも注目を集めるのは俺だ。
「俺は俺のために、俺が楽しいように、俺の気が向くままに、俺として生きていけるように――」
俺の両手は大きく広げられ、天に上半身はのけぞらせている。
なにかに酔うように軽い足取りで歩きまわる。
黒く、黒く、黒く。
誰よりも黒い俺はだれよりも染まりきっている。
「逃げさせてもらおうか」
「は?」
「俺は知識も経験も能力もおそらく不足気味なんだろう。でもな、俺は強くなるぞ?天才が秀才に負ける通りはないからな。まぁ、首を長くして待ってろ。そのうちに魔王変更のお知らせってやつが届くさ」
「待たんか!!」
「お断りだ。さらばだ、また逢う日までな。次会うときは俺がここへ攻め込む時なのを祈っている」
何の目的もなしに俺が大きな動きをしているはずがないだろう。
ミスディレクション。
手品の常とう手段だ。
意識を別の物に向けてやる技術。
俺の言葉、行為、目的などに意識を移し紛わせて俺がどこに陣取っているかを気にされないようにした。
無意味に歩いていたんじゃない。
俺は立ち位置が扉の一番近くになるようにしていた。
それだけのことでしかない。
しかし、一歩でも行動が遅れてくれたらもうけもの。
扉を開けて逃げ出すくらいの隙にはなってくれるさ。
さいわい、兵士たちは鎧ばかりなので助かった。
扉の開く速度はそこまででもない。
魔力を大量に込めれば変わるのかもしれないが、大賢者が開いた時そんなに勢いはなくむしろゆっくりだった。
ならば、俺が狭い隙間を抜けるのと兵士が抜けるのにはラグが存在してくれる。
速度的には2、3秒は稼いでくれるだろう。
それだけの時間なら約2,30mは走れる。
鎧を着込んでるのだから動きは鈍いはずの兵士に追いつかれるはずはない。
俺は大層な演説中はこの作戦のようなものがうまくいくよう祈ってた。
失敗したら恥ずかしい思いをするのはこっちだからな。
「ビンゴ」
嫌な音を立てながら扉は開く。
「その者をとらえよ!」
「遅かったな国王!」
兵士が俺を捕まえようと前に出てきたところで扉はもう俺が通れるほどの隙間があいている。
俺に伸びた手をするりとかわしその隙間から逃げ出す。
予想が当り兵士は鎧がつっかえてしまってあの狭さだと抜けられないようだ。
広い城内。
長い通路に多数の曲り道。
逃げ切れる自身しかない。
全力疾走。
俺は全力疾走をしている。
メイドや執事などが横をすぎていく。
目指すのは人のいないところだ。