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11番




「ふざけ過ぎだっ!?」


今は街を抜けしばらく歩いたところにある森の中。

そこで、ひたすらに剣を振り回している。


「グギャアアアアァァァァァ‼︎‼︎」

「静かにしていろ!」


俺に向かってくる汚らしい見た目をした人によく似てはいるが、人と異なる生命であるゴブリン。

正確には、魔物は生き物として定義しないそうだがそこは、さしたる問題ではない。

ここでの問題は、俺が処理しきれなくなる寸前の量のゴブリンが群れを成し襲いかかってくることだ。

救いなのは、ゴブリンの個々の能力が非常に低いことだ。

小さな爪で引っ掻いて来ようが、寸前で避けられる。

何匹かが持つダガーやショートソードも使い方が下手であまり当たらない。

そして、剣に血糊が付かないのも大きい。


俺の選んだ剣はただ光るだけの剣ではなかったそうだ。

マルドから、無駄な光の効果を教えられた。

どうやら、光の放たれている間は血糊が付かず、刃こぼれなどをしづらくなるらしい。

ゴブリンを殺した数がすでに50を超えた。魔物は血液が流れてないものが基本だが、こういう亜人のような見た目だと血が流れてることもあるそうだ。

剣は案外すぐに切れ味が落ちる。

この効果の有用性は高いのだ。


「チッ...次から次へと‼︎」


やっと減って来たかと思えば、増援が到着した。

しかも、武器を持っていてもせいぜいナイフなどだったのが、今度の増援は弓やハンマーなども持っている。

よく見れば鎧を着ているゴブリンさえ見受けられる。


「本隊が来たんだよ。さっきまではともかくここからは本当に死んでもおかしくないから気をつけて」


ゴブリンは平均してステータスが低い。

力だけは高いのだが、少し鍛えた人間にも劣る。

そんな彼らであるが、心得の無い者らは見つけたら戦わず逃げるように言われている。


理由はまさしくこれだ。

ゴブリンは集団で生活する。

ゴキブリではないが、一匹見たら三十匹はいると思えなんて称されるくらいである。


矢が飛んできて、ゴブリンを殺すペースが落ちる。

当然、弓矢の方から処理しようと考えるが、他のゴブリンが邪魔をする。

まさか、高々ゴブリンにここまで苦戦をするとは想像していなかった。

どんな作品でも、ゴブリンとは、最弱であるか、そこに準ずる強さしかない。

大抵の場合はかませとして登場し、主人公の糧になる。


「チッ...」


ゴブリンの矢が頰にかする。

痛みはあるが、我慢できないほどではない。


俺が怯むのを逃さず、ゴブリンが攻めくる。

それを、いなし切りつける。

案外に戦い慣れてきてはいる。

お陰で、最初は数回の攻撃が必要だったが、今は一撃で仕留められるようになりだした。


ゴブリンを殺し、ゴブリンが増える。

ゴブリンを殺し、ゴブリンが増える。

ゴブリンを殺し、ゴブリンが増える。

それの繰り返しに流石に疲労が溜まってきた。

一撃で屠れるようになったゴブリン達が、再び手間がかかるようになった。


「ゴミが...」


だんだんとむかっ腹が立つ。

いくらなんでも、無駄に数だけ多すぎる。

面倒くさいのだ。

RPGをやったことがあればイメージしやすいが、弱い敵が大量にいる時に全体攻撃が無いのはストレスが溜まる。

そういう雑魚キャラは一掃するのが楽しいのだ。

火力が高いキャラでも、単体にしか攻撃できなければ、こういう場面ではいらない。

なにが、言いたいかといえば、”俺に魔法を使わせろ”である。


更に戦闘を継続することしばらく。

それはやってきた。

緑に近い肌色をしているゴブリンと違い、赤色の肌のゴブリン。


「キラ君。お疲れ様!それを倒したら最後だよ!」

「本当だろうな?」

「もちろん。それは、ゴブリンの隊長のような役回りをしていて、そいつが消えれば、次の司令が生まれるまで活発な行動は抑えられる」


それならば話は早い。


「先手必勝という言葉を教えてやる!」


有無を言わさぬ見事なまでの投擲。

俺は眉間目掛けて剣を飛ばした。


「グギャアアアァァァァァ!?」

「ギィ!?」

「ガゲゲ?」

「ギャャ!」


赤色のゴブリンはいともたやすく崩れ去り、困惑しながらも他のゴブリンは逃げ去る。


とりあえず投げた剣を回収して納める。


「お疲れ様。魔石はキラ君が戦ってる間にあらかた回収しておいたよ」

「そんな気の使い方はいらん...。手を貸せ、手を」

「でも、それじゃぁキラ君の為にならないよ?」

「死んだら元も子もないだろうが」

「平気だってば。危なそうなら割って入ったから。それに、なんだかんだで余裕そうだったでしょ?」

「疲労とストレスが一方的に溜まっていく」

「それは我慢してよ...」


小さくうなだれるマルドは魔石を渡してきた。


「せっかくのポーチなんだから、その中にしまっておいて」

「わかった」


特に断る理由もないのでサクッとしまう。


「これ飲んでおくといいよ」


小さなビンに入った青い液体。

なんらかのポーションだ。


「スタミナ回復用のポーションで疲れた時に効くよ」

「栄養剤のキャッチフレーズか...」


一気に飲み干して突っ込みをする。


「さて、あと少しで森を抜けられるよ。森さえ抜ければ、小さいけど街があるから今日はそこで一泊かな」

「風呂はあるのか?」

「うーん...。どうだったかな?長いこと訪れてないからなぁ...。あ、でも少し前に国の支援でいくつかの施設が作られたって聞いたから、もしかしたらあるかもね」

「俺は運動の後には必ず風呂に入ると決めている。風呂がなければ、作るから手伝え」

「どうやって作る気?」

「適当な大きさの器にお湯を入れれば終いだ」

「まぁ、そのくらいならできるかなぁ」

「なら行くぞ」


ゴブリンを倒したといえど、他の魔物も存在はしている。

数度の戦闘の末、森を抜けた。

ここから既に街が見えている。

と、そこで少し疑問に思ったことがあった。

王都ほどの規模ではないが、小さくはない街であるのに、防壁はおろか柵すらない。

あれでは、魔物がやってきた時やられ放題ではないのか。


「おい」

「ん?どうかしたかい?」

「あの街は少し無防備過ぎないか?魔物がいるんだ。襲われかねないぞ」

「あぁ、簡単だよ。あの街の中心には魔物が寄り付かない花が咲いてるんだよ」

「花?」

「そう。名前は覚えてないけど、一定範囲を魔物が入れない結界に近い状態にするらしいね」

「そんなものがあるのか。なら、どこの街でも魔物の心配はいらないということか?」

「それが、そうでもないんだよ」

「何故だ?入ってこれないのだろう?」

「うん。基本的にはね」


ということは、何か例外があるということであると判断した。


「まぁ、有名なのだと魔物暴殖スタンビートだね」

「...つまり、周辺の魔物が活性化し、そうだな。食料、縄張りなどを求めるが余りに無理矢理侵攻すると。そして、一時的に能力値も上昇してたりするといったところか?」

「正解。もっといえば、魔物は襲うためにやってくるんだけど、概ねその認識で正しいよ」

「で?他の理由は」

「うん。まぁ、ありえないっていうか、流石にこれが起こったら本当に不味いんだけど...」

「..........」

「魔族に使役されている場合。それは、最悪だよ。だって、最後の砦の結界が突破されたことを意味するからね」

「魔族が使役しているかどうかの判断はどう下す?」

「魔族の使役する魔物は普通と違って随分と力や魔法が強くなってる。まぁ、あちらとしては使い捨てること前提だから生き残った後のことなんて関係ない。後遺症、肉体の限界で戦闘後全ての魔物は死に絶える。そして、死への恐怖が一切ない」

「それだけで判断できるのか?俺にはあのゴブリン供にだって死ぬことへの恐怖を抱いてるとは感じなかったが?」

「違うよ。死の恐怖がないっていうのは、そんなに優しいものじゃない。ゴブリン達は確かに死を恐れてないように見えたかもしれない。でも、キラ君。ゴブリン達を見てて防御をあまりしてこなかったも思わない?攻撃を避ける素振りをしてなかったんじゃない?そして、ゴブリンは、ある意味使役されてたと言えるんじゃない?」


言われてハッとする。

そもそも、ゴブリン等は赤いゴブリンに命令されていたようであった。

それ故に指揮官が死に次第蜘蛛の子を散らして逃げたのだ。

戦闘中であるがために意識していなかったのだが、思い返してみれば不自然な点は多い。

ゴブリンと戦っていた時、防御をすることなく、多少は回避しようとする動きがあったものの、露骨に死なないよう動こうとしてなかった。

曰く、ゴブリンの生命力は、人間よりも低い。

ならば、生命力が高い相手ならどうか。攻撃が俺に届く前に命を絶たせることが出来た先ほどまでの戦い。

あのゴブリン達が、10回斬っても死なない程の耐久性を誇ったなら...。

それに、森で会ったのはゴブリンだけでなく、他の魔物との戦闘も経験した。

そこには、一撃では、絶命しない者もいた。

一撃目を耐えられないから、ゴブリンは俺に届かない。

だったら一撃を耐え、二撃目の間に俺に一太刀浴びせることが出来れば、人間の身である俺なんてひとたまりもない。

そのことをハッキリ理解した。


「きっと、ゴブリンも命を捨てた特攻だったんだよ」

「ゴブリンであるため、空回りしていたが、他の魔物が相手なら俺は対処しきれなかったかもしれない。それ以前に、あれでやられる奴もいる...か」

「そうだね。キラ君のステータスは、高い部類だよ。多分全ステータスが90近くあるんじゃないかな?ギルドに入りたての新人はステータスが50近くのことが多いから。あれだけのラッシュで命を落とすことも多い」

「...あぁ、そういえば、ステータスといえば、どうすればステータスが上がる?」

「......え?」

「俺はステータスなんて上げたことが無いんでな。やり方がわからん。あの数のゴブリンを狩ったんだ。それなりにステータスも上がるだろう」

「キラ君...本当にステータスを上げたことないの?」

「だから、そうだと言っている」

「そうなんだ......。うん、わかった。街に着いたら説明させてもらうよ」

「そうしてくれ」


森の中では、視界の悪さから警戒をし続けせわしなかったのだが、辺りが見渡しのいい草原になったということで、落ち着いて行動できるようになった。

森を抜けてこちらに吹く風が心地よく、警戒に神経を使わなければならないという疲労がない。


時折、馬車が変な生物に引かれ街へ向かうのが見える。

歩くのと馬車では街へ着く速度が段違いだが、車と比べてしまいあまり早そうに見えない。

馬の負担も考えて、あまり速度を出しすぎないようにしてると思うから全速力でえればもっと早いのだろう。


ざっと見たところ街との距離は約3km。

街に到達するまでに魔物と遭遇することはもう無いだろう。


そして、やはりなんの問題もなく街に着いた。

よくある門での検問もなく、というのも魔族は結界からこちら側に来れず、犯罪者なども大々的に指名手配をされ顔が出回ってでもいない限り判断できないためだ。

もっとも、顔が完璧に知れているような者らであれば、一応門番はいるので、彼らが捕まえるそうだ。


「それじゃぁ、早く宿を取ってしまおうか。埋まって野宿なんて嫌だからね」

「わかった」

「二人部屋でいい?ステータスについても軽く説明するよ?」

「構わない。早く行くぞ宿はどこだ」

「聞くなら前を開かないでよ...」

「パーティリーダーは先頭を行く。当たり前だ」

「そんなの初めて聞いたよ...」


RPGではお約束なんだがな。

先頭を譲らない主人公というものは。


「宿は向こうだよ。今から行く宿は入り口にペットを繋いでいて、副業で洋服屋を営んでるんだ」

「服か...この服があれば必要性はなさそうだが...」


確認しつことだが、この服はなぜか汚れがない。

土にまみれようが、泥を浴びようが、異臭を放つ液体が付着しようが汚れることも臭いがつくこともなかった。

着替えを必要としぬいため、とても重宝しており、ついでに言えばいつだって洗いたての様なものなの感じられる。

とは言えども、汚れることがなかろうが破れはするし、穴も開く。

戦って擦れて裂ければ直す必要がある。

念のため予備の洋服はあった方が知れないのも事実。

服は袋があるためかさばらないので値段と出来を見て、もし良さそうならば買うとしよう。

気になるのはこの世界の服の素材が何かだ。

なるべく羊毛やシルクといった物が好ましい。

と、思いながら宿に向かった。

そして、宿で飼われているというペットは完全に予想外の生物だった。

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