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無職転生 - 蛇足編 -  作者: 理不尽な孫の手
オートマタを作ろう!
11/32

11 「人形の歩いた日 中編」

 その日、エリナリーゼは息子と一緒にお買い物に出かけていた。

 息子のクライブと手をつないでのお買い物。

 既に何人も子供を産み、育てているエリナリーゼであったが、やはり自分の子供と手を繋いで出かけるのは楽しかった。


 特に、クライブは夫であるクリフによく似ていた。

 クリフによく似た髪に、クリフによく似た口元。

 何の根拠もなく自分が一番であると思っているところなんかも、そっくりだ。

 彼といると出会ったばかりの頃のクリフを思い出して、エリナリーゼの口元に自然とよだれ……もとい、笑みが浮かんだ。


「おかーさん、カボチャ! カボチャ買おう! カボチャ!」

「あら、そうですわね。この時期のカボチャは美味しいですものね……」

「そうじゃない! カボチャを食べるとね、背が伸びるんだよ!」

「そんなこと、誰に教えてもらったの?」

「ルーシーちゃん!」


 エリナリーゼの息子であるクライブは、美少年であった。

 特に、目元や輪郭などはエリナリーゼによく似ており、将来は人族のみならず、長耳族の女子にもモテるだろうことは間違いなかった。

 ただ、残念ながら背丈の方は父親に似ており、平均より低かった。

 クライブはそのことに少しコンプレックスを抱いているようで、家の中でも事あるごとに大きくなりたいと話していた。


「そんなに大きくなってどうするのかしら?」

「秘密!」


 やや顔を赤らめながら言うクライブ。

 だが、エリナリーゼはすでにその理由を知っていた。

 ルーシーだ。

 クライブは二つ年上のルーシーに恋をしていた。

 背丈が高くなりたいのは、ルーシーにかっこいいと思われたいからだ。


「はやく大きくなると良いですわね」


 エリナリーゼは、息子のそうした男の子らしい部分を見るのが好きだった。


「あら?」


 と、そこでエリナリーゼの長い耳が、聞き覚えのある声を拾った。


(おいおい、相手に一つ何かをしてもらったら、何か一つしてあげるのが世の中の常識だぜぇ?)

(俺っちも教えてほしいなぁ、オネーちゃんがどんな声で鳴くのか)


 声のする方は路地裏。

そちらを見ると、酒場の裏で一人の少女が、二人の男に手を掴まれていた。

 見覚えのある人物。

 それもエリナリーゼにしては珍しいことに、憶えがあったのは男の方ではなかった。


「声と言われましても、このような声です」

「と、思うだろぉ? でも、人間ってのは実はもっと良い声が出たりするんだよなぁ」

「ほら、すぐそこの宿で聞かせてくれよ、な? いいだろ? な?」


 女の方は嫌がっている風ではなかったが、

 しかしエリナリーゼの知る限り、こうしたお誘いを好むタイプでもなかった。

 表情には出ていないものの、困っているのだろう。


「お待ちなさいな」


 エリナリーゼは買い物袋をその場に置いて声を掛ける。

 即座に男たちが振り返った。


「なんだお前は?」

「その方、ルーデウスの知り合いですわ。ナンパは別の人にしておいた方がよろしくてよ」


 男二人の視線が、エリナリーゼの頭から足先までを舐めた。


「別の人ってのは……例えば、お姉さん、あんたとかか?」

「ヘッ、小せぇ弟と一緒にいるってのに、淫乱なこったぜ」

「あら、弟だなんて、お上手ですわね」


 頬に手を当てて、恥ずかしげに微笑むエリナリーゼ。

 ふざけた態度を取る彼女だったが、すでにこの二人が余所者であることに気づいていた。

 恐らく流れの冒険者であろう、と。

 この町の人間であれば、ルーデウスの名前を聞いて引き下がらないわけがないのだ。


「あなたがたは……あら?」


 そんな彼女の前に、顔を真っ赤にしたクライブが前に出た。

 どこで拾ってきたのか、木の棒まで持っている。


「お母さんに手を出すな!」

「クライブ、気持ちは嬉しいですけど、お母さん、この程度の相手なら大丈夫ですわ。下がっていなさい」

「うわっ……」


 クライブはひょいと持ち上げられて、エリナリーゼの後ろへと搬送された。

 エリナリーゼは後でクライブを目一杯褒めてあげようと思いつつ、腰の剣に手をやった。


「この程度? ……俺ら、これでもAランクだぜ?」

「あら……すごい、その歳でAランクだなんて、よほど才能がおありなのですね」

「ヒュー、余裕だぜ。よほど腕に自信があるみてぇだな」

「いいえ、あいにくと、凡人ですわ」


 男たちが剣を抜く。

 使い込まれた剣だ。

 エリナリーゼも護身用として剣は持ってきているが、残念ながら使い慣れた盾はない。

 相手の力量次第だが、二体一では分の悪い戦いになりかねない。


「安心しろよ。ちょっと痛めつけたらいい目見せてやるから」


 剣を抜かないエリナリーゼ。

さては怯えたのかと考えた二人は、下卑た顔をしながらゆっくりとエリナリーゼに近づいていく。

 二人が少女から離れたのを見て、エリナリーゼは胸一杯に空気を吸った。


「キャアアァァァァ! 助けてぇぇぇ! 人さらいですわぁぁぁぁ!」


 悲鳴が路地裏にこだまする。

 その大声にギョっとする二人。


「うおっ!」

「ひ、人さらいじゃねえし……!」


 が、エリナリーゼの声は、むなしく響き渡っただけだった。

 エリナリーゼたちのきた道から誰かが来るわけでもなく、裏路地はシンと静まり返った。


「……ヘッ、驚かせやがって。誰もくるわきゃねえよ。昼間の酒場の裏だぜ?」

「悲鳴ならベッドの上でいくらでもあげさせて……」


 と、その時だ。

 突然、周囲の建物の扉が音を立てて開いた。

 バン、バン、バンと時間差で開いていく扉。

 そこから出てきたのは、男たちだ。

 漆黒のコートを着た、毛むくじゃらの男たちだ。

 彼らのコートの背中には、黄色い虎……のように見えなくもない紋章が描かれていた。


 ルード傭兵団である。

 彼らは傭兵団の仕事で、酒場が夜に売る酒の搬入を手伝っていたのだ。


「エリナリーゼの姉御!」

「てめぇら、誰に手ぇ出してやがる!」

「ルード傭兵団に喧嘩売ってんのかコラァ!」

「ウチらに上等かオラァ!」


 普段は礼儀正しく、地域の平和を守っている彼らだが、無法者と身内を害する者に対しては途端にガラが悪くなる。

 その上、ルード傭兵団の数は総勢で10名を軽く超えていた。

 ルーデウスなら恫喝された時点で謝ってしまうだろう。

 いや、あるいは彼なら窓や扉が開いた時点で謝っていただろう。


「…………あ、すいませんでした」

「そんな偉いお方とはつゆ知らず……自分ら、ここに昨日きたばっかりなんで」


 硬直していた男たちが剣を投げ捨てて謝ったのは、2秒ほど後だった。

 おめでとう、ルーデウスの名誉は守られた。

 ルーデウスは臆病者のチキン野郎ではなかったのだ。

 そうとも、建物から大量の毛むくじゃらが出てきたら、誰だって謝ってしまうだろう。


「姉御、どうしますか?」

「まだ何もされてませんから、ほどほどに。この辺りのことでも教えてあげてくださいな」

「ヘイ! よし、じゃあお前ら、ちょっとこい」

「いや、でも俺ら、その」

「いいからこい」

「これから、ちょっと約束が」

「いいからはよこんかい!」


 二人の冒険者が獣族たちによって酒場へと連行されるのを見届けた後、エリナリーゼは少女へと近づいた。


「ナナホシ、お久しぶりですわね……もうお目覚めの日でしたかしら?」


 少女は、ナナホシであった。

 彼女はなんてことのない顔をしつつ、こくりと頷いた。


「目覚めたのは、昨晩です」

「そうですの……ま、こんな所にいてもつまらないですわ。さっさと出ましょう」


 エリナリーゼはそう言って、ナナホシの手を握った。

 そこで、ふと違和感に気づいた。


「あら、ナナホシ……あなた、いつ髪切りましたの?」


 エリナリーゼの記憶では、ナナホシの髪型はロングだった。

 それがうなじあたりで切りそろえられたショートカットに変わっている。

 そのことに、エリナリーゼは首をかしげた。


 ナナホシと呼ばれた少女はその問いに、口元を上げて、にこりと微笑んだ。

 それは何か、歪な笑みであった。

 困ったような、言い難いことを笑みで誤魔化すような、あるいは何かを企んでいるような……。

 察しのいいエリナリーゼは、それを見てすぐに察した。


「何か訳ありですのね……わたくしでよかったら話を聞きますわよ。今、お暇?」

「重要な任務はありません」

「じゃあ、そこの喫茶店にでも入りましょうか」


 エリナリーゼは少しむくれたクライブの手をとり、買い物袋を拾い上げた。


「クライブ? あら、なにをむくれていますの? なに? 守れなかったのが悔しいの? もう、お母さんなんかじゃなくて、好きな子を守っておやりなさいな……ほら、ナナホシ、なにをしていますの? ついていらっしゃい?」


 そしてナナホシを従えると、近くの喫茶店へと向かったのだった。



---



「それにしても、危ない所でしたわね。酒場の裏でよかったですわ。すぐ人が来るから」


 数分後、二人は喫茶店で向かい合っていた。

 二人の前には、果実のジュースが置かれている。

 同じものだ。

 エリナリーゼの注文を、ナナホシが真似したのだ。

 ちなみに、クライブの前には少し洒落たお菓子が置かれている。

 最近、この辺りで砂糖が比較的安価で出回るようになったことで作られるようになった、フルーツの砂糖漬けだ。


 ナナホシはこの店にくるのは初めてなのか、キョロキョロと首や目玉を動かしていた。


「それで、何があったんですの?」

「多くの事例があり、一つに絞るのが困難です。質問内容を厳選してください」

「……あなた、そんな喋り方でしたっけ?」


 エリナリーゼは首をかしげつつも、

 しかし何か辛い事があった人間が、口調を変えるのはよくあることだ、と自己解釈した。

 人は、頑なになると、口調も硬くなるものだ。


「じゃあ、最初から話してくださいまし」

「最初から、ですか?」

「そう、一番最初から」


 ナナホシは首を目を二度ほど瞬かせたのち、語り始めた。


「私は昨晩、目覚めました。目覚めた時、ザノバ様とルーデウス様がおいででした」

「あら、乙女の寝室に立ち入るなんて、彼らもなってませんわね」

「お二方は、衣類を身につけていない私のボディを見て、非常に嬉しそうな顔をしておりました」

「は……?」

「その後、彼らは私に手足を開かせたり胸を触ったりして体の隅々までチェックをしました。その後、私を使う・使わないについて議論を始め、ひと通り満足したら私を捨てると結論を出し、私を寝台に寝かせ、放置してお眠りになりました」


 さしものエリナリーゼも、ここで一瞬、思考が途切れた。

 彼女の脳内に浮かんだ映像は、下卑た顔をしたルーデウスとザノバが、寝ている間にナナホシの衣類を剥ぎ取り、無理やり目覚めさせてからエロいことをしているものだった。

 そういう男たちを何人も見てきたエリナリーゼにとって、容易な想像である。


「て、抵抗はしなかったんですの?」

「抵抗は無意味です」

「そうですわね、ルーデウスとザノバですものね……ペルギウス様方はいらっしゃらなかったんですの?」

「お二方のみでした」


 エリナリーゼはあまりペルギウスの普段の生活をしらない。

 だが、ペルギウスとて城を留守にすることぐらいあるだろう。


「そ、それは、今回は初めてですの?」

「はい。ですが、ザノバ様とルーデウス様はかねてより計画し、準備を進めていたようですので――」

「過去から狙っていた可能性はある、と」


 彼らなら、ペルギウスが外出する日を知ることは容易だろう。

 そして、運良くペルギウスが外出する日と、ナナホシの目覚める日が重なっているタイミングも簡単に知れる。


「……」


 エリナリーゼは冷静な女である。

 膨大な経験から余裕を持った思考を展開し、咄嗟の事態にも混乱なく行動できる女である。

 しかし、そんな彼女とて、信じていた者に裏切られれば、動揺ぐらいはする。


 まさかルーデウスが。

 あまりモテなさそうなザノバはともかく、

 日頃から妻と子供たちに囲まれ、愛され、愛していたルーデウスが。

 家族を守るために、決死の覚悟でオルステッドに挑んだルーデウスが。

 夜のベッドでシルフィやロキシーにあんなことやこんなことまでさせていたルーデウスが。

 夜のベッドでエリスにあんなことやこんなことをさせられていたルーデウスが。

 まさか、ナナホシを。

 必死に故郷に帰る方法を探していたナナホシを。


 そんな馬鹿な、と思う部分はある。

 何かの間違いだろう。

 ルーデウスは、懸命な彼女を真摯に手伝っていたではないか。

 シルフィに嫉妬されながらも、ナナホシを手伝うことはやめなかったではないか。

 彼女を救うために魔大陸に行き、魔王アトーフェとも戦ったではないか。


 だが、見ろ、ナナホシの表情を。

 先ほどの違和感のある笑いを除けば、ずっと人形のような無表情を貫いている。

 笑いもせず、泣きもしない。

 髪だって、短くなっている。肩口でバッサリだ。

 ナナホシはあれでいて頭髪の手入れはそれなりにしていた。

 それが、今は若干、ガサついている。


 エリナリーゼはナナホシと特別に仲がよかったわけではない。

 それでも付き合い自体はそれなりに長い。

 彼女とそれなりに交流をして、どんな顔をする人物かは知っているつもりだ。

 こんなにショックを受けているナナホシは、見たこともない。

 ナナホシの狂言という可能性は、流石にないだろう。


 何が真実かはわからない。

 もしかすると、ルーデウスとザノバを陥れるための、何者かの罠かもしれない。

 そうだ。

 魔力付与品には、己の見た目を変えるものなども数多く存在する。

 とはいえ、それを使ったとしても、空中城塞の奥深くに侵入し、ナナホシをどうこうすることは不可能だ。

 それが出来るのは、ペルギウスの行動がある程度わかり、空中城塞の出入りがほぼフリーとなっている者だけだ。

 該当者は少ない。


 混乱だ。

 エリナリーゼは、ここ数年で味わったことのないほどに混乱していた。

 何がどうなっているのか。事の真相はなんなのか……。

 ただわかることはあった。


「辛かったですわね」


 エリナリーゼは立ち上がり、ナナホシの隣に移動すると、その体をギュっと抱きしめた。

 彼女にわかるのは、目の前の少女が心にダメージを負っているということだ。


「エリナリーゼ様、話はまだ……」

「大丈夫。もう十分ですわ。

 辛いことを、よく話してくれましたわね。

 ちょっと信じられませんけど……ううん。

 信頼を裏切るなんて、許されないことですわ。わたくしが、ちゃんとルーデウス達に罰を与えますわ」


 ゆえにエリナリーゼは、ひとまず真実の追求は後回しにして傷心のナナホシを慰めることにした。


「ルーデウス様は、何か罪を犯したのですか?」

「ええ、とっても悪いことをしましたわ」

「それは、どんな?」

「あなたを、傷つけましたわ。いいえ、あなただけじゃありませんわね。場合によっては彼の奥さん……シルフィやロキシー、エリスも傷つきますわ」

「私は無傷です」

「いいえ、心が傷ついていますのよ」

「心……」


 エリナリーゼはナナホシを抱きしめながら、しかしふと違和感を抱いた。

 なんとなく、抱き心地がおかしかった。

 人間を多く抱いてきたエリナリーゼだからこそわかるが、

 こんな抱き心地の人間は、今までいなかった。

 具体的な違和感をあげることは出来ないが、でも、まるで人間ではないような……。



「見つけたぞ!」



 と、その時である、静かな喫茶店に大声が響いた。

 入り口を見ると、ねずみ色のローブをきた男性が、エリナリーゼたちに向けて指をさしていた。

 ルーデウスである。

 そのすぐ後ろにはザノバもいた。

 二人だけではない、ルード傭兵団の面々もいる。


「捕まえろ!」


 ルーデウスの叫びに、エリナリーゼは抱きしめる力を強めつつ、ちょっと待ちなさいと叫びかけた。

 だが、その前に自分の腕の中にいた人物が動いた。


 彼女は、エリナリーゼが想像もしていなかった力で腕を振りほどくと、

 信じられないほどのスピードでテーブルをひっくり返し、近くにあった窓へと飛び込んだ。


 ガシャンと音を立て、ナナホシの姿が消える。

 凄まじいスピードだった。

 聖級剣士もかくやと言えるスピード。

 その場にいた誰も、ついていくことは出来なかった。


 ルード傭兵団の面々も、そのスピードには呆気に取られたようだ。


「会長、ザノバ様……速すぎます。あれには追いつけません」

「で、あろう。師匠の作り出した自動人形のボディだ。パワーもスピードも、並の戦士では足元にも及ぶまいて」

「及ぶまいてじゃないよ……とりあえず、隠密行動はまだ出来ないみたいだから、人を使って探してくれ。居場所さえわかれば、俺とザノバでなんとかして捕まえるから」


 ルーデウスは疲れた顔でそう指示しつつ、エリナリーゼの方へと近づいてきた。

 目を丸くしてフォークだけ手にしているクライブの頭をポンと撫で、怪我がないことを確認。

 エリナリーゼに向かって手を差し伸べた。


「すいませんエリナリーゼさん。大丈夫でしたか? 何もされていませんか?」

「……ええ、もちろん」


 エリナリーゼはその手を握りながら立ち上がった。


「それで、何があったんですの?」

「ええ、話せば短いことですが……」


 何が起こったのかを知り、エリナリーゼは少しほっとした。

 ああ、やっぱり自分はなにか、勘違いをしていたのだ、と。




 

 エリスの家での仕事は、レオと子どもたちを散歩に連れて行くことだ。

 もちろん、子どもたちに剣を教えたり、学校で一部の生徒に剣を教えたりはする。

 でも『家の仕事』となると、エリスの仕事は散歩だけである。


 特に用事がなければ、散歩に出かけるのは昼下がりだ。

 流石に全員を連れ出すのは危ないから、大抵は2~3人。

 レオが散歩に出るとなるとララが当然のようにその背中に乗るため、エリスが面倒を見るのは実質一人か二人である。


 この日は、ララとジークがレオの背に乗り、まだ幼いリリがエリスの肩に乗った。

 そうして、町中を歩き、適当な所で子どもたちが遊ぶのを眺めるのが、エリスの日課である。


 少し前までは、これがルーシー、ララ、アルスの三人で、時にクライブが一緒だった。

 あの頃のララはよく近所の男の子に髪を引っ張られ、ルーシーが止めていた。

 だが、最近はララもエリスに鍛えられたせいか、よくやり返すようになった。

 ちょっと目を離すと、顔に傷を作り、鼻血を流しながら立っているのだ。

 近くには、喧嘩したであろう男の子がしゃがんで泣いている。

 ララはエリスと目があうと、ふてぶてしい無表情のまま、指を二本立てて、ブイっと勝利を宣言する。


 エリスはその様子を見て、少し迷う。

 自分が幼少の頃、喧嘩をして相手を泣かせた時は、よく叱られた。

 貴族の娘が喧嘩などもっての他だ、相手に何かを言われたら、口で言い返しなさい、と。

 自分も叱るべきか、と一瞬迷う。


 が、大抵は褒めてしまう。


 ララはあまり喋らない子だ。

 そんな子が、自分に身を守るために敵を倒して、誇らしげにしているのだ。

 よくやったわ、さすが私の娘ね、と褒めなくてどうするのか。


 もちろん、これが自分より明らかに格下の、それこそジークあたりを泣かせていたらエリスとて怒るだろう。

 尻が真っ赤になるまで叩くだろう。

 けど、男の子はララより大きく、年上だ。

 なら、やっぱり褒めるのが正解だ、とエリスは思う。

 ララが来年から学校に行くことを考えると、褒めるだけではダメだと思う所だが、エリスはそこまでは考えないのだ。


 とはいえ、今回はよく行く公園ではなく、別の場所へと赴くことにした。

 喧嘩も無いだろう。

 行き先に意味などない、ただの気分だ。


「あんまり遠くに行っちゃダメよ!」


 というわけで、本日は郊外の川まで遊びにきた。

 裸になって川で遊ぶララとジーク、それに混じって遊ぶレオ。


 エリスはというと、リリを見ていた。

 最近ようやくよちよち歩きを始めたリリ。

 彼女は川が珍しいのか、おっかなびっくりという感じで水に触れ、その冷たさにキャッキャと声を上げてエリスに抱きつく、というのを繰り返していた。


「キャァ! ママー! ママー!」

「何よ、水が怖いの?」

「冷たい!」


 答えになっていない答えに、エリスはクスリと笑いながら、リリの頭を撫でた。

 リリはララとよく似た容姿をしているが、ララより少しおとなしい。

 しかし、好奇心はララ以上なようで、新しいもの、初めてみるものには強い興味を示した。

 と、そんなリリが何かを見つけたようだ。


「ママ! キラキラ!」

「……キラキラ?」

「キラキラしてる!」


 指差す方向を見ると、川の反射の中で、さらにキラリと光るものが見えた。

 魚だ。

 中指ほどの大きさの小魚が、ゆらゆらと泳いでいるのだ。


「魚ね」

「さかなで!」

「逆撫でじゃないわ。魚よ。お魚。言ってみなさい。お、さ、か、な」

「おさかな! ねえママ、取って! おさかな取って!」

「はいはい……見てなさい」


 エリスは腕まくりをして、川をじっと見る。

 数秒後、ヒュンと音がして、川の表面がパンとはじけた。

 と、気づいた時には、魚はエリスの手の中だ。

 魚は何が起こったかわからないのか、目を丸くしてパクパクと口を動かしていた。


「はい」

「わっ! わっ!」


 エリスがリリの手の平に魚を乗せてあげる。

 すると、そこで魚も非常事態に気づいたのか、ビチビチと体を跳ねさせた。

 魚はリリの手からするりと抜け、川にぽちゃんと落ちてしまった。


「にげちゃった……」

「フフ、逃げちゃったわね……ん?」


 そんなやりとりの中、ふとエリスは、何者かの気配を感じて振り返った。


「……何か来るわね」


 何かが、町の方からこちらへと近づいてきている。

 かなりのスピードだ。

 魔導鎧『二式改』を身につけたルーデウスか、あるいは自分と同程度かもしれない。


「レオ。二人を上がらせなさい! 服も着させて」


 エリスが叫ぶと、レオも気づいたのか、ウォンと吠えてララの背中を押した。

 ララは素直だった。

 彼女はレオと会話できるため、すぐに事情を理解したのだろう。

 ジークはまだ遊びたいと少しグズったが、ララが手をひっぱるとしぶしぶといった感じで川に上り、持ってきた布で体を拭き始めた。


「ララ、ジークに服を着せるの、手伝ってあげなさい!」


 だが、ジークはまだ自分一人で服を着れるようになったばかりだ。

 ボタン一つ掛けるのにももたついており、誰かが手伝ってあげなければ時間がかかるだろう。


 エリスは少し焦った。

 近づいてくる何者かから敵意は感じないものの、子供たちを連れて逃げるには、相手が少々速すぎる。


 敵だとしても勝てる相手ではあろうが、でも子供たちは逃がしたほうがいい。

 レオの背に三人を乗せて、自分が敵を食い止める。

 この近くにはオルステッドの事務所もある。

 北神カールマン三世と龍神オルステッドが滞在している場所だ。

 そこまで行けば安全なのは間違いないが……。


「……って、なんだ」


 しかし、近づいてくる者の姿を見て、ホッと息を漏らした。

 知っている顔だったからだ。


 黒髪を持つ、一人の少女。

 ナナホシだ。


「ナナホシじゃないの」


 ナナホシはそのまま走り抜けていこうとしたが、

 名前を呼ばれたことでキッと止まり、エリスの方を見た。


「おはようございます。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「エリスよ。何、忘れたの?」

「エリス様。憶えました」


 エリスは何か違和感を覚えた。

 髪が短い、足が速い、口調がいつもと違う。

 だが、エリスはナナホシと特別仲が良いというわけでもなく、自分に対してはこんなもんだろう、という感覚もあった。

 まあ、それ以前に細かいことを気にする性格でもなかったが。


「どうしたのよ、すごい勢いで走って、誰かに追われてるの?」

「はい……いえ、訂正します。逃げ切ったようです」


 ナナホシは背後を振り返りつつ、そう答えた。

 彼女の後ろには、広い平原があるだけだった。


「ママ! ママ! すごい!」


 ふと見ると、ナナホシの足元に、リリがまとわりついていた。

 彼女はナナホシのふくらはぎをペタペタと触って、目をキラキラと光らせていた。


「キャァ!」


 ナナホシは彼女を両手で持ち上げると、リリは嬉しそうな悲鳴を上げ、笑った。


「おはようございます」

「キャッキャ!」


 リリは笑いながらナナホシの髪を掴み、引っ張ったり頬に手を当てたり、鼻を撫でさすった。

 エリスは、なぜリリがそこまでナナホシになつくのかわからなかったが、

 ともあれあまり失礼なのもよくないだろうと考え、ナナホシからリリを受け取り、己の肩に載せた。


「やーあー。ママ、あれ取ってー」

「ダメよ。失礼でしょ」


 リリは不満の声を上げたが、エリスは彼女を下ろすことはなかった。

 その様子を見て、ナナホシは髪を一房持ち上げた。


「これが欲しいのですか?」

「……うん」


 リリが控えめに頷くや否や、ナナホシは髪を数本引きちぎり、リリへと差し出した。


「どうぞ」

「わぁ!」


 リリはそれを受け取ると、また嬉しそうな顔をした。

 エリスは、なぜリリがそれで嬉しがるのかわからなかったが……ひとまず、黒髪が珍しいのだろうと結論づけた。


「エリス様、質問をしてもよろしいでしょうか」


 と、そこでナナホシがエリスの方を見て、そう言った。


「何よ?」

「エリス様はルーデウス様の奥方のエリス様ですか?」

「そうよ」


 奥方と言われ、エリスは胸を張ってそう答えた。

 改めて言われると、やはり誇らしかった。

 長男を産み、こうして子供たちの面倒を見る自分は、間違いなく奥方である自信があった。


「エリス様は、私の存在が知れるとルーデウス様をお怒りになりますか?」

「存在……? いるだけなら別に怒らないわ」


 質問の意図がわからなかったが、エリスはひとまずそう答えた。

 ナナホシはルーデウスの友人だ。話したぐらいで怒ることは無い。

 ルーデウスがナナホシに手を出した、とか、四人目の妻に迎える、となったら少しは怒るかもしれないが……。


「では、シルフィ様とロキシー様はどうでしょうか」

「別に怒らないと……あ、でも」


 と、そこでエリスは、ふとシルフィの昔話を思い出した。


「前に、シルフィが言ってたわね。ナナホシもっていうのは、なんか納得できないって」

「納得、でありますか? それは、どういった納得でしょうか」

「わからないわ。けど、あの子はルーデウスのことがホントに好きだから、思う所があるんじゃないの?」


 ルーデウスのことを愛していると公言してはばからないエリスであるが、シルフィの献身は認めるところである。

 シルフィは、ルーデウスのためであるなら、自分を殺してでも我慢する事がある。

 もちろん、エリスとて、戦いにおいては死んでもルーデウスを守る覚悟がある。

 が、それはあくまで自分のやりたいことだ。

 エリスは自分が絶対にやりたくないことに対しては、あまり我慢できないだろう。

 例えそれがルーデウスのためであってもだ。

 でもシルフィはやるのだ。ルーデウスのために我慢するのだ。

 シルフィのそういった所を、エリスは認めていた。


「了解しました。シルフィ様にお話を聞きたいのですが、彼女はどこにおいででしょうか」

「今日は家にいると思うわ」

「かしこまりました。質問に答えていただき、ありがとうございます」


 ナナホシは頭を下げ、口元を歪めて笑うと、くるりと背を向け、町の方へと歩いて行った。


「結局、なんだったのかしらね」


 エリスは腕を組み、足を肩幅に開いて、フンと鼻息をついた。

 最近、アルスがよく真似するポーズである。


「……ママ」


 エリスが振り返ると、レオの後ろから青と緑の髪が覗いていた。

 ララとジークだ。

 思えば、知り合いがきたというのに、二人に挨拶をさせなかった。

 よくなかっただろうか。

 普段ならレオが率先して前に出てきてくれるから、そのついでに挨拶もさせるのだが、今回はずっと二人を前に出そうとはしなかった。


 エリスがそんなことを疑問に思っていると、ララがポツリと言った。


「……今の人、ナナホシさんじゃない」


 エリスがその言葉に言い知れぬ不安を覚え、口元をギュっと結んだ。

 その肩の上で、リリがナナホシからもらった髪の毛をびよんびよんと伸ばしていた。


「…………」


 不安の正体がわからない。すぐさま家に戻るべきだ。

 そう思ったエリスだが、しかし子どもたちを見て、考えを改めた。


「これから事務所にいくわ。二人ともレオに乗りなさい」


 ひとまず子どもたちを安全な所に届けてから自宅に戻る。

 そう決めたエリスは子供たちをレオの背へと乗せ、事務所への道を歩き始めた。



---



 エリスが事務所に到着すると、なんだか物々しい気配が広がっていた。

 エリスも見覚えのあるルード傭兵団の面々が、事務所の前にたむろしていたのだ。

 ルード傭兵団だけではなく、ザノバやジュリ、エリナリーゼにクライブ、北神カールマン三世アレクサンダーといった人物の姿も見える。


 しかし、いつも感じる不快な感覚はない。

 どうやら、オルステッドは留守のようだ。


「エリス! どうしてここに!?」


 と、そんな集団の中から、ルーデウスが飛び出してきた。

 エリスはその姿に安堵した。

 と同時に、どうやら先ほど感じた不安の秘密がここにありそうだと確信を持った。


「散歩の途中で変なのに会ったわ」


 質問に答えずにそう言うと、ルーデウスの瞳に剣呑さが宿った。


「どんな奴だった?」

「ナナホシによく似た奴ね」


 ルーデウスの表情が、そいつがルパ○だとでもいいたげに変化した。

 すぐにどこにいったのか、どうなったのかを聞きたかったろう。

 だが、それよりも目の前の人物を心配した。


「そうか……それで、何かされた? 誰も怪我とかしてないよね?」

「子供たちは無事よ」


 ルーデウスが心配そうな表情で、子供たちを見た。

 ララに、ジーク、髪の毛をびよんびよんさせるリリ。


「エリスは? 怪我とかない?」


 子供たちが無傷であることを確認した後、ルーデウスはエリスの体に傷などが無いかを確かめはじめた。

 足先から頭の先まで見て、顔に触れて、肩を掴んで振り向かせ、胸の膨らみをモニュっとした所で、ルーデウスの顎は拳にて砕かれた。


「大丈夫よ! そのぐらい見ればわかるでしょ!」

「ひゃい……」

「別に何もされなかったけど、レオが偽物だって気づいたから、ひとまずここに避難しにきたのよ」


 エリスはそう言って、レオを見る。

 すると、なぜかララが得意げな顔をしていた。むふーと鼻を広げている。

 エリスはララの頭をぽんぽんと撫でると、ルーデウスへと向き直った。


「で、なんなのあれ?」

「えっと……」 


 ルーデウスも経緯を説明した。

 ザノバと一緒に作っていた自動人形が逃げ出してしまった。

 ひとまず、転移魔法陣付近に足あとが残っていたため、魔法都市シャリーアにいると断定。

 魔法陣に乗り、工房で惰眠を貪っていたジュリを起こし、ルード傭兵団を使って町中を探索。

 エリナリーゼの騒動をきっかけに一度発見したものの見失う。

 その後、町の外に向かった、という情報を得て、城壁から千里眼を使って見渡した所、事務所の方角に向かっていることを確認。

 目的地は事務所だとアタリを付けて先回り。

 千里眼で人形が来るであろう方向を見ていると、エリスがやってきた、と。


「そんなに悪い奴には見えなかったけど?」

「今のところはね。でも、はやく見つけないと何が起こるか……」


 ルーデウスは断固たる口調でそう言った。


 彼は人形が欠陥を持っていることを確信していた。

 自動人形のコアには、ある原則が刻まれている。

 人間への安全性、命令への服従、自己防衛。

 いわゆるロボット三原則だ。


 だが、人形は命令を無視して逃げた。

 ということは、少なくとも『命令への服従』に関する項目に欠陥があるということだ。

 ひとまず、エリナリーゼともエリスとも会話をしただけだ。

 今のところ被害は無いようだが、それを『人間への安全性』の原則が働いているからと考えるのは、希望的観測にすぎないだろう。

 『人間への安全性』の原則が働いていないとすると、何のきっかけから殺戮を開始するか、わかったものではない。


「エリス、どんな会話をしたのか、もうちょっと詳しく教えてくれないか?」

「どんなって、別に、ただの世間話よ……確か――」


 エリスは自分が人形とどんな会話をしていたかを思い出しつつ、答えた。

 だが、その内容が進むにつれて、ルーデウスの顔がみるみる強張っていった。


 自分たちの会話、エリナリーゼとの会話、そしてエリスの会話。

 それらから総合すると、人形の行動に、一つの仮説が浮かび上がってきたからだ。


 エリナリーゼとの会話において、人形はしきりにルーデウスの妻について質問を繰り返したという。


 昨晩、ルーデウスは妻が怒るから廃棄する、と言った。

 あの人形はそれを聞いていた。


 命令への服従の原則は機能していないようだ。

 だが、『自己防衛の原則』は働いている、と考えれば、防衛行動を行うと考えるのはおかしくない。


 この場合の防衛行動とは何か。

 すなわち、自分の存在を排除しようとする存在の排除だ。

 自分の存在を排除しようとする者。

 すなわちルーデウスの妻だ。


 実行犯は寝ているザノバとルーデウスだが、彼らを攻撃対象としなかったのは、事前にマスター登録をしたからかもしれない。

 矛盾にも取れるが、バグが発生しているのなら、矛盾した行動をとってもおかしくはない。


 ゆえに人形は、ルーデウスの妻が誰かを特定し、発見。

 その人物を抹殺しようと考えているのではないか、と。


 とはいえ、排除対象であるはずのエリスとは会話しただけであった。

 なら、仮説ははずれたのか。

 いいや、違う。

 人形のエリスへの質問内容を鑑みるに、人形は妻たちの誰を排除すべきかを吟味しているようにも思えた。

 つまり、誰が一番、自分という存在にとって邪魔となるか、だ。

 おそらく、一番邪魔な存在から片付けていこうと考えているのだろう。

 そして、エリスとの会話で、一番邪魔なのが誰か明らかになった。


「最後にシルフィの所に話を聞きにいくって言って、町に戻っていったわ」


 その言葉で、ルーデウスの顔が真っ青になった。


「シルフィが危ない!」


 ルーデウスはバタバタと家の方向へと走り始め、しかしすぐに反転、事務所の前に戻ってきた。

 そして、事務所の前で深呼吸を一つ。

 冷静になれと自分に言い聞かせつつ、周囲を見た。

 ルード傭兵団に、ザノバ、ジュリ、アレク、エリナリーゼとクライブ、そして自分の子供たち。

 ルーデウスはまず、集団の中で暇そうにしていたアレクに、頭を下げた。


「アレク、子供たちとジュリをここに置いていく。任せていいか」

「ええ、いいですよ」


 まずは子供の安全の確保。

 オルステッドがいれば、オルステッドに頼み込んでアレクには別の動きをしてもらったかもしれないが、留守だから仕方がない。

 ひとまず、アレクに守ってもらえるなら、安全だろう。

 工房で寝ているところを素通りされたから大丈夫だとは思うが、事務所内での会話ではジュリも反対するといった内容を話した気もするため、ここに待機してもらう。


「エリスとエリナリーゼさんは、学校の方に行ってほしい。

 もしかするとだけど、ロキシーの方に行ってるかもしれない。

 傭兵団の一部も学校に行ってるから、それと合流して」

「わかったわ」

「わかりましたわ」


 学校の方には、リニア率いる一団が捜索に向かった。

 人形はシルフィの方に向かったと言ったが、そもそも何をするかわからないのだ。

 万が一のために援軍を送っておくのがベターだろう。


「傭兵団の半分は、一度アイシャたちの所に戻って、経過報告をしてくれ。

 万が一の時には、ペルギウス様に助力を願うかもしれない、と伝えて欲しい」

「オス!」


 ペルギウスの力を借りることができれば、アルマンフィあたりが人形を一瞬で捕まえてくれるだろう。

 ここまで大事になると思っていなかったから、自宅に連絡を入れるのを含め、各所への連絡が遅れてしまったのが悔やまれる。

 まあ、ペルギウスが手伝ってくれるとは限らないが。


「傭兵団の残り半分は、ザノバの工房に戻ってほしい」

「わかりました」


 人形はあちらこちらへと動いているが、その全ては陽動で、あくまでルーデウスから逃げ切ることが本当の目的かもしれない。

 自分が来た道からアスラへと入り、そのまま野へと逃げ延びようとする可能性もある。

 危険な存在なら逃がしてしまっても構わないと思うところだが……自分の作ったものだ。責任は持って最後まで対処しなければならない。


「ザノバは、俺と一緒に自宅に行って、シルフィたちの安全を確保だ」

「承知しました」

「よし、じゃあ全員、行動開始!」


 ルーデウスの号令で、全員が散っていった。



---



 最後に、事務所には子供たちとレオ、ジュリ。

 そしてアレクが残った。


「さぁ、君たちのお父さんが帰ってくるまで、お兄さんが遊んであげましょう」


 あっという間に親がいなくなり、不安そうな顔をする彼らに、

 アレクはにこやかな顔で話しかけるのだった。

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― 新着の感想 ―
少年の心は残しつつ、人を使うことが確実に上手くなっていて成長を感じる。ジュリがとっくに成人してるってことは大体30歳ぐらいかね。
[良い点] 急にホラー
[一言] あー、ロボット三原則組み込まれた上での無効化パターンだったか
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