二十四話・《フェスタ》
《フェスタ》が始まる。
およそ十万のファンたちが今か今かと司会者の登場を待ちわびていた。
彼、彼女たちの顔はまるで少年少女のように輝いている。
「それではお待たせ致しました。ただ今より今年度を開始致します!」
舞台に登場したのは今を時めく女優だっただろうか。疎い男にはそれが誰だったかまではわからないが、今後凛たちの《プロデュース》を続けていく内に挨拶することになるだろう。
彼女は叫びだしたファンたちを愛くるしい仕草で止めると、前口上を始めた。
「始まるんだね」
舞台袖、暗がりの中で凛が呟く。わずかに灯る照明を反射したその顔には、若干の緊張が見て取れた。
「そうだな」
「《シンデレラ》になれるかな?」
「ああ。ついでに《トップアイドル》の座も奪って来い」
忍び笑いが零れる。今度は華奈だ。
「お兄。ついでって、そんなこと言ってたら怒られるよ?」
改良型の《雪珠》が完成したのは一週間前だった。
それからは三人文字通り血反吐を吐くほど動き回り、今に至る。
《トップアイドル》かつ《シンデレラ》。成功すれば《歌姫》の二つ名を持つ《アイドル》以来の快挙だ。そして、それは夢物語などではない確信を男は持っていた。
「それでは本日のトップバッター、今最も《シンデレラ》に近いと評判のお二人です、どうぞ!」
「行って来い」
男の手が優しく二人の背を押す。
二人は頷き、光り輝く《ステージ》へと駆け出した。
二人の《パフォーマンス》は劇仕立てだ。
愛する歌を病で失い、絶望する凛。
彼女のために、華奈が祈りを込め歌う。
祈りが天まで届き、願いを聞き届けられる。
歌を取り戻した凛と、願いの代償に身を破滅させた華奈。
その華奈を取り戻すために凛が歌で奇跡を起こす。
陳腐な話かもしれない。だが現実にあった出来事で、今も《アイドライジング》界では語り継がれている。それに何より――。
華奈の祈りをイメージした彼女の薄桃色の《IL》が、《凛音》へと注ぎ込まれる。
そして、本当に奇跡を起こせそうな程の凛の歌声。
加えて華奈の《IL》により、可視化された凛の歌の世界の美しさ。
奇跡の後の幸福な世界を、《パフォーマンス》で表現する二人の《アイドル》。
――すべてのピースが完全に当てはまり、最高のひと時を作り出していた。
「どう、だった?」
息も絶え絶えで、異口同音に言う。
「《ステージ》から見たファンの姿はどうだった」
「お兄の口から聞きたいんだよ」
男の返事は決まっていた。それ以外を口にすることは憚られるどころか、存在すらしないだろう。
「最高だった」
《ステージ》から漏れた光を背に、ハイタッチする二人の姿を見て、男は一筋の涙を零した。




