二十三話・《特異型》
男の差し出した《エアリアルレイド》を前に、華奈は男の様子を窺うようにしてその瞳を見つめている。
「無理だよ」
男も重々承知している。しかしそうではない。起動をさせたいのではないのだ。
「凛ちゃんから聞いたことあるよ、それ《エアリアルレイド》だよね?」
「そうだ」
「動かすのに、相当の《IL》が必要なんだよね?」
そうだ。先ほどと全く同じようにして男が口を動かす。
見る間に華奈の眉が下がっていくのを見て、凛が口を挟んだ。
「この人が意味のないことをするとは思えないよ、華奈ちゃん、やろう」
華奈が躊躇う理由は、男にはわからなかった。これもまた、雪奈に叱責を受けるだろうか。そう思いながらも、男は二の句を継げないでいる。
「お兄、これがダメだったら、《フェスタ》には凛ちゃん一人で出場しよう」
頷きはしたものの、男は一つの仮説を信じ、しっかりと華奈を見据えた。凛が発言しようとしたのを手で制止し、男は顔を上げている。
華奈の首に巻かれた《エアリアルレイド》が薄桃色の光をわずかに放つ。
「出来てる、出来てるよ華奈ちゃん!」
凛が声を弾ませているが、実際はそうではない。今はまだ《エアリアルレイド》の《起動段階》だ。体感でわかるのだろう、華奈は目を閉じ、《IL》を練っている様子が見て取れた。
薄桃色の光が明滅を繰り返す。その光は弱々しく、いつ消えてもおかしくない。
「諦めるな、続けるんだ」
光が一際薄くなった瞬間に男が言った。華奈は開きかけた目に力を込める。
実際には数秒の長さ、だがとてつもなく長く感じるその時間の後に、変化が訪れる。
水に溶かし過ぎたような薄桃色の光は、桜の花びらのような色を時に見せ始め、そして、最終的に《エアリアルレイド》を《起動》させることなく完全に消滅した。
「お兄、やっぱり駄目だったよ。ごめんね、凛ちゃん」
華奈は、寂しそうに、無念そうに、それでも無理やり笑顔を作って口を動かした。少しだけ肩が震えている。
「よくやった、華奈。俺の、ミスだった」
俯いた華奈の下に、小さな水溜りが出来始めていた。
男の声音が、調子はずれになる。
「待て。誤解をしている」
顔を上げた華奈の頬は赤く、その頬を伝わる涙は止めどない。
「《特異型》だ。言い訳をするようで情けない話だが、そうとしか言いようがない。お前の《IL》は増加だ。放出した一定範囲内の《IL》を、増加させる。のだろう」
「どういう、こと?」
「お前の《IL》は《ユニット》でこそ光る」




