二十二話・情け
さらに一週間が過ぎていた。
『今日はどうすればいいかな?』
「《レッスン》を続けてくれ」
『わかった』
凛のいつも通りの『わかった』だった。
その声に不満も不安も感じさせない声色だ。
男の目の前にある《ドレスメーカー》がわずかな駆動音をさせる。
浮かび上がった《コピードレス》はとてもいっぱしの《アイドル》が身に着けるものとは思えない代物だった。それほどまでにありとあらゆるサポート機能が付けられている。
《IL》と《ドレス》の《リンク》を容易にするための《起動コア》、《IL》の総量を補うための《チャージコア》、《IL》の複雑な操作を不要とする単純明快な《回路》、その全てが《IL》能力に劣る華奈のために男が用意した機構だ。
見る者が見たら垂涎の、技術の結晶体と言える。
しかしそれを持ってしても男の中にある《プロデュースプラン》は実現不可能だった。
何度も《プロデュースプラン》を練り直す考えが頭を過り、その度にそれを否定した。
手詰まりだ。ここ数時間のうちに吐いた弱音が再び浮かぶ。
新品のコーヒーメーカーが良い香りを立てると、男は大して惹かれてもいないのに席を離れ、携帯端末に目を落とす。二件のメール受信を報せる文字列が浮かんでいる。
〝霜月華奈さんを信じましょう〟
白井からのメッセージは概ねそう言った内容だった。
〝華奈の《IL》は《特異型》よ。これ以上妹を泣かせるようならただではおかないわ〟
珍しい、本当に珍しい相手からのメールだった。
その内容を見て、男は駆けだす。
すみません、連日短くなってしまいました。




