二十一話・焦り
《フェスタ》まで一カ月を切った。
街はクリスマスのイルミネーションで彩られ始め、道行く人々はどこか浮き足立っている。
《フェスタ》の電子ポスターやタペストリーを前に写真を撮る者、そこまではしなくとも足を止め、出場者一覧を眺める者、今年も《フェスタ》の注目度は高いようだ。
出場者一覧の最後に記されている《シークレットゲスト》の文字に、男は目を止めた。
その脳裏には雪奈の姿が浮かぶが、頭を振って散らす。
「お兄、お帰り。今日はどうしようか?」
凛と華奈の二人がレッスン場の入り口へと身体ごと向けた。
男の目が届いていなくとも、二人はしっかりとレッスンを熟していたようだ。
荷物の傍に置かれたスポーツタオルと、容量の半分程度になっているドリンクがそれを物語っている。
「ヴォーカルレッスンとダンスレッスンを続けてくれ」
ヴォーカルは凛が、ダンスは華奈がそれぞれにアドバイスをしていく。半端者のアドバイスはむしろ不利益になりがちだが、この二人においては上手く機能していた。これまでの男の教えがよい方に影響を与えているようだ。
「わかった」
端的にそう述べたのは凛だった。ややダンスやヴィジュアル的なアピールの苦手な彼女ではあったが、それを補って余りあるヴォーカルとしての力がある。
一方で、男の言葉に華奈は、眉を顰めた。
「お兄、やっぱり《フェスタ》は凛ちゃん一人で出た方が良いんじゃないかな?」
凛に聞こえないようにして、華奈がそう男の耳に、囁く。
肯定も否定もすぐには出来なかった。男の中にある《プロデュースプラン》には、華奈の力が必要不可欠だ。しかしそのプランを実行するためのツールがまだ不足している。
「《ドレス》、うまく行っていないんでしょ?」
頷くより他はなかった。取り繕ったところで意味はなく、担当する《アイドル》に対して不誠実な振舞いを、男は自己に禁じている。
男の身体の不調は、昨晩の、《ドレスメーカー》を前に十杯飲んだコーヒーだけが原因ではない。




