親友いわく、ありえない設定とのこと。
仲良しな親友いわく、
私の周りはありえないとのこと。
両隣になかなかおいしい設定の幼馴染が住んじゃってるような、親友の栞。
一学年下の美少年な後輩にすごく懐かれたり、実の兄貴(妻帯者)にすっごく溺愛されてる、おなじく親友の明子。
なかなかに濃いい設定の彼女たちがありえないと言っても、それが私の日常だし。
私は、それと戦わねばならないのだ。
うちの学校にはいくつかの名物がある。
例えば、
どんなに入手困難なチケットもなぜか手配できるチケットの神様と称される同級生。
いつもは冷たいのに、たった一人には態度を豹変させて懐きたおす男女構わず見惚れるほどのネコ属性の美少年な後輩。
他、数件。
その中の一つに、毎日放課後、校門前に現れる金髪碧眼の美青年……というのがある。
流暢な日本語を話し、気品のある所作で、校門を通り過ぎる生徒たちに丁寧に挨拶をしてくれる、らしい。
服装こそ、その辺で売られているリーズナブルなものだが、正装なんぞをさせたら王子様といっても過言ではないと、女子のハートを鷲掴みにしている、らしい。
しっかも、生徒だけではなく先生や、あまつさえ保護者の方々にもっ。
……あれだけ目立つなと言い諭しているにも関わらず。
「お待ちしてました、和子」
にこりと、フェロモン全開の微笑みを繰り出すエリヤにガンをとばす。
「め、だ、つ、なって何っ度も言ってるよね」
「嫌です」
放課後の名物ことエリヤはさくっと私のことばを拒否った。
「大人しくしてたら、貴女は裏門からこっそり帰るでしょう?」
ちっ、読まれてるか。
「駄目ですよ、女性が公の場で舌打ちなんて」
「その言動だと、誰も見てないなら舌打ちはオッケーということですか、エリヤさん」
ひょこっと私の横から、栞が話しかける。
「もちろん、推奨はしませんよ」
「相変わらず、甘い風貌ですよね。金髪と碧眼って最強のコラボだわ」
「明子さん、褒めていただいてるんですよね? こう、なにやらかなり、醒めた目で私のこと見てますけど」
「ああ、すみません、美形にはちょっと色々迷惑こうむってるんで」
例の後輩君のことか。
厄介なのに絡まれて、明子も大変だよね。まあ、見てるこっちとしては愉快だけど。
と、親友の不幸ににやついていたら、
「エリヤさん。今月末から夏休みっていう約一か月の長期休みになるんですよ」
「なっ!? 明子、いらないことを」
「長期の休み……。それはそれは、いい、情報ですね」
ぞわりと鳥肌がたった。
い、今、フェロモンじゃなくてものすっごい黒いもの放出したよ、この人っ。
「明子さん、栞さん、本日の予定を確認しても?」
「「何もないですよ」」
そして、親友二人はさっさと帰路に着いた。
「明子のばかー、栞の薄情者ー」
「はいはい。和子も大人しく帰りましょうね」
ごく自然に私のカバンを奪い取り、空いた方の手でエスコートよろしく私の右手をつかむ。
いつものことながら、鮮やかすぎて文句も言えない。
「エリヤ、向こうの仕事とか大丈夫なの?」
「心配してくれるんですか? 大丈夫ですよ、向こうで私に文句いう輩はいませんよ。それなりの立ち位置にいるってお話ししませんでしたか」
ふふっと笑う、この美青年。
何を隠そうここではない「異世界」から来た騎士、らしい。
約半年前に車との接触事故を起こして、歩道に蹲っていたエリヤを拾ったのは私だ。
どこのファンタジー映画かという胡散臭い衣装を身に着けた美青年。本人いわく、こっちに来る際に着地点を誤ったらしい。
はっきりいって、関わりたくなかった。が、怪我人を放置できるわけもなく、父親にも手伝ってもらって我が家に運んだのがはじまり。
怪我も治って、本人もあっちに帰れる状態になった筈なのに、エリヤは我が家に居ついている。
「和子、夏休みというのにはいるのなら、私の世界に来ても問題ないですよね?」
「い、や」
そう、この騎士様、恩返しがしたいからと言って、私に向こうの遊びに来てくださいと、毎日のように誘ってくるのだ。
異世界という響きは確かに、魅力的だ。
でも、しかし、私にはどうしてもゆずれないものがある。
ずばり、トイレ事情だ。
いや、そこ結構大事なところでしょ?
どんなに料理が美味しくて内装が素敵なお店に行っても、お手洗いが汚いと一気に店の印象が変わったりとかするじゃない。
「エリヤはなんで、そこまでこだわるかな。十分、恩は返してもらった思うよ」
「まだまだ返しきれてないですよ。こっちだと制限がありすぎて本気出せないんですから」
……何の本気だ?
いや、きいたらダメ。藪をつついたらヘビ以上のものが出るに違いないし。
普通なら出会う事のない異世界在住の金髪美青年。
私の腕をつかんでいた手は、いつの間にかちゃっかり恋人つなぎになっている。
半年前から、強烈な存在感をみせつけて、私の「当たり前の日常」の中にエリヤという存在は定着している。
近い将来、私の懸念する案件を見事にクリアし、異世界に連れてかれる日がくるかもしれない。
もしくは強制送還命令が出て、エリヤが向こうに帰るかもしれない。
半年前には存在すら知りえなかった異世界の自称騎士様。
そんなエリヤとの毎日。
いつまで続くのかは、神様のみが知るのだろう。
だから、私はこの友人らがありえないと称する日常を楽しもうと思う。
以上。「親友いわく、おいしい設定らしいです」の親友Bこと和子バージョンでした。
このお話で「親友いわく~」シリーズ?は一通り書き終わりました。
どのお話が一番お好みでしたか?