要注意人物(千文字お題小説)
お借りしたお題は「要注意人物」です。
律子はOLだった。
遂に恋人の藤崎と念願だった結婚をした。
それは酔った藤崎を無理矢理……という実に奸智に長けたあざといやり方だったが。
それでも、藤崎も律子と結婚ができて嬉しかったので、何も不満はないようだ。
但し、できちゃった婚となった二人の婚姻は挙式も披露宴もなしとなった。
「全く、親戚に顔向けできねえぞ!」
律子の父親は古いタイプの人間なので、娘が非常にふしだらに思えてならない。
「あんたにそんな事を言う資格はないと思うけど」
母親がすかさず突っ込みを入れた。
「何がだよ!?」
あからさまに狼狽える父親を見て、
(何をやらかしたんだ、この親父は?)
律子は半目になった。
挙式も披露宴もなくなったが、新婚旅行には行く事にした。
「出産を終えてからね」
藤崎は子供のように喜ぶ律子に釘を刺した。
(女の子がいいなと思ったけど、もう一人のりったんが成長すると思うと恐ろしい)
男の子だったら、男版の律子になるとは思わないところが藤崎なのだ。
「親子で新婚旅行もいいね」
律子は陽気に笑いながら言う。
(そういう事になるのかな?)
藤崎は嫌な汗を掻いた。
そんな二人の元に一通の手紙が届いた。差出人の名前がなく、封筒も真っ黒で、気味の悪い装丁だった。
「何だろ、これ?」
「爆弾が入ってるんじゃないの?」
律子が突拍子もない事を言い出す。
「これに入る爆弾はないと思うよ」
藤崎が笑いながら封を開いた。
「CIAだったら作れるかも。フリーメーソンかも知れないよ」
最近嵌っているサスペンス小説の悪影響だと思ったので、
(胎教に悪いから読むのをやめさせよう)
密かに決意した。
中に入っていた便箋を開くと、意味不明の文章が印刷されていた。
『凛々しいばかりの君、いつになったらこの思いを伝えられるのか。
つらく悲しい日々が延々と続くので、涙も枯れ果てた。
この苦しみを少しでも紛らわせる事ができれば、どれほど幸せだろうか。
しかし、私は囚われの身。君の顔を見に行く事はできない。
願わくは、我が祈りが君に届かん事を』
二人は顔を見合わせた。
「宛名は冬矢君だよね? でも、これって女性宛の文章だし……」
その時、律子は嫌な事に気づいた。
「文章の最初の文字を繋げると『りつこしね』ってなるわ!」
悲鳴を上げた律子を藤崎が抱きしめた。
「一体誰がこんな事を?」
偶然と思いたいが、そう思えない状況だった。
「律子先輩、恨みます」
それは新人社員の杉村の仕業だった。
つづく、かも知れません。