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ワールド・リバーサル  作者: 亜麻猫 梓
第1章 現実世界への誘い
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第13話 それは不思議な上級生Ⅱ

 いくら何が起こったとしても受け入れる覚悟と言ったって、流石に限度というものがあるだろう。

 普通に考えて、会ったばかりの他人からのデータ送信など信用が無さ過ぎる。


 しかし、当の目の前の美少女は、「私信じてる」とでも言うかのような純粋な目でこちらを見つめていた。

 アリトは一体どうするべきか1分近くも逡巡し。


――えぇい! 知ったことかコンチクショー!。


 そう心の中で叫び、意を決してその解凍ソフトをタップする。

 すると、その瞬間視界で何やら見覚えの無い圧縮データが解凍され始め、次の瞬間にはインストールが開始され始めていた。


「あ、あの……何かが俺のパッドに入ってるんですが……」


 いよいよ不安になってきて、堪らず姫塚に返事を求める。が。


「気にしないで、ちょっと時間掛かるかもしれないけど、どんどん入れちゃって構わないわ」

「か、構わないでって……これ、俺のパッドなんですけど……」


 人のパッドだというのに随分と豪胆なことを言う姫塚に多少なり思うところが無くもなかったが、それでもあえて我慢することにした。

 そうして実に3分という長いインストールを終え、ふうと一息つくと、姫塚は突然口を開いた。


「あなたが今解凍してインストールしたデータは、このニューラルパッドに元々備わっていたブラックボックスよ」


 その言葉にアリトは目を白黒させる。


「えっ! ブラックボックス!? それってどういうことですか先輩、俺そんなの知りませんよ!?」

「だからブラックボックスなんじゃない」


 何を言ってるんだという顔をされて、アリトは確かにそうだと思い直す。


「……でも、これ一体何に使うものなんですか? そもそも、ブラックボックスって言ったって何でまた俺のパッドなんかに……」


 アリトが当然の疑問を口にすると、それに姫塚が答えた。


「このプログラムは何もあなたのパッドにだけ備わっているものではないわ。全ての人が所有する全てのパッドに標準搭載されているものよ」

「あ、そうか……それもそうですよね。こんなのが俺にだけ入っているわけが無いですし」


 アリトが最早、どこか達観した感性でニューラルパッドに秘められた真実を軽く理解して受け流していると、姫塚はいよいよ本題といった様子で口を開いた。


「そして、このプログラムの存在意義だけれど……」


 そう言った次の瞬間、姫塚はアリトにとってはとんでもない言葉を口にした。


「まずはあなたの、そのよく分からない転送プログラムをパッドから消去してもらうわ」

「あ、はい。……って、はぁ!?」


 アリトはそのあまりにも唐突な発言に危うく同意しそうになり。ギリギリなところで反発した。


「何でですか先輩!? しかも、よく分からないって。これ、俺が中三の時にやっとの思いで完成させた俺の努力の結晶なんですよ。それをあっさりと消去しろと!?」

「仕方が無いじゃない、それがあると今インストールしたプログラムと競合するかもしれないし。それに、あなたにとってはもう必要の無いものよ。信用もないし」


 最後にひどい言われ方をした気がするが、競合?必要ない?。アリトはその言葉の意味を探るべく、姫塚に尋ねた。


「競合……ってことは、このプログラムも何か転移をするような代物なんですか?」

「ん、まぁそういう使い方はよくするけれど、この場合それはサブよ。メインはもっと別にあるわ」


 何かもったいぶった言い方をする姫塚に疑問符を浮かべるアリトだったが、当の本人は待つことなく急かしてきた。


「とにかく、良いからさっさとあなたの自作プログラムを削除しなさい!」

「わ……分かりましたよ……」


 まぁ転移が出来るのなら良しとしよう。そう思ってアリトは、急いで手を動かし自作転移プログラムの保存場所を開いて、そのアイコンをタップする。


 ずらずらといくつもの項目が並んで表示されて、その中の一箇所であるアンインストールの項目に指を触れさせる。

 すると、視界にアンインストールしますか?のメッセージが表示され、その下には同意するかしないかのYESとNOが表示されている。

 アリトは一瞬だけ逡巡し、覚悟を決めてYESを押す。


――あぁ……さらば俺の青春……。


 すると転移プログラムはあっさりと消去され、メモリーの空き容量はそれに合わせてかなりの量が回復した。

 アリトがどんよりと後悔の念に駆られていると、それを意に介さず姫塚は次なる言葉を発した。


「さて、これで準備は整ったわ。上月君、君のデスクトップに新しいアイコンが追加されてると思うんだけれど?」


 未だどんよりとしたままのアリトは、そのままの気分で自分の仮想デスクを見やる。確かに新しいアイコンが追加されている。


「はい……。ありますよ? 新しいの……」

「なら、それをタップしてみて」


 言われた通りにアイコンをタップする。すると視界に何やらタイトル画面のようなものと、電子世界地図のようなものが視界の片隅に表示された。実に簡素でいて質素であった。


「……ん、なんですかこれ? タイトル画面に……世界地図?」


 何の気に無しに疑問を言うと、姫塚はいつにない真剣な表情をして。


「それこそが……”私達”の現実よ……」

「………………?」


 アリトには何のことだか分からなかったが、姫塚は全て分かっているというような面持ちで、ろくに説明もせずに指示を飛ばしてきた。


「いいかしら? 私の言う通りに従って頂戴」

「は、はい」


 その返事と共に姫塚はアリトの右隣に回ってきて、アリトはそれに少しドキドキしてしまう。

 しかし、姫塚は特に気にすることもなく平然と話を進めて。


「まずは、その仮想デスクを私にも見えるように設定し直してくれるかしら」


 最初の要望がそれだった。

 ニューラルパッドは個人情報の漏洩を防ぐために、どんなソフトウェアでも初期状態では他人に見えないように設定されている。

 アリトは手探りで設定を弄くって、何とか仮想デスクを全共有モードへと切り替える。


「いいわ。そうしたら、今度はその世界地図をズームして、そうね……茨城の水戸市、適当に高いビルの屋上とかをタップしてみて」


 何をさせたいのかいまいちよく分からなかったが、とりあえず指示に従い適当なビルの屋上までズームしてそこをタップした。

 すると、今度は画面下に何やら数字と英語の羅列が出現して、それを見た瞬間アリトは姫塚に驚きの表情を向けていた。


「こ、これって……!」

「あなたにはもう見慣れたものよね。そう、これはこのビルの屋上の位置座標よ」


 それを聞いた瞬間アリトは鳥肌を立たせながら感極まった。


「す、凄いですよこれ! こんなの俺じゃ全く作れっこありません!」

「だからさっき言ったでしょ? もうあなたには必要無いって」


 得意げにそう言ってみせてから、その直後姫塚は手を空中で走らせ始め、瞬間アリトの視界にも全く同じものが出現した。


「あ、そうか。先輩も持ってるんですよね?」

「えぇ、待ってて、私も今あなたと同じところに設定するから」


 そう言って姫塚は慣れた手つきであっという間にアリトと同じ所を設定してしまう。

 そうしてお互い準備が整った所で、アリトはもう1つのことを思い出しそれを尋ねた。


「そういえば、なんで茨城なんかに飛ぶんですか? それに、さっき言っていたメインがどうのって……」


 しかし、アリトのその疑問に姫塚は答える事はなく、代わりに1つの提案をしてきた。


「それは跳んでからのお楽しみよ。それに、私達はこれから”パートナー”になるんだから、お互いのことは下の名前で呼びましょう?」


 頸を傾げながら誘うように言う。


「え? それってどういう……」


 しかし、アリトがその意味を聞く間も無いままに、姫塚は早口で捲くし立てた。


「さぁ、行きましょう! 下の方にあるそれをタッチすれば飛べるわ」


 言いながら、突然アリトの右腕を掴んで、そのまま”スタート”と書かれたところに指をタッチさせた。それと姫塚自身の”スタート”をタッチしたのはほぼ同時のことだった。


「え、えっ!? あ、ちょっと!?」


 その突然のことに困惑するアリト。しかし、時すでに遅く、アリトの視界はどんどん引き伸ばされていって、遂にはあのある意味で慣れ親しんできた奇妙な浮遊感までもがその身に襲ってきた。


――あぁ……何で俺こんなことになってるんだろう……


 そこでようやく、今までの異常さに何となく気づかされて、アリトはほんの少しだけ後悔した。


 けれど、もう一方でこう思う自分も何故かいた。


――まぁでも……ここまできたら別にいいかな……


 そして遂に、引き伸ばされた視界はブラックアウトの段階に入り、そこでアリトの全感覚がシャットアウトされた。

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