ともだち
ちび蛍は、また寂しくなりました。
妖精王はずっとちび蛍と一緒いてくれましたが、ちび蛍が話しかけないとしゃべってくれませんし、何より、一緒にいて楽しくありませんでした。
「妖精王が楽しいって思ってないから、ボクも楽しくないんだな」
ちび蛍はそう思って、妖精王と色んな楽しい事をしたり、楽しい話をしました。
でも、妖精王の眼には、感情がありません。
笑うこともありません。
そのうち、ちび蛍は妖精王の頭の上で、静かに過ごすようになりました。
寒い季節がやってきました。
ちび蛍は妖精王の頭の上でじっとしていましたが、ふと、舞い落ちる雪を眺めているうちに、生まれた所をでてから、一度も蛍を見ていないことに気が付きました。
「妖精王」
ちび蛍は、久しぶりに妖精王に話しかけました。
「妖精王は、この森でボク以外の蛍を見たことはありますか?」
「ある」
「じゃあ、ここにもいるんですね。ボク以外の蛍は。会ってもいいですか?」
「今は無理だ。皆、土の下にいる。暑い季節になれば会えるだろう。だが」
妖精王の細い指が、ちび蛍に触れました。
「私が見てきた森の蛍は皆、ホタルよりは大きかったぞ」
そうですよね、とちび蛍はしょんぼりしましたが、ふと、一匹の蛍としてちび蛍を見てくれたのは、妖精王だけだなと思いました。
ちび蛍が生まれた所の蛍もそうでしたが、妖精王以外の妖精達はみんな、ちび蛍を「ちび」と呼んでいました。
「ふむ、そうだな。
ホタル。其方にその気があるなら、何かしてやれぬこともない」
「え?」
「確か、前の王が私を使ってやった技だ。
ただ、それには一度、ホタルは死なねばならん。やってみるか?」
ちび蛍はよくわかりませんでしたが、せっかく妖精王が自ら力を貸してくれると言ってくれたのです。
ちび蛍は喜んで「はい!」と答えました。
「では」
妖精王はちび蛍を、石の上にそっと置いて離れました。
すると、ちび蛍は急に疲れて、立っていられなくなりました。
妖精王の力が消えていってるんだな。
そうぼんやりと考えているうちに、ちび蛍は、だんだん浮かんでいるような気持ちになりました。
そんな中、妖精王の声が聞こえました。
「自らの体から離れるな。
本当に死んでしまっては、何にもならない」
ちび蛍がはっとして妖精王を見ると、妖精王は、ちび蛍を両手で抱っこしていました。
でもそれは、生きていない、魂のないちび蛍の体でした。