妖精の王
ちび蛍と妖精王は、出会ってからいつも一緒にいました。
木の葉の色が変わって、落ちてしまっても、ちび蛍は元気でした。
妖精王には癒しの力がありました。きっと、その力を使ってちび蛍を元気のままにしているのだと、妖精達は話していました。
ちび蛍は妖精王と一緒にいて、幸せでした。
でも、妖精王は一緒にいてはくれますが、自分からは話しかけてくれませんし、誘わないと遊んでくれません。
ちび蛍は、少し面白くありませんでした。
ある日、水を飲んでから妖精王のいた場所に戻ってみると、そこに妖精王はいませんでした。
代わりに、金色の髪をした別の妖精が、ちび蛍を待っていました。
「妖精王は?」
ちび蛍が尋ねると、妖精は
「魔物が森へ侵入したので、退治に向かわれました」
と、笑顔で答えました。
「まもの?」
初めて聞く言葉に、ちび蛍はきょとんとしました。
「この森を狙っている連中です。
王は森を護る為、戦いに向かわれたのです」
「妖精王が?」
「はい。とてもお強いんですよ。
まあ、先代様には無かった力もありますし、当然ですが」
「先代? 妖精王の前に、王様がいたんですか?」
「ええ、いらっしゃいました。確か、オベロン様とおっしゃいました。
最期は、今まさに王が戦っておられる連中に負けてしまいましたが、あの方も、よく森を護ってくださいましたよ」
妖精は、最近の事を語るような軽い調子で話しました。
「ですが、王が亡くなった時は本当に大変でした。
いつ襲撃されるかわからない状況で、森に、彼の王より強い者はいませんでしたし」
「妖精王は、前の王様より弱かったんですか?」
ちび蛍は、人間の女の子のような姿の妖精王を思い浮かべました。
「とんでもない。むしろ、あの方は先代以上ですよ。
なにせ、我々の持つ力の全てを注いで造り上げた“王”なのですから」
ちび蛍は驚きました。
この妖精は今、王を「選んだ」とではなく、「造った」と言ったのです。
ちび蛍は、わけがわからなくなりました。
「どういうことですか?」
ちび蛍が尋ねると、妖精は、誇ったように答えました。
「そのままの意味ですよ。
今の王は、我々が造り上げた王なのです。ご覧ください」
妖精は、一本の大木を指さしました。
それは、ちび蛍がよく妖精王と座っている、森の中心に立つと教えてもらった大木でした。
「この樹は、魔力溢れる森の中心に立つ樹です。
森の魔力を存分に受け生きてきた、先王が“森の女王”と呼んでおられた樹。
我々はこの樹の根本に先王の遺体を埋め、この樹の魂から、今の王を造りだしました」
すうっと息を吸い込み、妖精は高らかに続けました。
「森で最強の魔力を持つ主に、最高の力と、決して滅ばぬ身体を与えた。
姿形は何にも逆らわぬものである、人の娘に似せて造り、先王には無かった翼を与えた」
ちび蛍は、妖精の言葉を黙って聞いていました。
ちび蛍はこれまで、誰にも相手にしてもらえず、ひとりぼっちでした。
妖精王は、妖精達に王として頼られていましたが、この妖精の話し方からすると、妖精王もまた、ちび蛍と同じようにひとりぼっちだったのでしょう。
「それにしても、不思議です」
ふいに、妖精が話を変えにきました。
「王が、君をこんなにも長く生かし、傍に置いておくなんて」
きっと、同じ気持ちだったから。妖精王もボクと同じで、寂しかったから。
ちび蛍がそう言うより早く、妖精は言いました。
「王には“感情”など無いはずなのに」