妖精の森
妖精王は、ちび蛍に森を案内してくれました。
森はやはり広く、深く、どこも綺麗でした。
そしてどことなく、森は不思議な感じがしました。
「不思議な感じです」
ちび蛍がそう言うと、妖精王は頷きました。
「この森には、魔力が満ちている。
いつからかは覚えていないが、妖精が集まり、棲みつき始めたのもこの為だ」
「そういえば、妖精王は王様なんですよね。他に妖精もいるのでしょう? どこにいるんですか?」
ちび蛍がそう言った途端、色んな方向から笑い声が聞こえてきました。話し声も混じっています。
何かが、木の葉の間を飛び回っているのが見えました。
「彼らはそこにいる。ここは、妖精の森。……妖精達の統べる国だ」
「え? あなたの統べる国でしょう?」
妖精王は、なにも答えませんでした。ちび蛍を連れて、どんどん飛んでいきます。
その後を、小さな妖精達がにこにこと見つめていました。
しばらくしてちび蛍が連れてこられたのは、浅くて綺麗な、小川でした。
傍には、森で見たどの樹よりもずっと大きく、ずっと立派で綺麗な大木が立っていました。
「ここは森の中心。最も魔力の強い場所」
妖精王に下ろしてもらって、ちび蛍は小川の水を飲みました。それがとてもおいしくて、ちび蛍は夢中で水を飲みました。
ちび蛍が水を飲んでいる間、妖精王は盛り上がった根に座っていました。
「ごちそうさまでした」
「どうだった? 今日は」
隣にとまったちび蛍に、妖精王が聞きました。
「とても楽しかったです。初めて友達もできたし、うれしかった。
案内してもらった所はどこも素敵でした。ありがとうございました、妖精王」
「素敵……か。私はただ、妖精や動物、たまに来る人間の好む所を案内したにすぎないが」
「妖精王が好きな場所じゃなかったんですか?」
ちび蛍は、妖精王の大きな瞳を見上げました。
夕方になって、森がだんだん暗くなってきます。
妖精王の体が光り始めました。ちび蛍のおしりも、小さいけど光っています。
「私には、そう〝感じる〟ものは無い」
感情の無い新緑色の瞳が、ちび蛍を見下ろしていました。