9話 どくしょながいこつ
生き残る確率が上がったようでちょっとばかり嬉しかったり、うっかり得てしまった力に結構引いたりで複雑な心境だったが、いつも通り自宅に帰った。
木箱に武器防具を収めてベッドに座る。火のついたロウソクが輝く燭台を引き寄せ、本を広げた。今日ばかりはあえて続きからではなく、目次にあった【祝福】という章に目を通した。どうやら宗教絡みのことらしくかなり文字数が多かったように思う。
【祝福】とはこの世界におわします【ペテロア神族】とおっしゃる尊い神々から、選ばれた意志ある生物に加護と寵愛の証である何かしらのお力を授かることでございます。
選ばれる生物の種族・個体、また与えられる力の種類・度合などは理解が進んでおりませんが、醜く汚らしい害悪な魔物にすら【祝福】が与えられるのはまさしく神のお優しさを表すものでございましょう。そもそも【ペテロア神族】とは――――
~以下『神様ヨイショ』のため中略~
―――というわけでありまして、【ペテロア神族】とは創造神より各々の役割を託された神々のことでもあるのです。ですから彼らには一般的に【属性】と呼ばれる力が備わっていて、それを自らの寵愛の対象に分け与えることがおできになるのです。
この章だけとても長かった。全十章の本の中でほぼ三割といえばその分量が伝わるだろうか。
迷宮の外がどういう社会なのかも、宗教が持つ意味合いや権力の強弱も分からないが、これだけの文字数を書き上げる情熱には拍手を送ろう。途中はともかく意外と参考になった。
俺の持つ祝福はどうやら全く別の系統らしく、本文に比べると軽く載っていたのでそこだけまとめてみる。
元々持っていた【知神の祝福】は主要な三柱の神【天神】の一族?眷属?に分類されるらしく、同列としては【風神】がいた。とても珍しい祝福ではないが持っている人間は高確率で高名な学者や軍師になっているらしい。とはいえもちろん悪用して国を転覆しかけた輩もいたらしいのだが。
それから今回俺に新たな祝福を授けた存在である神は同じく三柱の【地神】と同じ系統とされる、【闇神】の下位神である【影神】。主に隠蔽や防御に補正があるらしい。もちろん攻撃も若干強くなるらしいが、微々たるものだ。こちらは特殊部隊や暗殺者になる人間が多いらしい。
俺はそこまで読んでいてふと思う。
祝福がもし神からの贈り物ならば、なぜ黒骸骨から俺に祝福が移ったのだろうか。魔物が強くなる仕組みは確か魂か何だかが持つ力を受け取る、そんな仕組みだったと思うが、その時に祝福が移るという話は紹介されていなかった。もしかして魔物と人間との意思疎通ができていないから知られていないのだろうか?
気づけば本をそっちのけで深い思考の海にはまっていた。
心持ち苦笑を零し、本を直し火を消してからベッドに倒れ込んだ。明日からもまだまだ考え、戦わなければならない。肉体的な疲労はないが精神面の疲労は否めないだろう。
意識が闇に沈んでいく。