6話 まっくろいの、あらわる!
何やらすっきりした様子の騎士殿が帰っていくのを横目で見やりながら、俺はそっと岩陰から体を出した。足元は焦げ、粉となった骨の散らばる目の前の通路はまるで、猟奇殺害の焼殺現場だ。この痕跡に自分の骨も混じっていたかもしれないと思うと、本当に囮作戦が上手くいってよかったと思う。
骸骨故に全く疲労はないが、精神的に何かが削られた。きっとあれだ、死なないっていう目標の壁が高くなったからだ。
俺は不死系統に属している骸骨戦士だが、実は本当に死なないというわけではない。寿命・病気がないだけ。言い方を変えれば、「死にはしないが殺されはする」といったところか。
だからこそ俺は死なないため強くなりたいのだ。別に最強とかじゃなくて程々でもいい。
思わぬ襲撃を受けたが、今日という日はまだ残っている。より強くなるために地下二階に留まり、奇襲による襲撃を繰り返す。地下二階の魔物は強いが、幸い燃えずに残っていた下層の同胞が所持していた小ぶりな槌があったので、お仲間の殺害にはとかく手間が掛からなかった。少し上位の魔物でも湧いたところをガツンと三回程やれば大抵昇天なさるのである。南無南無。
今日はいつもより強力な魔物を狩れたので満足だ。
――――あれ?
目の前で地面から体を引き上げるのは、体に黒い霧を纏う骸骨。これきっと、俺のように祝福を得た同族ではないだろうか。本にも書いてあった。
祝福という厄介なものは、並の個体の強さを引き上げる。俺の場合その補正が知恵に偏ってしまったので強さには何ら変化なかったが。
ともかく湧いてる途中というのは無防備なので攻撃することに。
まず槌を思いっきり振り下ろし頭蓋を砕きにかかる。しかし甲高い、カァーンという音とともに勢いよく弾かれてしまった。まじまじと見れば黒々とした霧が霧散していくところだった。
(ちくしょッ)
思わず、心の中で出ない怒声をあげつつ今度は右肩を狙い小さな槌を打ちつける。今度は頭部を守る霧も役に立たず、肩の関節がバキリと壊れる。腕が落ちるには至らなかったが、思うようには動かせないだろう。攻撃の成功にちょっと気をよくした俺は次々と小槌による打撃を続けた。
なぜか頭だけは攻撃が通じないので、頭を除く全身を打ちすえていく。
しかし頑丈にできているのか骸骨戦士は体を完全に引き上げてしまった。そして俺は、なぜ霧が頭を頑なに守り続けていたのかを理解した。頭以外の骸骨戦士の体を、徐々に浮かびあがる防具たちが覆い隠してしまったのだ。黒と銀の硬そうな鉄板鎧が、右手に構えた長剣がギラリと光る。
「ガァァァァァァァァッ」
俺に向かい、吠える黒の骸骨。戦力差は、比べるべくもなかった。