3話 まんねんどこ
俺が進化したい理由。
それは至って単純、死にたくないからだ。俺が少しばかり賢い理由である【知神の祝福】を受けた俺には死の概念、その恐怖が分かってしまうのだ。
もし人間ならば、治安のいい場所へ住んで平穏に暮らせば、天命を全うするか病死するまで死ぬことはない。だが俺は魔物だ。外ではなく迷宮の魔物として生まれたことも俺の死の確率を上げる。
どういうことかというと、魔物は普通の生物と同じ繁殖方法で増えるし、しかもきちんと食物連鎖の中―――頂点の場合が多いが―――に入っている。しかし迷宮というのは魔物を無限に生み出し続ける。皮肉を込めて「魔物の工場」と呼んだ有名人もいるらしい。
迷宮は放っておけば世界を魔物で埋め尽くす。
そう考えた賢明な人類は冒険者という職業を作り出し、迷宮の間引きに当たらせた。要は戦闘職だから上手くいけば金持ちになれて、しかも名声も手に入る。国としても他に生きていく方法がない犯罪者たちなどのいい就職先にもなる。
そんなわけで【カーリア国】とやらの統治下にあるこの迷宮にも結構な冒険者がやってくるのだ。
俺はむっつりとしながら壁の石版を一枚ずらした。小さい穴から腰を屈めて入り、また石版でフタをする。入るのが少々面倒だが警戒しておくに越したことはない。さっきとは逆に不意打ち、待ち伏せとかされたら一瞬で死ねる。
家の中は一人暮らしには少し広く、20m(横)×20m(縦)×3m(高さ)くらい。骸骨だからか余計広く感じるのかもしれないが。ちなみに魔物の住処なのにろうそく完備。合計5本着火するとすごく明るい。
今回の収穫を麻袋から出し、決めておいた場所に保管する。薬と少額の通貨は棚へ、武器と鎧は大きめの木箱へ収める。持ち物が少ない俺には重要な財産だ。
それから薬の入った段の隣から本を引出し、広げる。題名は【迷宮冒険指南書~基礎~】だ。これ、最近の愛読書であり、そして名著である。迷宮の魔物を舐めてんのかと思うほどの情報量だ。これを読めるのも【祝福】のおかげだ。ありがたや。
今読んでいるのは【第3章 レベル】というところである。
どうやら冒険者諸君はギルドというトコロで自分の現在の強さが分かるカードを貰うそうだ。それは便利だと舌を巻きつつ、それができるのは冒険者登録した者だけと書いてあって、少し落ち込む。
その強さを数字で表したモノ、つまるところレベルが100になれば人間が持つ職業とやらはランクアップするのだとか。これは多分、俺たち魔物における進化と同義だと思う。今どの程度のレベルか分からないが、それが100になればただの骸骨からスーパー骸骨になったりするのだろうか。夢が膨らんで仕方ない。
俺は適当なページまで読み進めると、本を閉じて硬いベッドに横たわった。
別に床で寝てもいいのだが、床で寝ると湿気とか寒さで自分の体―――全部、骨―――が風化しそうな気がした。骨折ならともかく風化はさすがに治る気がしない。