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25話 じんさいふたたび

 虚空や足元から滲み出るように姿を現した影が俺の体に纏わり付いた。

 蛇のように這いずる影はちょっと気味が悪いが、必要なことと割り切って我慢する。

 この間拾って以来俺の体を守っている鋼鉄鎧(プレートメイル)の上にのたうっていた影は、俺のイメージ通りに、鎧の凹凸部分に沿ってゆっくりと広がっていく。右手に伸びる影はそのまま小手を通過、片手剣の刀身にも纏われる。

 俺は鎧と片手剣を覆う影を一通り確認すると、コホンと咳払いをし、ビビりながら【魔術】の呪文を唱えた。

「【付与術(エンチャント)(シャドウ)】、【起動句(アクセスワード)】・【武装(アームズ)】」

 勝手に魔力が吸い取られるような感覚に続いて、影が染みるように鎧や剣に消えてしまった。

 いや失敗ではなくてこれは成功であって、影が消えてしまったわけではない。わざとだ、わざと。

 などと心の中で呟いておいて、自分でも不安になってきたので今度は別の呪文を口にする。棚に置いた紙片にある、自分の文字を見ながら間違えないようにはっきりと。

「【武装(アームズ)】」

 唱えると再び魔力が勝手に奪わる。それから溢れるように影が現れ、最初の呪文の前、つまり剣のみならず鎧も強化した状態になった。これが俺の奥の手その一となるはずだ。



 場所は住処(俺の家)。今はベインもルカも、国内の別の迷宮に行っているらしく、ここには俺一人だけ。

 何をしているのか、というと、思いつきの実行なのだが。詳しく言うと影の【魔術】によって簡単に武装を強化できるようにしておこう、ということだ。

 そもそも思いついたきっかけは例の文字通り頭痛の種である【勇者の冒険】だ。

 勇者と対峙する魔王の鎧の色は――絵によると――全身の鎧が真っ黒だった。元々の材質が黒いのか加工してあるのかは知らないが、それで思いついたのだ。つまり今持っている装備を『加工』によって強化できないかということだ。

 しかし当然鍛冶の能力も設備も無いし、そもそも頑丈かつ手を加えやすい材料など都合よく持っているわけがないので、それなら【魔法】もしくは【魔術】でどうにかできるかも、と思ったわけだ。

 そして先人たちが考えることは俺と同じだったらしい。

 この前ベインが持って来た本【魔術呪文辞典】を広げると、魔法を使うことを前提にした高等魔術として事細かく、丁寧な説明がなされていた。

 まず対象に魔法による強化を施し、その状態を維持した上で魔術を行使しなければならない。これが意外にもとても難しいらしい。

 というのも、常人ではまず【魔法】すら使えない上に、使えたとしてもその状態を保持しつつ魔術を使うなど不可能だとか。

 うむ、今では息をするように魔法が使える俺は相当異常、ということが分かった。魔法に関して全く努力をしていないわけではないが、日々研究をして魔術の腕と魔力運用の素質を磨く諸魔術師には申し訳ないような気がする。本当に【知神の祝福】には頭が上がらない。


 さて俺の目的は達成できた。

 試し切りでもするかと家を出る。するとそこには、懐かしい人災が。

「何だコイツは! いかにも危険そうだ、この僕が斬ってやる!」

 もう覚えていない程前、だが存在とそのむず痒さははっきりと俺の脳裏に残っている人物。以前会った時は俺を散々追っかけ回した挙句、作戦に引っ掛かっただけとはいえ魔物の死体を積み上げた恐るべき存在。その騎士風の鎧の小手にはしっかりと、あの剣が握られている。彼が呪文を高らかに唱えると、その刃から金色の炎が立ち上った。

「覚悟しろ、忌まわしき蘇人(ゾンビ)よッ」

 あの光と炎の青年が再び俺の前に現れた。


 ――あ、俺名前知らないんだった。



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