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 話  深奥の主

 虚無の闇。

 そこで座す一人の老人。色の抜けた髪と豊かな髭を垂らし、ただひっそりと瞑目している。その黒い石造りの椅子の前には一人の少年が佇んでいる。

 ボソボソした声。

「ご報告します、王よ」

「聞こう」

 よく練れた、低い地鳴りのような声。

「御意。……先日、彼が骸骨戦士(スカルウォリアー)から蘇人(ゾンビ)へ進化しました」

「それは良き知らせ。なれど力のほどは?」

「【影の業】を拙いとはいえ、使いこなしております。対の業である【光の業】を使う、下位の魔法使いを倒してみせました」

「ほぉ……さすがはオレの後継候補だ」

 微笑む老人。無表情の少年。

 微動だにしない彼の表情を見て王はにんまりと笑った。太い筋肉に包まれた腕を上げ指を鳴らすと、幾重にもとぐろを巻く闇がドロリと渦巻いて浮き上がり、薄く引き伸ばされる。不定形の闇を見つめたまま王がふと呟く。

「今の彼の武器(えもの)は何であったかな」

「並の刀剣であれば大抵は扱えるかと。ただ現在は少々大振りの、片刃の片手剣を使っているようです」

 ふむ、と頷いた老王の指先が虚空を滑り、闇の形を変えた。再度指が鳴る。

 弾けるように消えた闇の中から現れたのは一本の片手剣。僅かに反った刀身を持つ、柄から刃先まで全てが一つの(あか)い金属でできている。研ぎ澄まされた刃が濡れたような光を跳ね返した。

「これは……もしや、彼に与えるおつもりですか」

「あぁ。いや、無論あっさりくれてやるつもりはない」

 薄く責めるような顔つきになった少年に、言い訳をするように手を振る老人は、悪戯っぽく片目をつむってみせると地面に向かって軽く手を振った。地面から黒い棺がボコリと突き出る。

 バカリと開いたそこには、青白い肌を晒す美丈夫が一人眠るように目を閉じていた。

 少年は眠る男に向けていた瞳を王に戻した。浮かぶ困惑の色に、老王は口の端でクックッと笑った。見た目の年齢の割には随分な茶目っ気だ。

吸血鬼(ヴァンパイア)、ですか? いや、混血鬼(ダムピープル)でしょうか」

「後者だ。吸血鬼では種族的な差が激し過ぎる」

「となると、この者を剣の守護者になさる、ということですね」

「話が早い。さて、こやつの住処はお前に任せよう。彼の一番近くにいるのがお前であろう」

 少年は少しうつむいて考えを巡らすと、ふと静かに頷いた。棺から伸びる鎖を掴むと、その棺ごと溶けるように姿を消した。

 残された老人、不死王(ノーライフ・キング)は視線をスッと上に投げかけた。小さく言葉を紡ぐ。

「期待してるぞ、何しろオレの息子だからな」



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