22話 あとさきかんがえよう
あ、新居探すの忘れてた。そう気づいたのは部屋に入って装備を全て外した後だった。
うげ、と声を上げる。
「うわっ」
「どうしたんですか?」
僅かに狼狽えるルカ。読んでいる本【魔物に関する一考察】から顔を上げないまま、ボソリと応じるベイン。うむ、いつも通り普通の反応をしているのはルカだ。ベイン、お前の反応は異常だと知れ。
誰も聞きたそうでなかったので俺も本を取り出す。昨日拾った【魔法運用講座】。
ベインはもちろん、ルカも俺が以前読んでいた【迷宮冒険指南書~基礎~】を綺麗な姿勢で読んでいる。いやガチガチに緊張してるだけか。
とにかく、和やかな空気でも会話をする雰囲気ではないので読書を進めることに。
以下、著書まとめ。
まず魔力の運用は大雑把に二つに分類される。
元々決まった効力と魔力消費量が決まっている代わりに、決まっている呪文の詠唱が必要である【魔術】。昨日魔法使いの男――ゲイル、だったか? ――が使った【光矢】とか【光球舞踊】とかはこれに分類される。何でも呪文を唱えれば勝手に術式が魔力を吸って発動するのだとか。
それからもう一つ、素質と魔力への理解が必要で、かつ自由度の高い【業】。魔力を自分の意志で操ることができるなら可能らしい。しかしそもそも【魔術】への理解が無ければ発動不可能、らしい。こっちには光球やら俺の影が含まれる。
魔力は使用と共にほんの少しずつ強化され、さらに魔力の器も同じくちょっとずつ上昇するらしい。ちなみに迷宮の中では魔物の殺害で魔力の吸収が可能だとか。
特段分厚くない本だし無駄な修飾語が多くてうんざりしかけたけど、まあ、仕方あるまい。
しかしゲインが口走った【影の業】ってのはそういう意味か。そりゃ下級の魔物がそんな高等な魔力運用、普通はできないもんなぁ。俺もどうやって使ってるんか分からんし。あれか、恒例の【知神の祝福】へ感謝する時間なのか。
ん?
あれ、そもそも【影神の祝福】持ってた黒い骸骨も使ってたような……。
よしもう放っておこう。本一冊で分かるわけないか、うん、そうだそうだ。
「……ードさん、ジェラードさん!」
「うおっ。俺呼んだ?」
「今日はお暇して、魔物狩り行ってきます」
「お、お邪魔しましたー」
「あ、はいはい。気をつけろよ」
あれ? 俺、いつこいつらの保護者に? なんて思いつつ手を振って送り出しつつ、ふと思いついたことを実践する。
影を薄く伸ばし、扉にしている石版と壁の隙間を埋め尽くす。
ためしに手で動かそうとしても動かなかった。
防犯完璧!なんてニヤリと悦に入り、それから自分が出られない可能性に気づき慌てて【影の業】を一旦解除し、ホッとしてからもう一度扉を固定したのは余談である。