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18話 ふらんしたいとひかり

 初めて交戦する種族、腐人(ロッテンヒューズ)を難なく切り伏せ、長剣にへばりついた腐肉を振り払った。漂う微かな異臭にギチッと眉間にシワを寄せる。種族格差でいうと俺の方が上だが、湧く人数とグチャグチャの肉の斬り難さには閉口している。念のため持ってきた石弓は、わざわざ剣があるのに近接戦闘で使うワケもないので背中に括りつけてある。

 もし階層ごとの大きさが同じなら、俺の今いる位置は地下三階でいう真ん中辺りか。現れる魔物のほぼ半数がそれぞれ骸骨戦士(スカルウォリアー)と腐人で、ごくたまに竜骨戦士(スケルトン)が見受けられる、といったところだ。竜骨戦士とはまだ交戦していないが、おそらく蘇人(ゾンビ)と比べれば僅差であちらに軍配。戦う前にあちらの戦闘を見れてよかった。

 途中で倒した、長剣持ちの骸骨戦士から奪った鞘に長剣を納め、迷宮内、特に脇道を探索していく。歩くたびに響く、若干大きさが余り気味な鞘と長剣の触れ合う音、鉄鱗鎧(スケイルアーマー)の擦れあう音だけが今現在耳に届く音だ。死者の迷宮は自分ひとりの時は本当に静かだ。

 もっとも、と自分の感想を一部訂正する。

「奴らは一々うるさいが」

 前から聞こえ始めた金属音と叫び声。早足で近づくと、初めて見る広間のようになった迷宮の一角で、冒険者一行と蘇人(ゾンビ)を中心とする魔物の群れが交戦していた。戦況は硬直状態、僅かに人間の方が有利。その要因は(ワンド)から光の玉を放つ魔法使い、のはずだ。

 一行の編成からして堅実だ。(タンク)二人に攻撃(アタッカー)一人、魔法使いが二人いてその内の一人は癒し(ヒール)のみの専門。どうやら先ほど述べた光を操る魔法使いは【光属性】魔法にある程度通じているっぽい。攻撃も回復も行っている。あいつが要だ。

 俺は背中の石弓を外すと、静かに矢を装填した。残り少ない矢だが天敵の【光属性】使いしかも扱いなれているとあっては、出し惜しみしているわけにもいかない。

 石弓を向け、引き金を引く。弦の小さい音が鳴り、視線の先ではなぜか魔物が一体倒れ伏している―――!?

 俺は素早く二射目を放つ。だがそれも躱され、またしても一体の魔物の背中に刺さった。二射にわたる石弓の射撃を、しかも一発目は背後からの奇襲であった矢を躱してみせた魔法使いは俺の方を向いて舌を打った。

「ロン、始末しろ」

「ん?あぁ、了解!」

 ロンと呼ばれた年かさの冒険者が(スピア)を突きの形に構え突進してくる。槍が迫る。骸骨の時ならまだしも今の俺は柔らかい肉体がある。そちらは耐えられないかもしれない。だったら。

 霧を集め、引き抜いた長剣に纏わせる。剣腹に手を添えて盾にすると、嫌な音をかき鳴らしながら槍穂が剣の表面を滑っていった。流した格好からそのまま長剣を振って叩きつける。鈍い音を立てて2、3mを飛んだロン何某(なにがし)が、さらにもう2m程地面を転がって、やっと停止する。深々と亀裂が入った鎧の切れ目からは血が滴っている。

 それを見た魔法使いがボソッと呟く。

蘇人(ゾンビ)如きが【影の業】を使うのか……面倒な」

 言い終えると同時に光球が二つ、まるで投剣(ダガー)のようなスピードで飛んできたそれらを剣で弾くと、剣を覆っていた霧が一部千切れ、空中に霧散してしまう。

 問題なく霧―――あの男の言が本当ならこれは【影神の祝福】の名の通り影なのだろうが―――を再度使えるのを確認してから、視線を戻すと魔法使いの指の間に、奇術でもしているかのように光球が増えていっている。

「ロンが戦闘不能だ。カルロとヘイズンは防御に専念。バルトは後退、ロンの治療を」

「了解」

「どれほど持ちこたえればいい?」

「五分には片を付ける」

「分かった」

 淡々と、遠回しに死刑宣告を通達される。

 飛んでくる光の弾丸。光の極刑が始まった。


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