17話 おもいたったがなんとやら
自宅に引きこもること二日。暇過ぎて本を読破してしまったり、筋肉がついたからなのか強くなった腕力を活用、木箱の底から出してきた長剣で素振りしたりとダラダラ過ごしていた。意外と楽しかった。
長剣を木箱に一旦しまった時、石版がコツコツと叩かれた。小さく名前を呼ばれる。
念のため短剣を隠し持って石版をずらすと、肩から麻袋を下げたベインだった。招き入れ、成果を聞くと麻袋から何枚もの服がでてきた。こんなに布あったっけ、とびっくりしながら聞くと、なんと報酬に渡した回復薬を売って新品もいくつか買ってくれたのだとか。
「あれだけでは足りないでしょう」
ちょっと呆れつつ、でも俺が喜んでいるのを見て嬉しそうだったので、ひとまず下着と上下の服を着てから余ってる回復薬を全てあげた。あまり効果が高くないのも混じっているが冒険者という職業柄必要なはずだ。
「こんなにいいんですか?」
「冒険者からから貰ったモンだし、お使いを頼んだのは俺だしな」
服屋へのお使いにお駄賃を払った俺は、薬瓶と一緒に出してしまった短剣やら本やらを戸棚に戻した。ふむ、と満足して頷く俺に、隣へ立ったベインが顔を向ける。ドコか真剣な顔つきだ。
こちらも向き直るとベインは麻袋から一枚の紙切れを取り出した。印刷された字で【冒険者ギルド 緊急連絡】とあり、宛名には【ベイン・ローゲル】という文字が、こちらは手書きではっきり書いてある。ちらりと確認の目線を送ると一つ頷きが帰って来た。こちらも頷き返し目を通す。
『近日、【ヴァレン迷宮】に特殊個体が現れました。鎧と長剣を装備した黒い骸骨であるという報告が、先日の四肢欠損により入院中のオルデガ氏より入っています。聖教会によりますと神の祝福を受けている可能性があるということです。生存している目撃者は彼だけではありますが、彼のランクCを考慮に入れた上で今回の緊急連絡となりました。十分警戒してください』
簡潔な文章。それだけに要点がはっきり伝わる。オルデガ氏、おそらくは前に腕を斬り落とした黒衣の冒険者はそれなりの強さであり、彼がやられたから注意しろ、ということだ。
それから黒い骸骨というのは間違いなく俺のコトだろう。今は違うが。
これで分かったことがいくつかある。
まず、間違いなくより多くの強い冒険者が入ってくることになるだろう。それはギルドが呼びかけたということにより、低ランクの冒険者はココを避け、代わりに腕試しの強者が訪れるということだ。俺は以前見た、【聖属性】を内包した炎をまき散らして去っていった青年を思い出し、顔をしかめた。まず間違いなくアレには負ける。
それから宗教関係者にも話が伝わっている。すなわち行き過ぎた信仰心を持つ輩が―――どれぐらいいるか知らないが―――大勢襲ってくる可能性もある。
俺はげんなりしてベインを見つめた。紙を返し、ありがとうと声を返す。どうするんですかと問うベインには答えず、腕を組んだ。目を閉じて【知神の祝福】に集中する。
この迷宮から移る。ここから出て、いや無理か。別の迷宮を目指す以上、ここと到着先の街、二つの敵である冒険者の街に行くのことは今の俺では不可能。
現状維持。確かに外に出るよりは安全だ。だがこの階層の魔物では進化できそうにないし、なにより一か所に居続けると危険が増す。下策とも言い切れないが却下。
地下に降りる。しかし今の家のように都合よく居住空間があるかと言えば、まだ調べていないから断言はできない。保留。
引きこもる。なかなか魅力的だが同時に、戦うこともできなくなるのでこれ以上の進化は期待できなくなってしまう。
薄目を開けると、恐々とベインが覗き込んでいた。それに対し俺は朗らかな声を上げた。
「家を探そう!」
「はい?」
思考の過程が分からず混乱するベインを一度帰らせ、俺は地下二階・三階と散策を始めた。