16話 ぜんらたいき
目が、覚める。
ムクリと体を起こし、寝ぼけ眼をゴシゴシと擦る。はっきりしない頭のまま首を巡らすと驚いた顔の少年と目があった。見開いた目と口がすさまじい光景を俺に投げかける。
「ベイン?お前口から何か出てきそうな顔して」
「ジェラードさん!」
ツカツカと詰め寄って来るベイン少年。血走った目でまじまじと全身を観察される。骸骨眺めて楽しいか、少年。もしかしてそういう趣味か?迷宮一周りして来い、骸骨いっぱい夢いっぱいだから。
自分でも取り留めのない思考を辿りながら意識がはっきりするのを待つ。だがその前にベインがおずおずと口を開いた。
「ジェラードさん、いつですか進化したの」
「………は?」
「いや、ですから、いつ進化したのかと」
ぱちくり。ベイン少年の言葉に目を瞬いた。シンカ?あれか、進化か。
手を掲げて眼前に差し出すと、血の引いた青白い腕がぬっと現れた。色々な角度から眺め回す。次いで頭に触れると乾いた糸っぽい感触。ベッドから降りれば同じく青白い脚が目に映る。長剣を拾い上げ腹を覗き込むと、鈍く反射する自分の顔が映った。
冷たく乾き切った短い黒髪、輝きのない黒い瞳。骨に直接皮が張り付いてそのまま乾燥させたような頬はひび割れも走っていて、例えばここにいるベインと比べて美少年とは到底言えない。不気味さでは骸骨より上ではないだろうか。枯れた人形のよう、といえばわかるだろうか。
しかし―――。これは蘇人だろうか。肉がついているからその可能性は高い。
「昨日、か?いきなり頭が痛くなって……そん時か」
口から飛び出す若々しくもそれなりに低い声に慣れない。
「ずいぶんと、あっさりしてますね……」
「そうだな……」
自分でも気づかないうちに進化とか、努力してきた身としては、なんか味気ないというか。がっくり来てしまうのは仕方ないだろう。
それにしても骸骨から進化したせいか、裸である。一応言っておくとブツはあった。パリッパリに乾燥して縮こまっててもうソレと判別つかないけど。気づいたところで咄嗟に霧を出してみると、以前とは違い虚空から黒い霧が現れ、俺の腰から下を腰巻のように覆った。まだ使えることに安堵したがそれにしても祝福の無駄遣いである。
聞くとルカは用事があって来ないそうなのでとりあえず、ベインを放置したまま長剣を持って出撃した。地下二階に駆け降り骸骨征伐に励む。ちょっと強いヤツになると鎧とかを身につけている個体もいる。俺が狙ったのはそれだ。進化した影響か、霧を少量なら分散させられるようになったので、長剣片手に大暴れ。
短剣とわざわざ霧で強化した指先で鎧をバラバラに分解し鉄板だけその辺に捨てる。
その間僅か5分程で、バラつきはあるものの大体40㎝×30㎝くらいの布が腕一抱えも集まった。それらをまるごとベインに押し付け外の街で服を作ってきてくれるよう頼む。目を白黒させるベインに対価として結構質の良い回復薬を与え、俺の部屋から押し出した。
早く、霧の腰巻状態から脱出させてくれ。
ベインの帰りを待ちわびる俺だった。