14話 せんぽう
初めてマトモな会話がなりたった昨日のことを思い出して和みつつ、すっかり手に馴染んだ長剣の腹を振り回した。腰の入った一撃が骸骨戦士の骨を折り砕く。
俺のいるこの地下二階ではもはや骸骨しかいないことが分かっているので、両刃の剣を普通に扱っていては刃が潰れているし効率が悪いと考え、打撃武器として使っているのだ。一応木箱に小槌が転がっていたと思うが間合いが致命的に短いのでお蔵入り。
今日も早々に起きた俺は今までの反省を生かし、地面からズブブと湧いてくる格上の骸骨戦士の奇襲を繰り返している。
時には周囲の警戒を忘れてしまい冒険者と遭遇してしまったが、こちらも慣れたモノで、全身に霧を纏うことで攻撃を無力化しつつ様子見、勝てそうなら力押しヤバそうなら逃げるという方法で切り抜けている。
幸い今までに襲われたのは全身之筋肉と言わんばかりの巨漢。豪快に笑いつつ剛腕を振り回してくれたおかげで盾がバラバラに粉砕されてしまった。ボロボロとはいえ、それなりに分厚い木製の盾を一発で木端微塵なんて本当になんというか……。お陰で防具はもう鉄鱗鎧しかない。
脇道に逸れて逃げるという実に下手くそな手段で逃げたが、骨が黒かったことと相手が脳筋だったことが俺を救った、と思われる。こっそり覗いてみると歯をキラリと閃かせながら突撃、骸骨の群れを真正面から粉砕していた。―――素手で。アゴが落ちるかと思った。
そんなわけで今現在は、戦闘が一つ終わったばかりの中年の男を背後から切ったところだ。
卑怯?何か問題でも?勝てばいいんです。と堂々と心の中で言い放ちつつ、仰け反った背中をズブリと貫いた。霧で強化された突きがあっさり分厚い胴体を貫通したところで水平に倒した刃を薙ぐ。心臓から左脇に掛けて血が吹き出し、俺を濡らした。
長剣を振り払い鮮血を振り払うと、背中越しに向けた視線に振ってくる大剣が映った。合わせて聞こえる奇声にゾクリと冷たいモノを感じて、霧の位置を変える。覆える範囲が広がって来てはいるが、複数の箇所を満足に強化できないのだ。長剣に纏わりついていた霧が骨を伝い空を舞い、背面に集中する。盾と化した背を向け踏ん張って―――
(ぐッ)
とんでもない衝撃が弾け、ごろごろと地面を転がった。慌てて立ち上がり振り返ると目前に刃が迫っていた。厳つい大剣ではなく、鋭い切っ先。
咄嗟に長剣を振ると、一本の突剣が回転しながら飛んでいった。
「チッ」
舌打ちのした方向に目を凝らすと、逃げていく痩身の男が見つかった。黒ずくめの衣装が闇に溶けていく。地面には業物とは到底呼べない鈍な大剣が捨ててあり、その少し先に突剣も。先には血が付着している。どうやら思いっきり跳ね返したらたまたま当たってしまったらしい。なんというか、不運な冒険者である。
すかさず追走。骸骨を避けて走る男を追いかけ、強化した長剣で骸骨を叩き伏せていく。どちらにとってもなんの障害にもなりえない骸骨たちの骨をばら撒いて、俺たちは階段に辿りついた。この先は俺が住んでいる階層、地下一階。
徐々に詰まる俺と黒ずくめの距離。予測に過ぎないが、たぶん傷と緊張と疲労のせいだろう。もちろん俺に疲労なんてモノはない。不死系統の底なしの体力舐めんなよ、元々弱いからあんまり役に立たないけどさ。
追いつき、並走する。目を見開く男へ、頭上から剣撃を落とす。
「グ……ァァッ」
血が舞う。パタパタと地面に散るそれの元は千切れた右前腕部。腕が地面にボトリと落ち、再び繋がろうとするように男に切り口の方を見せた。
だが命を奪うに至らない。男はほうほうの体で逃げていってしまった。