13話 お・も・て・な・し
カーリア国、【ヴァレン迷宮】地下一階。
階層全体の位置では大体真ん中にある横道、その脇道の片隅に俺の家はある。この迷宮に仲間と同じように湧き出て来てかれこれ三か月ほど。襲われた新人冒険者を殺害し愛読書と巡りあい、進化の存在を知って強くなろうと自分から戦い始めてから見つけた隠し部屋的な場所なので、住み込んでからもう二か月半にはなるだろうか。
その愛しの我が家には今、史上最多となる三名の生物がいたのである。なにげなく、自分以外で知能を持つ生物との会話は人生初だ。
「ジェラードさんの種族って何ですか?」
『骸骨戦士』
「……黒く、ありません?」
『だが体の形は変わったことがない』
少年が首を捻りながら言葉を投げかけ、骸骨な俺が筆談で受け答えする。違和感しか感じない不思議な空気に、ルカと紹介された、こちらも初めて見た女性の冒険者がかなり引いている。まだ俺への警戒は残っているが悲鳴を上げて逃げないだけ胆力があるということなのだろう。そうでなくては冒険者など務まらないはずだ。
「…!」
ちらりと横目で見たらかなり大仰にビクッとした。少し傷ついた。
「三か月、ですよね」
『私の記憶が確かなら、な』
「で、その間は殆ど戦い続け」
『そうだな』
「とっくに進化していてもおかしくないと思うんですけど…」
本気で頭を抱えた。
ベインと名乗った少年の知識は驚くほど正確だった。試しに彼がまだ読んでいないはずの項目について質問すると、記憶を手繰り寄せながらも正確な返答を返して来ていた。そのベインが言うなら正しいとみるべきだろう。
『一般的には骸骨戦士ってどうなるんだ?』
「そうですね、聞いた話では蘇人か竜骨戦士ですね」
肉が付くか骨が硬くなるか、といったところか。俺は何となく竜骨戦士になる気がした。いや、単なる勘だが。しかも何の根拠もない。というかそもそも進化できる気がしない。
「ジェラードさんはどっちになるんでしょうね」
「強くなったら困るでしょうが!」
ルカさんとやら、全面的に君が正しい。俺にとっとと順応した上呼びにくいからとあっさり名前を付けた君の適応力は、まるで黒いアレだ。昔はここにもいたが、いつ骨をかじられるかと心配した俺がネズミともども殲滅してやった。血の通った肉ならともかく骨って治るんだろうか。
ちなみにジェラードというのははるか昔にいた賢い魔法使いのことを言うらしい。魔法使いじゃないだとか根本的に種族が違うだとか突っ込まなかった俺はきっと空気を読める骸骨だ。
「あとベイン、もう帰らないとヤバイよ」
「あ、そうだった」
立ち上がった二人に顔を向けると、ベイン君はにっこり笑って
「また来ます」
「来ないわよっ」
『いつでもどうぞ』
魔物とヒトとは思えない、ほのぼのした時間に俺の心は和み、おそらく傍から見ていたルカは心をすり減らしたことだろう。
今日はいい日だった。
いつもより遅めにベッドに入り、しみじみ思う俺だった。