12話 しんにゅうしゃ
血がべったり付いた鎧と長剣を手に、俺は重くなった気がする体を動かした。命を奪い、殺すことへの忌避感は全くない。ないのだが俺は自分の行いについての絶えない反省に悶々としているのである。
どう考えても軽率だ。散々、しつこく慎重に動こうと決めたじゃないか、と。先ほどの戦闘含め戦いの専門職なんかと真正面から戦うのは馬鹿のすることだ。【祝福】二つとはいえ種族はほぼ最弱、初心者冒険者でもセンスが良ければ奮戦の結果殺される。
どうも【知神の祝福】は知識は与えても自重は授けてくれなかったようだ。
反省を終えると、剣を使っていた青年の状態のいい盾を貰い、投げっぱなしで失くしていた分の短剣を回収した。そしてもう一つ。魔法使いの持っていた杖に関しては取扱い方が分からない。そもそも魔法なぞ使えないし、今現在魔法を使う予定もない。つまりは木箱の肥やしとなる以外の道はない。ちなみにかなり前に殺したヒーラーの杖はない。お仲間の武器に叩き折られてしまったからだ。
勘違いの末に得た戦果を担ぎ、自室に戻る。その道すがら、俺は一つ思いつく。
周囲が弱いからはしゃいでしまう。それならいっそ、もう少し地下に潜って本当に強い奴らと混ざった方がいいのではないか、と。
しかしまた別の疑念が頭をよぎる。この思考すらも調子に乗ったが故に出て来たものではないか。
思考のループからはしばらく、抜け出ることはできなさそうだ。
俺はグルグルと回る思考に浸かりながら自室の扉を潜った。
「うわっ」
「え、ってわわわわっ」
……なんだこれは。
そこには、愛しの我が家に居座ってのほほんとしている若い冒険者が二人。片方は女。穏やかそうな少年の方は俺の愛読書を片手に固まってるし、少女からしては腰を抜かしている。どちらも武器を壁に立てかけていて、その緊張感の無さが伝わる。
それで、武器を咄嗟に俺の方に引き寄せてしまったのは俺のせいじゃないと思うんだ。
「ぶ、武器が!」
いや焦るくらいなら不用心にほったらかすな、と少々呆れつつ、この不埒者たちをどうしてくれようかと考える。とにかく侵入した理由が知りたいがどうしたものか。
ほら俺ってご存知の通り舌も声帯もないから。いくら発音の知識があっても喋れないんだ。
俺は片手をむき出しの頭蓋骨へ乗せ、むむ…と悩み込んだ。どうやら積極的に向かってくる様子もないみたいだし、ここは情けを掛けておくか。
一つ頷くと、少女の方がビクッと震えた。失敬な、そんな怖がること―――あるのか。見た目骸骨な俺が動くって魔物以外ありえないのか。もう少し他人からの視線に気を付けてみよう。
俺は武器を背後の壁に、つまり冒険者の男女から一番離れた場所に預けると、指を地面に突き立てて反対側からも見えるように上下逆の字を書き始めた。
『こんにちは。ここ、つまりこの部屋の主である骸骨戦士だ。一応言っておこうか。いらっしゃい、我が家へ』
少女はもうそりゃ驚愕という言葉以外似合わない顔で俺と地面を交互に眺め、少年の方は驚いたのは始めだけで、後はずっと好奇心まみれの目だった。あまりの差異に少々おもしろくなってしまう。
俺は手のひらで文字を消すと、新たに文を書き上げた。
『驚くところもあるかもしれないが、主としてそちらのお名前を聞いておこうか』
「僕はベイン、彼女はルカといいます」
「ちょ、ちょっとベイン!」
喚く少女は俺そっちのけでベインなる少年に怒りを露わにした。それを見ていると少々おかしく、俺は絶対にこの二人を殺さないことに決めた。




