10話 ばかものがたくさん。
朝。というか迷宮から一歩も出たことがない俺の体内時計基準なので、朝ではないのかもしれないが。
それはともかく、俺は今日も地道に強くなるための狩りにでることにした。
ちょっとボロい鉄鱗鎧に縁の木製部分がボロボロになってしまった円盾、無骨な長剣。この数日で装備がかなり良いものに変わった。特に長剣には主戦力になってくれるだろうと期待しているので、今日は石弓は持っていかない。短剣はこの間の青年に弾かれた後行方不明だ。
それはそうと、俺の戦闘力では今の地下一階ではどうにも物足りないということは安易に予測がつくだろうか。何しろこちらの攻撃は昨日のように【影神の祝福】による例の霧でどうにかなるだろうし、敵の攻撃は盾はともかく鎧があればなんとかなるだろう。盾は冒険者から貰えばいいか。
胸中にんまりと笑い、いつもと違って堂々と部屋を出る。何しろ【祝福】二つだ、どんなヤツが来ても―――
「いたぞッ魔物だ!」
すいません調子乗ってました。というか昨日自重したところだろうが!と密かに自分を詰る。油断もいいトコだ。
右手を向けば、三人の冒険者が抜剣しながら走って来ていた。どうやら敵を舐めているのは向こうも同じことらしい。普通どんな敵かも分からないのに走ってくるのは愚かとしか言えない。実力は不明だが中身はとんだおバカさんらしい。
手に携えた抜き身の長剣を構え、一足先に突っ込んで来た冒険者の一撃を受け止める。いかにも安物な銀色の刃とかっちりとした雰囲気漂う刃が激突する。鈍い音と共に弾きあったそれらは、片方が持ち主を頭上へ引っ張り、片方が横に引かれ、と全く別の軌跡を描く。
もちろん意図して冒険者の体勢を崩した俺が、腰の辺りに長剣を構える方だ。
「うぁッ」
重たげな鈍色の刃が革鎧ごと、冒険者の胸をざっくり切り裂いた。鮮血が飛び俺の鎧を濡らす。
「ルード!」
悲鳴のような叫びが反響し、片割れが一直線に俺に向かってくる。少々小ぶりな片手剣が頭骨を狙って迫るもののあっさりと盾で防ぐ。表面を削りながら流れた刃が向きを変え、何度も盾に衝撃を伝える。お世辞にも鋭いとは言えない剣筋に少々呆れ、盾の欠損を考えると何やら勿体なく感じたので即行反撃に出る。
盾のこちら側で見えないように突きの構えを取る。それと並行して例の霧を集め、長剣をズルリと覆わせる。そして嵐のような剣撃を盾で強引に押すことで退けた。
「うあァァァァッ」
吠える、血走った目の人間。再び怒涛の拙い攻撃が始まる前にこちらの一撃を捻じ込む。
右上から振った一閃が防御に構えられた片手剣を吹き飛ばし、地に突き立つ直前で力の向きを真逆に変える。そして、次の下からの振り上げる刃が、腰から胸元までに長い斜めに走る深い傷を与えた。自分と相棒が生み出した血の海にバシャリと浸かりながら、ピクピクと痙攣する姿は、やがて完全にその命を迷宮に散らした。




