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1話 ぼーんらいふ

 俺は洞窟の壁、窪んだ一部分からこっそりと、現在骸骨兵士と戦闘中の冒険者の一行を覗き見ていた。

 編成は四人。防御担当の(タンク)が一人、槍と剣のそれぞれを装備していた攻撃(アタッカー)が二人に最後は癒し手(ヒーラー)。迷宮攻略のお手本のようなパーティーである。だが、

(あー相性が悪いわー)

 呟いた俺の目の前で、銀色の長剣(ロングソード)が閃き骸骨兵士(スカルウォーリア)の肩口に、綺麗に決まった。だがその刃は固い骨に阻まれ、あまつさえ刃を喰い込ませたまま離さない。当然だ、骨というモノは衝撃には弱いが、ああいった武器では切断しにくいのだから。

 愛用の武器を封じられた痩せぎすの男は、泡を喰って剣から手を離し退いた。その判断は正しい。おそらく経験の浅い初心者ではなかったらしい。腰の鞘から大振りの短剣(ナイフ)を取り出して必死に応戦しているが長くは保たないだろう。今もとうに短槍(スピア)を失ったもう一人のアタッカーと二人、次々と襲い来る骸骨と危うげな攻防を繰り広げている。

 一方タンクを務める大柄な男は健在だった。無骨な手斧(ハンドアックス)に巨大な長方盾(タワーシールド)という装備の彼は盾を打撃に、手斧を防御に使い分けることで襲い来る骸骨たちをバラバラに粉砕していた。しかしやはり、状況をひっくり返すには至らない。

 唯一戦闘に参加しないはずのヒーラー―――これも男―――ですらも、治癒魔法を使うはずの(ワンド)で骸骨兵士の頭を殴っている。

(お疲れ様です)

 静かに、カンッ(・・・)と手を合わせておく。どうなるかが、目に見えているからだ。

 まず倒れたのは本来槍を使っていた男、いつも使っている槍と慣れない短剣との間合いの差が仇となった。勢いよく突き出した鋭い突きが空振り、ボロボロの刃に首筋を裂かれ崩れ落ちた。そして彼が引き受けていた分の人数が剣士に殺到し、あえなく惨殺。

 たった二人になった冒険者たちは追い込まれていった。だが俺は一つのことに気が付く。

 骸骨戦士の数が、着実に減っている。

 幅の広い盾を振り回すことで周囲の敵を薙ぎ払うのだ。それは古びた骨の体を有する骸骨戦士に対する、最高の直接攻撃手段と言える。

(すぐに、全滅する)

 骸骨戦士の行く末を確信した俺は、肩紐から提げていた石弓(クロスボウ)に矢を一本装填した。どちらも随分前に拾ったモノで、クロスボウはできる限りの手入れをしてある。カチリと小気味よい音。俺は、引き金を引きさえすれば発射できるクロスボウを抱えて、壁越しに冒険者たちを見た。

 背を向けたタンクの男が、最後の一体を壁際に追い詰め、押し潰しているところだった。健闘、まことにご苦労なことだが、残念ながら彼らには退場してもらわなければいけない。

 ゆっくりとクロスボウを構え、指をゆっくりと引き絞っていく。

「ぐッ」

 矢が空を切り裂いて飛び、タンクの男の頭を貫いた。軽い音と共に矢が突き立ち、頭が揺れる。倒れるタンクの男を視界に収めたヒーラーは、硬直した。おそらく安堵の念を吹き飛ばされて呆然としているのだろう。次の一矢を装填し放つと、死んだ仲間を治療しようと(ひざまず)いたヒーラーの背に突き立った。倒れる、最後の冒険者。

 俺はやれやれと溜息を吐こうとし、口から何もでないことに気が付き、苦笑い―――これもできないが―――を心の中で浮かべる。

 実は俺、魔物に分類されている種族だ。まあ冒険者を殺していた時点でそれしかありえないのだが。しかも【知神の祝福】とやらを受けたお陰で、他の魔物より数倍賢くなった―――


 骸骨戦士なのだから。

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