プロローグ 第一発見者は私です。~ある侍女の証言~
私の名前はエナ。年は十八歳、王宮で侍女をやってます。
国ではそこそこ名の知れた商家の出なのですが、行儀見習いの為に、貴族のお屋敷で侍女をさせてもらってました。そう、元々私は、王宮に来る予定なんてなかったんです。
それがある日――え? 私の生い立ちはどうでも良い? では、この辺は飛ばします。大した話でもないですしね。ちょっと傷つきましたけど!
ええと、それでは、私が事件に遭遇したときのことをお話しますね。
あれは、初夏の頃でした。マリィ様付きの侍女の方が、私用があるとかで、主の傍を離れることがあったんです。三日ほどでしたけど、その期間、代わりの侍女が必要になりますよね。
そこで私が登場するわけです! ……あれ? あんまり驚かれませんね。何だか残念な反応ですけど、侍女仲間には物凄く驚かれたんですよ。何でエナが! みたいに。ちょっと失礼ですよね。
とにかく、私は三日間だけのマリィ様付き侍女となりました。
私は、ごくごく普通に仕事をこなし、最終日がやって来ました。展開が早いのは気にしないで下さい。特に意味はありません。
最終日は、マリィ様が例の場所へお出かけされる日でしたので、私も付いて行きました。マリィ様は、ご自分の用事が済むまでは好きにして良いと仰って下さったので、私は城下をぶらぶらしてました。久々の城下だったこともあって、私は散策を思いっきり堪能していたんですが……その所為で、大失態を犯してしまったのです!
なんと私……主を迎えに行くのを、すっかり忘れておりました。
ごめんなさいごめんなさい、お許し下さいっ! 本当に、ほんっとうに反省しております! そのような愚行、二度と――はい? 話が進まない? ……それも、そうですね。で、では恐れながら、話を戻させて頂きます。
というかですね、事件はここで起こるのです。ここで私は、見てしまったのです。知ってしまったのです。
主の、恋を。
――今の表現、何だか詩的じゃなかったですか? ……あぅ。すみません、ここは冗談を言う場面ではなかったですね。すみませんでした。
え? そのときの状況を詳しく、ですか?
私も途中からしか確認していないんですけど、マリィ様は、ある一点を見つめていらっしゃいました。つまり、意中の殿方を。あれは、間違いなく恋です! だって、塀の影から、一人の殿方の背中を見つめる、なんて分かり易過ぎると思いません? しかも、あれは「出待ち」とみました。なんといっても、マリィ様がその場に行かれて偶然会うなんて、有り得ませんもの。その殿方の通われている学校の、しかも正門の前ですからね。
そんなこんなで、私の目は、マリィ様の恋をしっかりと捉えたのです。ふふふ。知ってしまいました。マリィ様をお迎えにあがろうとして迷子になってしまったのは、不幸中の幸い……いえ、運命だったのではないでしょうか!
私は恋バナが大好きです。侍女仲間とも、実は結構してるんです。あ、遊んでばかりじゃないですよ? たまーに、ですよ?
と、とにかくですね、私はマリィ様の恋を応援することに決めたのです。マリィ様の身分がどうとか、相手がどうとか、そんなの関係ありません。恋愛は人間に許された当然の権利なのですよ! そう、「恋愛は自由」なのです!!
はい、同じことをマリィ様にも申し上げてしまいました。つい、熱くなってしまいまして……。だってマリィ様、なかなかご自分の気持ちをお認めにならないんですから。確かに王女というお立場を考えると、難しいことなのかもしれません。
しばらくはマリィ様と私の攻防は続きましたが、遂にマリィ様はお気持ちを打ち明けて下さいました。やはり決め手となった台詞は、「恋愛は自由」でしょうか。
これが、「マリィ様、恋に目覚める事件」の真相です。
そこからは、ご存じの通りです。マリィ様の行動力には、私も驚きました。さすがはマリィ様。恋する乙女の力は凄いのです。私も、全力でお支え致しましたとも。
……あれ? なんですか、その目は。まるで、元凶が私だとでも、仰ってるかのようじゃありませんか。違いますよ。違いますったら。この一連の事件は、起こるべくして起こったんですよ、きっと。
いえ、絶対。そうですよね?