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乱入者

糸目さんは部屋に入ると意外そうな顔をした。

私の部屋は、離れを改装してあるだけありかなり広く、小さい台所、トイレ、風呂もそろっている。

玄関から入った目の前には台所、玄関から右手に寝室、その奥に洗面台やトイレ、風呂と続いたつくりだ。


「きれいにしてますね」

「どうも」


玄関で立ち止まっている糸目さんを尻目に玄関を上がり、台所の前に立った。

玄関から上がろうとしたときにうっかり靴を脱ごうとしたが今自分が裸足なのを思い出し、ふと気になり糸目さんを見ると、革靴を履いている。

糸目さんは靴を脱ぐのだろうか、と注目してみると糸目さんは初めて会ったときのように空中を歩いていた。


糸目さんが土足で歩いて床が汚れるとは思えないが(死神と名乗っているし、実体ではないのだろうし)土足で畳を歩かれるのは抵抗があったので安心した。

そういえば、さっきまで私も空中にいたのに、今は床に足がついている。

足がついている、とはいっても感覚はないのだが、とりあえず空中にはいない。

どういうことだろうか。


「糸目さん」

「はい」

「私はさっきまで空中にいたと思うのですが、何で今は浮いてないんでしょう?」

「それは、あなたのイメージだからですよ。あなたはこの部屋で浮いてすごしていたわけではないでしょう?だから無意識のうちに床に下りているんですよ、もしまた浮きたければ浮いている自分を強く意識すれば浮けますよ」


つまりはイメージらしい。

病院から移動するときにも自分の部屋をイメージするように言われ、強くイメージするとこの部屋の前にいた。

そういうことなのだ。

そういうことにしておこう。


台所を見ると朝のままになっている。

朝、弁当と朝食を作ったあとの食器が洗い場に置きっぱなしだ。

うっかり洗うのを忘れていた。

思わず食器に触れようとするがすっと手が通り抜けてしまう。

今、自分に実体はないのだと改めて痛感する。


糸目さんは礼儀正しく私の後ろに立っている。

何となく、おとなしい大型犬がおすわりしている姿が目に浮かび和やかな気持ちになった。


台所と寝室の間にはふすまがある。

ふすまを通り抜けると自分の生活の大半を過ごす寝室が目に入った。


「あのー入ってもいいですか?」

「どうぞ」


断りをいれてから にゅっとふすまから糸目さんが現れた。

出てくるところを見るとかなりシュールだ。

一瞬叫びそうになったが何とか抑えた。


糸目さんは部屋を見渡している。


「なんていうか・・・殺風景ですね・・・・」


糸目さんが言うとおり私の部屋は殺風景だ。

机と本棚、ベッド、タンス、備え付けの押入れしかない。

女子高生の部屋というのはもっとぬいぐるみ等のかわいらしいものにあふれているものなのだろうか。

黙っていると糸目さんが慌てているのが分かった。


「すいません、何か緊張しちゃって」

「別にいいですよ、本当の事ですし」


糸目さんは私の機嫌を損ねたとでも思ったようだが私にはもっと別に気になることがあった。


「で、この後どうすればいいんですか?」

「はい?」

「糸目さんが、とりあえずここに来るように言ったんじゃないですか」


糸目さんが一体どういう意図で私の部屋に来たがったのか分からない。

何の意図もないことはないだろう。


「はい、それは『心の涙』を手に入れるには、やはり血縁者や共に暮らした人が一番適任だと考えたからです」


その言葉に心が一気に冷えたのを感じた。


「どうか、しましたか?」


この家に、私を自分のこと以上に思ってくれる人がいるのだろうか。


「無理です」


答えは否だ。

祖父を初めとしてこの家の人たちは私を厄介者として扱っている。


「この家に、そんな人はいませんよ」


自嘲気味に言うと糸目さんは私の目の前に移動してきた。


「そう思っているのは、貴方だけかもしれませんよ。人は、目に見える部分以外にもたくさんの思いを持つ生き物ですから」

「・・・・・・」


糸目さんがいくら言ってもどうしてもそうは思えない。

この人は知らないのだから。

この家の事を。


しばらく沈黙が続いた後糸目さんが空気を断ち切るように促した。


「では、本宅の方へ行きましょうか?おじい様がいらっしゃるのでは?」

「祖父はこの時間は会社にいますよ」


でもとにかく行きましょう、と糸目さんが私を部屋の外へ連れ出そうとしたとき、扉が開いた。


合鍵は本宅の人が持っている。

だから、緊急事態の際に人が入ってくることは想定できる。


少ししてから着物の裾をさばく音と荒々しい足音と共に寝室のふすまが開けられた。


そこには肩で息をしている初老の着物姿の女性がいた。


糸目さんは突然の乱入者に驚いている。

私も声が出なかった。

私の姿が見えていないその女性は私の目の前を横切った。


「・・・石橋さん」


この家で古くから女中をしている女中頭の石橋さんだった。


石橋さんは部屋を見渡し、荒々しく本棚を探った。

本といっても教科書や資料集ばかりで、それらが床に落ちて騒音を立てた。

糸目さんも石橋さんには見えていない。

目的の物が無かったからか糸目さんの立つ真横にあるタンスの観音開きの扉を開けて中をあさった。

扉を開けた時に糸目さんに扉がぶつかったが、やはりすり抜けていた。

糸目さんは初めこそ驚いていたようだが、目が開いていない所をみると落ち着いてきているらしい。


「・・・こちらの方は」

「本宅で女中頭をやってらっしゃる石橋ミツさんです」


石橋さんはタンスにも目当てのものが無かったらしく、最後に押入れを開けた。


そして、目的の物を見つけ、大事そうに手に取った。



大分遅くなってしまって申し訳ありません。

なかなか話が進みませんね・・・

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