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私の名前はヨシサワカオルです

「ちょっと待ってください」

 糸目さんは慌てながら手帳を何度もめくった。

「確認してもいいですか?」

「はあ」

「あなたは今日、朝6時50分頃にバスの事故に遭いましたよね?」

詳しい時間は覚えていないが、家の傍のバス停で6時40分に来る予定のバスに乗った。

一人掛けの席が一つだけ空いていたのでそこに座った。

5分もしない位置にある次のバス停で乗ってきたおじいさんに席を譲って、本を読むふりをしてすぐに身体に衝撃があって意識がとんだ。

ざっと計算するとまあその位だろう。

「そうですね。その位だったです」


糸目さんは黙り込んで何度も手帳を確認している。

流石に不安になってしまうが、聞ける雰囲気ではない。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


この無言の空気は何とかならないのだろうか。

正直、自分がもうすぐ死ぬと言われた時より居づらい。


仕方がないのでとりあえず糸目さんの説明を思い返すことにする。


朝、いつも乗っているバスで事故に遭って、気が付いたら自分を見下ろしていて

やっぱり空中に背広を着た糸目の人がいて名刺だして

名前読み間違えて注意されて

背広の人は「シキモク」さんで

糸目さんは死神で

私に私の今の状況を説明するためにやってきたらしい

その説明を受けるために私は幽体離脱っぽいものをしていて

この幽体離脱っぽい状況は死神である糸目さんが作り出した

今私の魂と肉体はつながっていない。

私の肉体は今呼吸もしてるし心臓も動いてるし脳波も正常だけど魂が無いから長くはもたない


だから


私はもうすぐ死ぬ。


何とか理解はできた。

不思議なものだと思う。

よく、「もしも明日自分が死んでしまったら」と考えたことはあったが、実際にその場面に直面しているというのにあまり動揺していない自分がいる。


糸目さんの言ったように、泣き叫び、絶望するのが当たり前なのだろう。

悲しくないわけでもないし、悔しくないわけでもない。


私には絶望するほどの望みもないのかもしれない。


将来は公務員になって、できれば結婚して・・・なんて凡庸な夢しかないからだろうか。

ただただ目の前の問題を解決することしか考えていなかった。


よく、名門大学に入ったはいいけどそこから何をすればいいのか分からずに途方に暮れる人がいるというが、私はまさにそれだった。


ある意味そっちの方が絶望的だと今更思ってももう遅い。


ため息をつきつつ糸目さんを見ると


体育座りして背中を丸めて俯いていた。


正直身長が190cm近くもある男が体育座りして俯いている姿は気味が悪い。

「男は背中で語る」なんていうけれど、今の糸目さんの背中からはじめじめしたオーラっぽいものが出ているような気がする。

下手をしたらキノコでも生えてきそうだ。

普段だった絶対に近づかないが、今は糸目さんしか頼る人がいないので仕方なくそっと近づいてみる。


「あの・・・」

「なんでこんなことに・・・・」


近くまで行って声をかけてみるがまったく気づかないようでしかもずっとぶつぶつ言っている。

やっぱり怖い。

が、いつまでもうじうじされても困る。

さっき糸目さんが時間制限があるとか言っていたし。

せっかくのサービスタイムを無駄にしたくない。


なので少し強めに背中を叩いてみる。


「もしもし?糸目さん?」

「あああああああこのままじゃヤバいよ・・・」


ヤバいとは何なのか。何かまずいのだろうか。

糸目さんは意外と若々しい話し方をするんだな、と変なところで感心していたがその内容が気になる。

なにがヤバいのか、非常に気になる。

こうなったら


「イトメさん。何がヤバいんですか?」

「シキモクです!」


やはり名前は彼にとって鬼門らしい。

恐らく嫌な思い出でもあるのだろう。


「で、何かあったんですか?」

「・・・・・・・たいへんに申し上げにくいのですが」


糸目さんの目は元通りになっていたが顔色が青く、先程から一度もこちらを見ようとしないで俯いている。


「聞いても、驚くな、とは言えません。ですがどうか取り乱さず落ち着いて聞いてください」


彼はぐっと顔を上げるとものすごい勢いで頭を下げた。

きっちり90度のおじぎだ。

そして大音量で叫んだ。


「すいません!人違いでした!」


どうやら死にかけていても私は運が悪いらしい。


少し短めです。

なかなか話が進まないですね・・・


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