プロローグ
思えば私は昔から運が悪かった。
幼稚園のお遊戯会では一生懸命に練習したのに当日風邪をひいて欠席。
小学校の運動会では毎回必ず怪我をした。
その他小さなことを挙げればキリが無いが、それ位は笑って許せる範囲であった。
私の人生最大の不幸は、両親が交通事故で亡くなったことだ。
当時中学生だった私は泣くことも忘れて途方に暮れた。
両親とも実家とは疎遠であり、親戚関係も希薄であった。特に母方の祖父母はすでに亡く、何とか連絡の取れた父方の親戚は私をどうするのかで醜い言い争いをしていた。
父はいわゆる「いいとこの坊」だったのだ。実家が会社を経営しており、次期社長と言われていたという。
名前を聞けば誰でも知っている大会社だった。そして父が高校生の時に母と出会い、大学生の時に周囲の反対を押し切って駆け落ち同然で結婚したのだと、葬儀の時に聞かされた。
私にとっての父はいつも穏やかで、汗水たらして働いているイメージだったのでどうしても「次期社長」の父は想像つかなかった。
父方の親戚は皆私を面倒事としか思っていないようだった。私を孤児院に入れるのは世間体が悪いが引き取りたくない、という考えらしく、話し合いは難航した。
結局、後見人を祖父が引き受けることとなり、私は父の生家で暮らすこととなった。
当然学校も転校した。私立の学校を勧められたが辞退し、近くの公立学校に転入した。
周りのクラスメートたちは、私を運の良い子だと噂した。私は大企業の社長の孫という地位になったのだから、当然かもしれない。
私は父の生家で、離れを部屋として与えれた。小さいがキッチンも付いており、一通りの生活は出来るようになっていた。私が住むために改装したと聞かされた。
父の生家は大きな日本家屋で、常にお手伝いさんが常駐しているような家だ。
祖母は既に亡くなっており、祖父が一人で切り盛りしている。
学費と生活費は祖父が出すと言ってくれた。この点については私は運が良いと認める。
その代り、20歳になったら出ていくように言われたが。
私は当初勧められていた父と同じ高校に進むことになった。想像通り有名な進学校であり、金持ち学校で授業料も公立の数倍だ。
私は寝る間も惜しんで勉強して、特待生になれた。学費やその他の諸費が免除になるのだ。
そして、私は今日もその学校までバスを使って通学途中だ。
車通学を進められたが謹んで辞退した。
運転手つきの車で学校まで送迎なんて、漫画やドラマの世界だけだと思っていた。
しかし、今日私はその事を後悔することになった。
学校は駅の近くにあるので、うっかりすると通勤・通学ラッシュに巻き込まれてしまう。
私は朝の混雑が嫌いなので、早い時間に学校に向かう。そのため、満員乗車の経験はほとんどなく、今日もそこまで混んではいなかった。
それでも、席は全て埋まっており、何人かがつり革につかまっている。
私の前には一人のおじいさんがつり革につかまっていた。
そんなにつらそうでもないが、私は立つのは苦ではない。学校までは20分ほどなのだ。
だから
「よろしかったらどうぞ」
「ああ、どうもありがとう」
バスが止まっているときに立ち上がり、席を譲った。
おじいさんもはじめは戸惑ったようだがすぐに笑って座ってくれた。
譲ろうとして断られると気まずいので正直助かった。
おじいさんは座ってからもにこにこと笑って「ありがとう」と言ってくれた。
それに多少気恥ずかしくなり、いえ・・・と文庫本を取り出して本を読むふりをした。
しばらくしてから急にバスがスピードを上げた。
何事だろうか、と思った瞬間急ブレーキがかかり、自分の体が宙に浮いたのを感じた。
その後は後頭部に強い衝撃と耳をつんざく音がして、目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ました時、私は私を見下ろしていた。
はじめまして。
拙い小説ですが、よろしくお願いいたします。