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第42話 聖光燦然騎士団の実態

 日が落ちて、今日の行軍が終わる。今、どのあたりなんだろう。あんまりにもゆっくりだから、まるで動いていないんじゃないか、って不安になるくらい。


 とにかく、焚き火で暖を取り始めた三人を置いて、ワインケースを確認。えっと…ひと箱一ダースみたい。馬車には20箱だから、240本。こんなに、どうするんだろう? よく見たらちょいちょいラベルが違うな…。えっと、赤ワイン、白ワイン、スパークリング。ワインだけで荷台がいっぱい。これ以上は載せられないよね…。


 それにしても、シルバでは毎晩、フルコースでも食べているんだろうか…?


「大尉、勘弁してくだせぇ! 毎晩毎晩グラスを投げつけられるんすよ!」

 馬車の外で、声がする…。ひょい、と顔を出すと、レニエ大尉と、部下っぽい人がなにやら揉めている様子…。


「言うてもよぉ、持ってかねぇと、もっと五月蠅いぜ」

「いやいや、せめて女でも雇ってくださせぇよ! いねぇんすか、フィヨルドには」

「それがな…仮にも聖職者だから、と…」

「はっ、よくそんな口叩けますね! 聞いたら、教皇庁じゃ酒池肉林らしいじゃないっすか!」

「おい、ドルス、滅多なこと言うんじゃねぇ。誰に聞かれているか、分からんぞ」

 はっ、とドルスと言う人が口を抑えて…ふるふると周囲を見て…僕と目が合った。

「あっ! て、てめぇ、今の話、聞いてないよな!?」

「ばか野郎!」

 大尉、ドルスさんに拳骨。

「ハンス伍長だ」

「ひっ…も、申し訳ねぇ、ハンス伍長! 俺はドルス兵長だ! か、勘弁してくれ!」


「あ、あの…大丈夫ですけれど…どうしたんですか…?」

 ああ、とレニエ大尉が頷いた。

「うちの将官連中が、毎晩五月蠅くてよ。『冷えてないワインなど飲めるか!』と言う具合でな。こんな戦場で、冷えたワインなどありえないんだが」

「…こんなに寒い…のに?」

 秋が深まってきて、氷点下を感じる気温になりつつあるのだけれど。

「ああ、おめぇさんは入ったことがないか。奴らの天幕はまるで天国だぜ。ふんだんに暖炉を使ってよ、密閉しているから暑い暑い…。冷えたもんが欲しい気持ちは分かるが、現場の事も見て欲しいよな」

 冷えたワイン…。


「だったら…僕、冷やせますよ…」

「ひ、冷やせる?」

「どういうことだ?」

「一応、魔導士なので…」

 王立学院で、レモンソーダを沢山冷やしたな。

 ふと思い出して、郷愁が胸を覆う。ダメだ、今は。絶対、学院に戻るんだから…。

「とりあえず、このスパークリングを冷やしましょうか?」

 馬車の箱を指差した。



 将校の天幕、ってのはすぐに分かったよ。明らかに一つだけ、大きいし。入口には警護の兵隊さんが何人もいるし…あと、かがり火の数が凄くて。ワインをお持ちしました、と伝えたらすぐに通してくれたんだ。


「名乗らなくていい、ワインを持ってきた、とだけ伝えろ」

 って、レニエ大尉に言われていたから、それだけにしたよ。中に入って、驚いたな。本当にフルコースを食べているのだもの。


「遅いぞ!」

 末席の将校がいきり立ったよ。思わずびくっ、って肩が硬直しちゃった。

「す、スパークリングを…」

 いけない、ちゃんとしなきゃ。

「スパークリングワインを冷やして参りました! 時間がかかり、申し訳ございません!」

 ほう、と次席に座る将官が目を細めたよ。

「殊勝ではないか。誰か毒見せい!」

 給仕をしていた兵隊さんが…なんか、とっても中性的な人だけれど…男の子、だよね? ともかく、開栓したてのワインを一口。

「わ、おいし…」

 な、なんでシナを作るんだろう…? ともかく。

「貴様、悪くない顔だな。ほれ、マクシミリアン閣下に酌をせい」

 次席の人に言われて、一番上座の、マクシミリアンとかいう人…なんか、坊主頭でギタギタした人…のワイングラスに注いであげた。

「ふむ、貴様、悪くないのぉ」

 え、なんで舌なめずりしてるの? 気持ち悪い…。そのまま、マクシミリアンとか言う人がワインを飲んだよ。

「ほう…! しっかり冷やしてあるな。スパークリングはこうでなくては! 諸侯ら、温くなる前に飲むと良い!」

「はっ!」

 そのまま、無言で敬礼して、他の人に注ごうと思ったのだけれど。毒見の男の子に、

「ここからは私が」

 と言われたので、素直に立ち去ることにしたよ。なんか、変な雰囲気だったし…。


「あー、そうだな…。人選は間違えたな…」

 事の次第を報告すると、レニエ大尉がぼりぼりと頭をかいた。

「明日からはドルスが行け」

「ええ…」

「仕方ねぇだろ。ハンスだと男色の相手をさせられかねん」

「大尉、言う事は分かるんだが…ってかよ、稚児を連れてくるくらいなら女用意してくれよ。俺にはそんな趣味ねぇし」

「言うな。教義だからな」

「へいへい…。じゃ、ハンス伍長。明日から冷やしの方頼むわ。ワインは俺が持ってくからよ」

「は、はい…」


 えっと…男色、とか稚児、とかあんまり詳しくないけど…あの毒見の男の子…だよね。え、そういう感じ…? もしかして、シルバって結構…乱れてるのかなぁ…?

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