第28話 結局最後の追い込みよ! こうなったらコーヒー片手に徹夜あるのみ! 天才少女コレットに全てを託すーー
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それでは聞き込み調査。
なんだか探偵小説みたいになってきたわね?
「そういうのは、ヨナスの仕事だ」
一人目、バルタザールさん。早速向かうわ。この時間だとヨナスさん、船室にいるらしいけれど…。鍵が掛かっているわね。船長室以外で鍵があるのは珍しいわ。余程大事な研究でもしているのかしら? ノックしてみたわ。
「誰!?」
「あ…すみません、フランソワです!」
「ああ…少し待て!」
な、なんだか変な驚き方をしていたわね…? 集中していたのかしら? そこから1、2分程待って、ヨナスが扉を開けてくれたわ。
「ああ、済まない…。手が離せなくてね。どうしたんだい?」
「お忙しい所すみません、ヨナスさん。蛍石なんですけれど、今のうちにある程度加工したくて。ノミとか、お持ちかなぁと」
「ああ、蛍石か…アレはへき開する性質があるから、ノミとハンマーで叩けば八面体になるはずだぞ」
言われてみれば、頂いた鉱石も八面体だったわね。
「ご存じなんですか?」
「海洋学と地質学は僕の専門だからね。ただ、素人がやるには…」
「一応、シオンが石材経験、あるみたいなんですけど」
ふーむ、とヨナスさんが考え込んだわ。
「いや、万が一があると大変だろう。僕も立ち会うよ。三十分後に、船倉でどうだ?」
「構いませんわ、ヨナスさん」
そういうと、ヨナスさんはすぐに扉を閉めてしまったわ。続けてかちゃり、と鍵の掛かる音。
「なんだか…違和感があるのよね?」
「素敵な人だよね! 細身の男性って好みだな~。匂いにも気を使ってそうだし」
エラリーの弁。というかああいう男が好みなのね…。
でも、エラリーの言う通りだわ。
他の男連中と違って、汗臭さとか脂臭さがないのよ。なんだか、良い香りがしたし…。香水でも使っているのかしら? セシルお兄様は結構気にするタイプだから、いくつか香水を持ち歩いていた気がするけれど…。
「そこだ、シオン。真っすぐにノミを打て」
「こうか?」
シオンがノミをさして、トンカチでコンコンと。ヨナスの言う通り、ぱかっ、と筋に沿ったみたいに綺麗に割れたわ。(これを「へき開」と言うのよ)
「ほら」
取り立ての八面体をニコラスに手渡す。
「シオンはん、良い感じや! サイズも丁度ええで!」
「なら、これをいくつか、か」
「最低、2個あればいいわよね?」
「いや、万が一があるで。予備もいくつか」
ということで、五個用意したわ。
「ついでに、粗削りまでできないかしら?」
「その道具は無いな。ノミとトンカチはあくまで鉱物の収集用だ」
ヨナスさんの実験室には、色んな土地で採取した鉱石があるらしいわ。ヨナスさん曰く、『鉱石を見たら、その土地がどんな土地か分かる』らしいのだけれど。
ともかく、やることが無くなったわ。この時間にグランド・ディベートのシミュレーションと想定問答を…あ、そうだ。
「ギルテニアから手紙を出せば、マルタが出発前に届くかしら?」
9月14日、夕方。
ギルテニア到着
夕方よ! もうザハリアス工房も閉まってるわ! 風の向きも良くなくて、とにかく遅れたわね。ギリギリ、シャルル行きの最終便に間に合ったから、マルタ宛ての手紙を託したわ。9月20日まではギルテニアのザハリアス工房にいる、ってね。
一カ月ぶりの『スチーム&モルト』で乾杯。早くお酒が飲める年にならないかしら? 盛大にやけ酒したい気分よ。というか、一カ月以上も旅に出てたのね。
ニコラスは実家に戻ったわ。コレットと打ち合わせ。
9月15日、早朝
始発のインクラインでザハリアス工房へ。
「9月20日までに仕上げて欲しいのだけど…」
流石のザハリアスさんも呆れてたわ。ただ、船上で作った種は問題ないみたい。
「顕微鏡の…レンズは二つ…粗削り、任せていい?」
任されたわ! この水力研磨機を使うのね?
「それは…危ないから…人力…」
人力、つまり足踏み式らしいわ。水力だと緊急時に止められないらしくて。お弟子さんで何人か、指が欠けている人がいるのはつまりそういう事みたい。怖いわね!?
軍手を借りて、足踏みしながら削る。なんか不格好だけど、大丈夫よね?
「…わたしが、なんとかする」
頼もしいわ!
ちなみに一時間で体力を使い切ったわ。ニコラスと交代。シオン、エラリー、貴方たちもやるのよ。コレットは午前中で粗削りを終えたわ。流石ね。
「このまま、精密研磨に入る…」
私たちは粗削り継続ね、任せて!
…やっぱり先にお昼にしましょ。
9月15日 午後
ややこしいから、コレットが粗削りしたやつをレンズA、私たちの担当をレンズBとするわ。Aが接眼レンズ、Bが対物レンズよ。
レンズAは精密研磨が始まったわ。金属のお皿に色々な粒子(砂粒みたいなやつ)を乗せて、手のひらでくるくると回転させながら、更に削っていくの。そういえば曲面計算とか、していないけれど…。
「あいつはな、手のひらの感覚だけでベストな曲面を出しやがる」
とは、ザハリアス親方の言葉。天才だわ、改めて。
私たちは粗削り継続よ。他のお弟子さんは手一杯みたいだから、何とかするしかないわ。
夕方、確認してもらったのだけど…。
「削りが甘ぇ。明日もだ」
はい、頑張ります。
今日はザハリアス親方の工房に泊めてもらえることになったわ。となると、アレよね。
「英気を養うの、英気を!」
ギルテニア名物、大浴場よ! エラリーは着いてこなかったわ。
9月16日
お風呂でさっぱりしたのは良いけれど、レンズ工房って飛沫が飛びまくるし、そもそも夏場だし、汗と粒子で体中べっとべとになるのよね。戻りたいとは思わないけれど、フェンリル・ベルクの寒さが懐かしいわ。
レンズAは精密検査の目途がたったみたい。粗削りの方は…。
「ま、合格やな」
き、及第点ギリギリ、ってことよね…。
今日もお風呂に行くわ!
9月17日
レンズAはポリッシング。最終磨き工程に入ったわ。松脂を入れたお皿に、酸化鉄の細かな粒子で磨いていくの。これで表面の滑らかさと光沢を出すのね。コレット、ずっと無言で作業を続けているわ。レンズBは精密研磨を開始。ニコラスと私の交代で。エラリーはシャトーブリアン商会のギルテニア支部に向かったわ。念のため、エヴェイユ港から王都までの船便を手配してくれるみたい。
スケジュールは…ギリギリね。19日に完成するかしら?
その日は日が暮れてからも残って作業。やっぱり、コレットのと比べると粗が目立つわね…。どうにかレンズAのポリッシングには目途が着いたみたい。感謝しかないわ。
9月18日
レンズAはザハリアス親方の検査に入ったわ。最終工程よ。レンズBはコレットの精密研磨へ。少し手持ち無沙汰ね。そういえばコーヒー。そろそろ投入かしら。茶道具は…無いわね。街に下りて購入。
午後、驚いたことがあったのよ。
「姫さま、お久しぶりでやす!」
マルタよ! 思ったよりも早い到着だったわ。14日の時点で自宅を出発していたのだけれど、配達員が顔見知りだったみたい。一昨日、街道ですれ違った時に手紙を受け取ったらしいの。それで、エヴェイユ港行きの船をキャンセルして、ギルテニアに来てくれたの。これでセドリック特別研究室、全員集合ね!
マルタにはこれまでの経緯を説明したわ。
「へぇ、姫さま、大冒険でやんしたなぁ」
大冒険…確かに、人生初の大冒険だったわ。でも、まだ終わってはいないから。
9月19日
レンズAが完成したわ。
「素晴らしいでやす。屈折率も光の分散もありやせんね」
マルタが感心してたわ。レンズBの精密研磨、少し時間がかかっているみたい。やっぱり、素人作りだと限界があったわ。
午後から、ポリッシングに入ったけれど…。
「フランソワ、ええか?」
ザハリアス親方に呼ばれたわ。
「今からポリッシングやと、完成は早くても明後日になる」
明後日は9月21日…不味いわ、前日だもの。
「どうにか…ならないかしら? 私たちに手伝えることは?」
「だがなぁ…」
「…親方」
コレットが静かに言ったわ。
「…私は、大丈夫」
「しかな、コレット」
「今日は、終わらせるまで…帰らない」
ぼりぼり、とザハリアス親方が頭を掻いたわ。
「ほな、好きにせい…フランソワもな」
「そうさせて頂くわ」
9月19日、深夜
誰もいない工場に、私とコレット、二人だけ。
他の皆は休ませたわ。私も、やることは無いのだけれど…コレットを一人に置いておきたく無かっただけ。
「コレット、少し休憩しましょ」
街で買い求めたチョコレートとクッキー。それから、たっぷりのコーヒー。いつもよりコーヒー豆を多く使ったわ。一杯二銀リブラくらいするかもね。なんて。
「…おいしい」
「よかった。目が冴える飲み物よ」
「…うん」
糖分とコーヒー。私も元気が出てきた気がするわ。
コレット、ポリッシングに戻る。
私はその姿を、じっと眺めていたのだけれど…。
9月20日 早朝
ゆさゆさ、と揺すられて目が覚めたわ。
「コレット…ごめん、私…」
「できた」
椅子から立ち上がる。状態を確認。
「凄い…凄いわ、コレット。ずっと起きてたの?」
こくり、とコレットが頷く。
「コーヒーの…おかげ…」
あふ、と欠伸。
「眼が冴えた?」
こくり、と頷く。
「これ」
コーヒー豆の袋を手渡したわ。
「お礼よ。全部あげるわ。本当にありがとう、コレット」
コレットがふわり、と綿毛のように笑ったわ。
「ありがと…フランソワお姉ちゃん」
先にお伝えしておきます。
「ありがと…フランソワお姉ちゃん」
これを言わせたかっただけです!!!! 徹夜シーンホントはいらんかった! 無理やり超タイトにするために、めちゃくちゃ計算して、最後に海流の逆走で帳尻合わせました!
そしたら次の話でめっちゃいい感じになりました。ぜひお楽しみを!
※第二部もいよいよ終盤です! ぜひ応援お願いします!
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※第二部『グランド・ディベート編』(このお話)の冒頭はこちら
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※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




