第27話 蛍石(フローライト)入手! 一刻も速くギルテニアに…え、海流が逆なの!?
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翌日、9月2日。
「…不法入国者が増えておるが」
やっぱり私たち、不法入国者だと思われていたわね!?
「拝謁の光栄に浴します、フェンリル・ベルク辺境閣下。私めはアリア皇国はシャルロイド公爵家、セシル…」
「よい、フランソワ殿の知人であろう」
「…兄にございます」
そこは主張するのね…。
「辺境伯閣下。ご依頼のフィニ灯台の修復は無事に竣工いたしましたわ。ぜひご同行頂きたく」
「よい。貴殿の光はこのフェンリル・ベルクからも良く見えた。余も初めて目にした、爛々たる光であった…これが貴殿の言う、科学の光であるか?」
「その通りにございます、閣下。此度は『ガス灯』を製作いたしました。閣下がお目にかけた通り、より明るく、そして一切の煤を出さない、未来を切り開く理の産物にございます」
「ガス灯、とな。初めて聞く言葉であるが、妙に耳になじむ…」
「それは魔法の一切を使っていないからでございましょう。わたくしたちが使用したのは閣下より下賜されました地下倉庫の廃用品と、ここに控えし我が兄セシルが用意した鯨油のみ。閣下に置かれましては、鯨油のみ継ぎ足し頂ければ、海を照らす光を永続して届けることができますの。それに、フェンリル・ベルクの板金術をもってすれば、修繕も容易にございますわ」
「我が国は、鯨を獲る風習を持たないが…」
「ご心配に及びませぬわ、閣下。我がアリア皇国は冒険心に溢れた国。事実、此度の鯨油もアリアの漁師がまさしくフェンリル・ベルク沖にて捕獲したものにございます。その一部を閣下へお届けするよう、シャルロイド公爵家の名において、我が主ビアンカ皇王に進言いたしますわ」
「あい分かった。フランソワ殿のお心遣い、心より感謝申し上げる。貴殿の名、我が旧恩の徒として、この脳髄に留めておこう」
「恐縮に存じますわ、閣下。つきましては…」
「例のものであれば、既に用意しておる。誰か!」
謁見室の扉が開いて、しずしずと台車が入ってきたわ。その上には、抱えるほどの蛍石。
「不足はあるか?」
「いいえ、十分過ぎる褒美にございます、閣下。レンズを仕上げた暁には、ぜひザハリアス印の『最新型』をお届けに参りますわ」
「楽しみにしておる」
9月2日、午後。
目的のものを手に入れて、今は積み込みの最中よ。ハンスが見送りに来てくれたわ。
「どうする? 私たちはアリアに戻るし、一緒に乗っていく?」
一応、尋ねたのだけれど。
「ありがたいけれど…でも…もう少し、実家の手伝いをしなきゃいけないから…秋学期には…戻りたいな…」
「そうなの…気を付けてね、色々…ありそうだし」
「ありがとう…フランソワ」
その時のハンス、とても寂しそうな顔をしていたわ。
私、もっとちゃんと、考えなきゃいけなかったの。本当は…。
「お兄様、ダッシュでお願い!」
素敵! 辺境伯のおかげで出航が早まったわ! 昨日は船の補給やらで終わっちゃったから、今は9月3日! 予定の9月6日より三日も早いの!
なのだけど。
「あー、すまない、フランソワ。実は帰りは時間がかかるんだ」
「どうして!?」
「フランソワ殿、海流が逆なのですよ」
ヨナスが補足してくれたわ。ちなみに貴族で科学者らしいのだけど…ヨナス・オーシャンって。『海』って名前の貴族なんていたかしら? その詮索はさておき。
「そういうこと!?」
そうなの。行きは『海流に乗った』けれど、帰りは『海流に逆らう』形になるのよ!
「ぎ、ギルテニアにはいつ到着を…?」
「そうだな…9月14日くらいかな? まだグランド・ディベートまで1週間あるし、余裕だろ?」
「むしろ予定が1日押したわ!」
「緊急会議よ!」
船室にセドリック研究会メンバーを緊急招集。
「クジラは?」
「昨日食べたでしょ!」
お兄様が鯨油のついでに強奪…快くお譲り頂いた赤身のお肉よ。シオンは生のまま、それはそれは美味しそうに食べてたわ。私も頂いたけど。バルトロメが何かを残念がっていたわ。参加できねぇたぁ、海賊の血が騒ぐ、とか…いいえ、私はお兄様を信じるわ。とても心優しい漁師様がいた、って!
「え、今度はイルカでも食べるの?」
エラリーさん、その蛮族を見る目を辞めてください。
「ステーキにしたじゃない」
「アレはステーキじゃないよ! レア オブ レア だよ! レアステーキでももう少し焼いてるから! あと、私はミディアム派!」
「なんや、船中の暇つぶしの相談かいな。わいはバルタザールのおっさんにもう少し教えて貰いたいんやけど」
「ちがーう! 船の到着が遅れます!」
「なんでや!」
「海流よ!」
「なんか行きより遅い気がしたんはそれか!」
「それ!」
「ほな、いつ到着なんや? いうても予定より三日早まったんや。トントンくらいやないか?」
「残念ながら、9月14日到着予定です! 1日押しました!」
「あかん」
「あかんよね、あかんわよね!」
私までギルテニア弁が移ったわ。
「ということで、コレットの工程を1日減らさなきゃいけないんだけど、ニコラス、レンズの加工手順は分かる?」
「わいも素人やで? せやな確か…」
・ガラスの製造(レンズの種を作る)
・粗削り
・精密研磨
・最終磨き
・検品
「という工程のはずやで」
「レンズの種って?」
「顕微鏡のレンズがあるやろ、あれをそのまま大きくしたようなやつや。卵型ちゅうか、アーモンド形っちゅうか」
「その『種』を、とにかく削ってレンズのサイズにする、ってこと?」
「めちゃくちゃ簡単に言うと、そういう事やな」
「となると…この場で『種』を加工しちゃう?」
「フランソワはんの言う通りなんやけど、加工道具が無いで」
「そうなのよね!」
ギルテニアの工房なら、水力を使った研磨機とかがあったけど…その前に石材屋の仕事だわ。辺境伯も気前よく大きな結晶をくれたのだけれど、まずは細分化しないと何もできないし!
「ちなみに、種ってどのくらいの大きさなの?」
「せやな…一番厚いところで、親指の長さくらいかな?」
定規を持ち歩いていたので測ってみたわ。指先から親指の根元まで。
「3~5センチ?」
「せやな。しらんけど」
知らないと困るんだけど…。
「ともかく、そのくらいに細分化すればいいのよね? どうすれば?」
「ノミとトンカチでいいんじゃねぇの?」
「シオン君、あなたもしかして、山で鉱石とか取ってた?」
私がシオンを君付けにするレベルで追い込まれていることを理解して欲しいわ。
「たまに、手伝いで」
「シオン君! ノミ持ってる?」
「持ってるわけないだろ」
「いっそシオン君の魔法は~?」
「エラリー、ここで蛍石が消滅したら私は絶望して海に身を投げるわ。永遠に恨むわ」
「怖いって」
「言うても軍用船やで。なんかあるんちゃうか?」
レア オブ レア ってなんすかね。多分カツオの叩きより生だと思う。
皆さんステーキはなに派です? 私はミディアムレア派。
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※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




