第23話 廃灯台の修復作戦立案! まずは工程作成から…いくらなんでも無茶では?
「フィニ灯台というんだけど…」
フェンリルベルク辺境伯から開放されて、一言目。ハンスが教えてくれたわ。協力をお願いして正解だったわね。場所が分からないと何もできないもの。
「三年くらい…前までは使っていて…話では、燃料が確保できなくて、閉鎖されたみたい…」
「燃料と言うと…石炭かしら?」
「いやいや、フランソワはん。菜種油かもしれんで」
「困ったわ。その場の勢いで承諾したけれど、灯台ってあまり詳しくないのよね」
「わいもや。光る塔くらいのイメージしかないで」
「もしかして、私が一番詳しい?」
「知ってるの、エラリー?」
「えっと、簡単だけど。灯台って大きく二種類あって、鏡で照らすタイプと、レンズで照らすタイプの二つがあるの。燃料は石炭が多いかな。灯台のてっぺんで火をつけて、鏡でもレンズでも、その光を一晩中、灯台守が回し続けるんだよ」
「人力やったわ」
「大変な仕事ね…」
灯台と言えば光の回転よね。言われてみれば人力以外に無いのだけれど、もう少し効率化できないものかしら?
「そういえば…ずっと火を焚いているから、灯台守は一晩で煤だらけになるんだ…それが嫌って人…多いみたいだよ…」
「単調だし、成果が見えないものね」
「暗い海に向かってずっと照らし続ける訳やな。気ぃ狂いそうや。ワイには向いてへんな」
「ところでエラリー、鏡とレンズってどう違うのかしら?」
「えっと…確か鏡だと安価だけど光が遠くまで届きづらくて、レンズは高価だけど遠くまで照らせる…じゃなかったかな。私が見た灯台だと、大きな港はレンズで、小さな港は鏡だった気がする」
「ハンス、どっちか分かる?」
「わからないけど…そんなに大きくないから、鏡じゃないかな…?」
「レンズってコレットのところで見たように、加工にすっごい手間がかかるから、お値段も張るんだよね。北大洋を渡る船は多くないし、多分鏡じゃない? ただ、万が一レンズ式で、割れてたりしたら大変」
「加工はできへんな、ワイらじゃ」
「そっか、鏡なら多少ヒビが入っていても」
「もちろん効果は落ちるけど、一応形にはなると思うよ。わからないけど」
「とりあえず、現場を見たほうが良さそうね。ハンス、案内をお願いできる?」
「いいよ…歩いても、一時間くらいだと思う…」
という事で。
着いたわ、フィニ灯台とやらに。外観は思ったよりも頑丈そうで、廃灯台という感じはしないわね。レンガ積みの三階建てくらいの建物よ。
「10メートルくらいやな」
ニコラスが目測。
「割と小さい方だね。うちの持ち物にはないなぁ」
「…もしかして、シャトーブリアン商会って灯台も持ってるの?」
「そうだよ。じゃないと気軽に見学できないじゃん」
「大富豪やな」
「そうね?」
「別に~」
「とりあえず、中に入りましょうか」
鍵はフェンリルベルク辺境伯から預かっているわ。木製扉がぎぃ、とうめく。中は…。
「埃だらけね」
「蜘蛛の巣! 蜘蛛! やだ!」
エラリーは時折都会の女子になるわね…。
「お嬢、まずは片付けじゃないですかい?」
「バルトロメの言う通りだけれど、まずは全容を把握したいわ。実はあんまり時間がないのよね」
「あと一ヶ月やしな」
そう、もう8月23日なの。今年のハーベストムーン(秋分)は9月22日だから、ひと月切ったのよね。
「まずは修理の見立てを立てましょう。ところで竹ぼうきとか、ないかしら?」
流石に蜘蛛の巣ははたいておきたいわ。
「用品入れは大抵、一階にあるよ」
とはエラリーの弁。仕方ないので入口の蜘蛛の巣は手ではたいて、一階を捜索。薄暗いわね。相変わらず日の光は弱いし。エラリー? 隠れてないで手伝いなさいな。公爵令嬢が両手を蜘蛛の巣だらけにしてるのよ?
「お嬢、ありましたぜ!」
バルトロメが見つけてくれた竹ぼうきで、気になるところだけ叩きながら螺旋階段を登る。頂上は一応ガラス張りになっていたわ。エラリー曰く、「海風は炎の大敵」とのこと。ただね…。
「なんだか、白いわね?」
「あー、そうだった。海辺で潮がつくから、ガラスがすぐに真っ白になっちゃうの」
「これ、どうやって掃除してるの?」
「外からだよ」
「外から」
いえね、私だって理屈はわかるのよ、理屈は。潮は外から吹いてくるんだから、外拭きしないと意味が無い、ってことくらいわね? 問題は誰がやるの、ってことでしょ。
「見た感じ、バルコニーとかも無いけど…」
「そこに梯子があるじゃろ」
エラリー、いきなり口調を変えないで。読者が混乱するわ。
「…理解はしたわ」
要するに、屋上へ出て、そこからロープかなんかで降りろ。
「ってことね!?」
「その通り!」
「…何人か、海に落ちたって…」
ハンス、事実を伝えるのは時と場合を考慮したほうが良いわ。
「え、誰がやるの?」
まず最初の難関だわ。そしたらね。
「お嬢、俺の役目だろ」
「バルトロメ! そうね、確かに」
「こんなん、マストに比べたら甲板くらいなもんだ。マストじゃ縄もつけねぇし」
それはそれでどうなのかしら?
ともかく、ガラス掃除は確定。後の工程だけれど。
一度整理しましょうか。改めて、今日は8月23日よ。
「逆算するわ。ハーベストムーン、つまりグランド・ディベートの日は9月22日。ニコラス、コレットの研磨はどれくらいかかるかしら?」
「せやな…普通なら2週間やけど、コレットなら…徹夜も入れて1週間あれば仕上げると思うで」
「アレを使う時が来たわね」
「アレって?」
エラリーが首を傾げた。
「コーヒーよ」
「持ってきてたの?」
「徹夜用に」
「…ど」
「シオン?」
泥水とは言わせないわ、決して! エラリー、銀と言わない。
「ともかく、コレットには申し訳ないけれど、徹夜前提で組ませて頂くわ。お礼は公爵家とシャトーブリアン商会の連名で!」
「えー、お小遣い減っちゃう~」
「私もよ!」
で、逆算すると…。
「王都へはセシルお兄様の船に乗せてもらう前提で、9月20日にはギルテニアを出たいわ。それなら、9月21日、前日には王立学院に入れるはず」
「ギリギリやな」
「仕方ないじゃない、灯台修理は想定していなかったし。ともかく、そうなると9月13日にはギルテニアに戻らないと」
「セシルはんの船なら、1週間で着くわな」
「9月6日にはフェンリル・ベルクを出発ね。ハンス、蛍石ってすぐに手に入るのかしら?」
ふるふる、と首を横に振ったわ。
「蛍石は…採掘場から直接搬送されるから…フェンリル・ベルクには殆ど来ないんだ…」
「…もしかして、採掘も自分でやる感じかしら?」
「…そうかも…?」
「ちなみに、採掘場はどこ?」
「ここから…南に1日くらい…」
「割と遠いわね!?」
「昔は…銀が沢山とれたらしい…よ。いまは紫水晶が…溢れるくらいにあるって…」
「なら、採掘自体は簡単そうね」
バルトロメのパワーを前提にしてるけど。
「ともかく、往復で三日は見ておきましょう。辺境伯への報告で1日用意しておいて…」
計算してみたわ。
「うん、頑張って9月1日までね、理想は8月末まで!」
「1週間しかないで!?」
「そうね!」
でも、どうにかするしかないし!
「という事で、作戦会議よ!」
こういうの、アレですよ。ブラック企業ってやつ。こわいこわい。せめてハーネス欲しいっすよね。
間に合うのかこの子ら。
※ホワイト企業で働きたい方、ぜひブクマを!
※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




