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第22話 フェンリル・ベルク辺境伯との謁見! ようやくエラリーが活躍します。

 フェンリル・ベルクまでハンスが案内してくれることになったの。助かるわ…。まるで道が分からずに霧中行軍をするのは体力以上に気力を消耗するもの。ハンスの家でしっかり休ませてもらったおかげで(考えてみれば、久しぶりの陸地だったのよね)、十分に回復できたし、足取りも快調だわ。


 昨日歩いた道を戻る。途中で右と左で間違えたポイントに着いたわ。そこから一時間ほど。

「私たちの苦労って!」

 あっさりフェンリル・ベルクに到着したわ。

「霧だと…何も見えないから…」

「ハンスはん、ちなみに晴れてたらどうなんや?」

「言いにくいけど…」

 結果が見えたわね。

「尖塔が…見えたと思うよ」

 ほら!


 で、フェンリル・ベルクは私が想像した通り、堅固な石造りの、文字通り要塞だったわ。バルトロメの言う通り、海に面してはいるの。断崖絶壁を天然の要害としているのね。問題はどうも西海岸からかなり切り込んだ位置にあるらしい、ってこと。つまり、私たちが上陸した地点から少し北に行くと東に向かった湾があって、その先にフェンリル・ベルク要塞があるわけ。あの位置からだと、確かに『北東』にあるのよ。

「思い込みは良くないわ」

「前も似たようなの、無かった?」

「う、うるさいわね、シオン!」

「で、ハンス君。どうやって辺境伯に会うの?」

 エラリー、話を一人で進めないで…。

「父が宮仕えしているから…その伝手で…」

 なるほど。



 ハンスのお父様は、まぁハンスのお父様、という感じの方だったわ。待たされると思ったけれど、割とすんなり会ってくれるらしい。気さくな方なのかしら?


「何用だ、異国の者」

 違うわね、尋問だったわ!

「お初にお目にかかり光栄に存じます。わたくし、アリア皇国はシャルロイド公爵家、フランソワ・アリエル・ド・シャルロイドと申します」

「同じくアリア皇国はシャトーブリアン男爵家、エラリー・ド・シャトーブリアンですわ」

「ベルク郷紳家のハンス・ベルクです」

「わいはギルテニアのニコラスや」

「…? シオンだ」

「ノイエ・エーテル号副官のバルトロメだ」

 改めて思うけれど、どういうメンバーなのかしら!? よく会ってくれたわね、フェンリル・ベルク卿は!


「…どういう関係だ?」

 卿からツッコまれるのも悲しいわ。スルーして話を切り出したエラリーには感心したけど。


「単刀直入に申します、フェンリル・ベルク辺境伯閣下。蛍石…紫水晶を頂戴したく、はるばるアリア皇国より参りました。此度は我が商会とは無関係、こちらのお願いにございますわ」

「世話にはなっておる」

 シャトーブリアンを舐めてたわ。他国の重鎮と取引があるとか!


「だが、シャトーブリアンと言えども道理を弁えぬようなら許可はせぬ」

「重々承知にございます、閣下。私どももただ無暗に、王都の貴族連中のごとき愛でる為だけに紫水晶を求めているのではございませんわ。辺境伯閣下に置かれましては、今後の発展のお約束をしたく参ったまで。宝石としての紫水晶はダイヤほどの価値はなく、金程の重みはございません。ですが、私たちの手にかかれば、それはたちまちに『産業鉱物』として姿を変えるのです」

「…どういうことだ?」

「ご質問、痛み入ります、閣下。ところで閣下、望遠鏡はお持ちでしょうか?」

「むろん、持っておる」

「当然、ザハリアス印もございましょう」

「愛用しておる。少し高いのが難点だが」

「ザハリアス印は最高級レンズの保証、多少のお値段は我が商会でもつけさせて頂いております。ですが、聡明なる閣下の事、その如何ともしがたい欠点にもお気づきのはず」


 今度は辺境伯が顎を揺らしたわ。続けろ、という事ね。

 エラリーは堂々と話を進めていくわ。これが「本当の商人」なのね。


「望遠鏡は遠くを見れば見るほど、光と色が混じり、不鮮明となります。果たして討つべき敵兵が何名なのか、輜重はどれほどなのか…判断に時間がかかるはずですわ」

 そこでエラリーが、理解を促すように辺境伯を真っすぐに見たわ。


「それはすなわち、レンズの素材がガラスである故の欠点ですわ。そしてこの大陸すべての戦士や海男がその壁に悩んでいる…その問題を、瞬時に解決できるとすれば?」

「…それが紫水晶だと?」

「ご明察の通りにございます、閣下。蛍石フローライトは何も遮らず、色も混じらず、ただその光を直接に網膜へと届けるのです…。たとえ10里先でもさも裸眼で目撃したような鮮明な画像をお約束いたしますわ。そして、フェンリル・ベルクの蛍石の名は我がアリアにも届くほどの最高品質…これがフェンリル・ベルクの殖産の一助となるはずですわ」


 そこでフェンリル・ベルク辺境伯が少し瞳を閉じたわ。

「貴殿らは」

 一つ、呼吸。

「貴殿らは何を求める? 権益か?」

「否、私たちが求めるのは、ただ一つの蛍石の結晶にございます。こちらにおわしますフランソワ様は魔導ではなく、誰もが再現可能である科学にこそ人類の未来を賭けておりますわ。私どもは必要なのです。来たるハーベストムーンに開催されるグランド・ディベートでの完全な勝利のために、世界で唯一の顕微鏡を」

「顕微鏡…」

 エラリーがさっ、と私に目くばせしたわ。私が説明しろ、ってことよね。


「ヨハン・フォン・フェンリルベルク辺境伯閣下」

 ちなみに辺境伯のフルネームよ。

「左様にございます。わたくしは魔力の有無で選別させるこの世界の理を変えたいのです。貴族も平民も、魔導の才を持たぬ者も、等しく自らの手で未来を切り開ける…そんな、誰もが再現可能な『科学』の力で。

 そのために、顕微鏡が必要なのです。この世界の何よりも鮮明に、小さき世界を解明し、深淵を照らす顕微鏡が。わたくしたちが学問に励む王立イスタルシア総合学院にて、魔導士と我々科学者のディベートが開催される運びとなっております。もし我々が勝利した暁には、民は未来に希望を抱き、自らの才を開花させようと益々励むことでしょう。もし敗北を喫した場合は、魔導の選別はいつまでも続き、民にとって暗く暗澹とした時代が続くことになりますわ。

 民の心を誰よりも深く慮る閣下であれば、この一石、ちいさな石ころのような勝利がやがて万民の平穏と幸福をもたらすことをご理解いただけると信じておりますわ。

 どうか、小娘の戯言と切り捨てず、わたくしたちの真摯な願いに免じて、採掘の許可を賜りたく存じます。何卒、閣下の寛大なる御心に縋るばかりにございますわ」


 そこで大きく、辺境伯が息を吐いたわ。

「あいわかった…ただし、一つ条件を出そう」

「なんなりと、閣下」

「ここより北方に一里、廃された灯台がある」

 そういって、辺境伯が北方を指差したわ。

「この海域は魔物だ。難破船が絶えぬ。生き残った奴らは飢えと渇きに耐えがたく、近隣の村を襲う始末。だが、灯台があれば、難破船も減るであろう。その修復を命じる」


 ハンスがはっ、と息を飲んだわ。面倒な仕事になりそうね。

「承知いたしましたわ。つきましては閣下。こちらも一つ、お願いがございます」

「なんだ?」

「こちらに控えるベルク郷紳家の長男、ハンス殿のお力をお借りしたく」

「好きにせよ」

「恐縮至極に存じますわ」

冷静に考えたらフランソワたち、不法入国ですよね?(これは結構先のフラグです)

エラリーファンの方、お待たせしました! ここからしばらくエラリーが活躍します。


※エラリーファンの方、その思いをぜひ感想で! そうでない方もブクマください!

※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。


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