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第18話 今回はちょーっと複雑な計算が出てきますが、安心してください。私も良く理解してないです。

 翌日、早馬が王都へ向けて駆け出したわ。


 …ちなみに、料金は取られたわよ。定価で。その辺、しっかりしているのよね、エラリーって。その間、ダメ元でコレットが再加工してくれたレンズを使って、ブラウン運動を観察してみたけれど…やっぱり、ぼけているの。これではディベートに勝てないわ。


 念のため、ブラウン運動以外の理屈も考えてみたわ。質量保存の法則から理屈を解く…アンリ・ラヴォアの実験…密閉空間で炎を燃やしても全体の質量は変わらない…精霊が炎を生み出しているなら、精霊が『炎のエレメント』を使用した分、質量は下がらなければおかしい…。弱いわね。

 

 もしくは真空理論を使おうかしら。真空の中では燃えない…いいえ、これも弱いわ。真空理論は教会から「そういうもの」とお達しが出ているし、「これぞ神の思し召し、真空とは神が作られた例外なのだ、当然に精霊も存在しない」程度のことは言うわよね。


 水銀燃焼実験は…。水銀と酸素が結合して、体積が減るのだけれど…いいえ、これ、真空実験と同じよね。「減った体積は、精霊が天に召された隙間である」とか言ってきそうだし。相手に反論の機会を与える様なものだわ。


 ということで、思考実験は1日だけにしたわ。早馬の返事が来るまで、ギルテニアを見学したほうがよっぽど為になりそうなんだもの!


 ニコラスのご実家、時計工房、ご馳走になったゼンさんの蒸気工房、ザハリアスさんへレンズのガラスのメダルみたいなやつよを卸しているガラス工房、切子職人、配管メンテナンス、その他その他…どれもこれも、本でしか読んだことがない技術がいくつも乱立しているの! ギルテニアの技術は天下一だわ。この技術、この先私たちのためにとっても役に立ってくれるのだけれど、その話はいずれしましょう。


 ともかく、早馬の返事がいつになるか、心待ちにしていたのだけれど…。

「フランソワはん、なんかな、港の連中が騒いでるんやけど…」

 8月11日の早朝よ。ニコラスが困惑していたわ。

「どうしたの?」

「いやな、セシルとかいう兄ちゃんが入港許可なしに来たとかでな」

「お兄様、もう着いたの!?」


「いやぁ、可愛い妹の為さ。全力ならこんなものだよ」

 普通の帆船ならエヴェイユ港から一週間はかかるのだけれど。10日に予定通り出航したとして、12時間くらいで到着した計算になるわ。相変わらずセシルお兄様の魔法は常識外れね。

 出港準備はエヴェイユで済ませてくれたから、私たちが乗船したらすぐに出港。


「ありがとう、お兄様。無理を言って…ビアンカに怒られなかった?」

「いんや、こっちも北海岸は興味あったからさ」

「興味?」

「特命事項だよ。さ、時間も限られる。さっさと行こう。さぁ、客人たち。ノイエ・エーテル号へようこそ! 快適とは言い難いが、安全な航海を保証しよう!」


 そういうと、セシルお兄様が詠唱を始めたわ。

「シュイシィ・ハイリン、シィェンシィェン・ズイユァン」

 お兄様の手のひらがぼんやりと輝き始めたの。さっそく、「あの魔法」を使うのね。

「ヨクシィ・アラナミ、チンニョ・キョウメン ウーソォ・ワダォ、シャオシィ・ディカン ワンチン・ビィボォ、ウェイウォ・シュンダォ」

無摩擦航路ヌル・ライン・グライド!」

 その輝きがノイエ・エーテル号を包む。途端に、船の揺れが収まったわ。それまでは波に合わせて上下していたのだけれど。


「な、何が始まるの!?」

 エラリーが周囲を見渡したわ。

「お兄様の得意魔法よ」

 船が動き出したわ。

「第一段階完了…皆、用意はいいか!?」


 おう! と屈強な船員たちが答える。エラリーに言うと混乱しそうだから言わないけれど、皆元々は海賊だったのよね…。私には慣れた景色だけれど。

「抵抗係数…50パーセント…40…30…」

 ぐんぐんと速度を上げていくわ。


「皆、しっかり踏ん張って、何かに掴まってもいいわ!」

「ふ、フランソワはん、どういうことや!?」

「いいから、慣れてないから転ぶわよ!」

「20…10…」

 風がどんどんと強くなるわ。そして、速度も!


「全開放! 野郎ども、全速力だ!」

「アイ・サー!」

「進路西、今日中にピレーネ海峡を越えるぞ!」

「ようそろー、進路西!」

「進路西!」

「帆を上げろ!」

「アイ・サー!」


 一糸乱れぬ動きでノイエ・エーテル号はまるで一つの生き物みたいに走り出したわ。

 走り出した、という言葉で足りるかしら?

 まるで海の上を滑空しているかのよう。


「ふ、フランソワはん! ま、まさかと思うけど、セシルはんの魔法ってのは、海の抵抗を消しとるんか!?」

「その通りよ、ニコラス! これがセシルお兄様ならフィヨルドまで一週間でたどり着ける理由。水魔法で海面を操作し、海の抵抗をすべて消して、推進力を100パーセント速度に変えているの!」

 風が強くて目が痛いくらい! 髪もぼさぼさね、仕方ないけど!


「チートや、チートやんけ! 一体何ノット出とるんや!? ああ、しもうた、測定器を持ってくるんやった!」

 その時よ。小柄で、毛むくじゃらの髭ぼうぼうなおじさまが現れたのは。

「ほれ」

 その手には六分儀が握られていたわ。

「こ、これ、カッシーニ式の最新型六分儀やんけ! おっさん、何者なんや!?」

「測らんのか?」

「測る、測るで! た、対象は…」

「ほれ」

 アリア本島を指差したわ。最高峰のラテラル山。

「そ、そうやな! ラテラル山との距離と角度を計算すれば…! 借りるで、おっさん!」

 そう言って、ニコラスは懐中時計を取り出したわ。とはいえ。

「一人で二役は無理でしょ?」

「フランソワはん、頼んます! 時間お願いしますわ!」

「三十秒でいいかしら?」

「十分や…いくで、3、2、1」

「はい!」

 そこから、三十秒。もちろんニコラスのご実家、ヨアヒム印の一級品よ。時差は一日に数秒程度という、信じられない高性能品なの。

「あと五秒、4、3、2、1、ゼロ!」

「獲れた! 三十秒で…アホか、7度も変わったで!」

「6.7度だ、小僧」

「お、おっさん、凄い奴やろ? あ、しもうた! ラテラル山との距離が分からん!」

「初期値が1000メートル、今が1262メートルだ」

 おじさまも六分議を持っていたわ。なるほど。

「バーティカル・レンジ法ね。確かラテラル山の標高は1200メートル前後らしいから…」


 おじさまは簡単に計算したけれど、六分議を縦に使うのよ。


 頂上と麓とノイエ・エーテル号で三角形を作るの。頂上と麓の角度は90度だから、一辺は1200メートルで固定。もし六分儀の角度が45度なら二等辺三角形になるから、ノイエ・エーテル号とラテラル山の距離は丁度1200メートルになるの。角度が45度以上ならそれより近く、45度未満ならそれより遠くなるのよ。タンジェントを使うとより正確な数値が出るわ。出るのだけれど…。


 正直に言うわ。マルタならともかく、私は暗算で即答できないわよ!


「ちょいまち、フランソワはん! 計算するで!」

 ともかくニコラスはそう言って手持ちのメモに筆記をしようとしたのだけれど…諦めたわ。風が凄くて紙が全部飛んで行きそうなんだもの! 結局暗算にしたみたいだけれど…。

「アカン、わいの能力の限界や、マルタはんがいれば!」

 マルタの数学センスは学院でも一、二を争うと思うわ。実家に帰省中なのが惜しいわね。


「50ノットくらい?」

 私もざっと計算してみたわ。簡単に言うと三角形の計算、ピタゴラスの定理というやつよ。流石に暗算は苦しいから、デッキに這いつくばって、紙を押し付けて計算したわ。

 周りの視線? 気にしないわよ、今更。


 X(進んだ距離)の二乗=1262メートルの二乗 マイナス 1000メートルの二乗 


 になるから、770メートルほど、30秒で進んだ計算になるわね。

 一分だと1540メートル進むということ。


 あとは時速だから、1540メートル×60分=92,400メートル=92.4キロ≒50ノット


 と言う計算になるのだけれど。


「せや、せやけど…計算間違いやないんか!? 50ノットいうたら、普通の帆船の三倍近いで! 魔法やんけ!」

「魔法だけど…」

「50.2ノットだ、小僧」

「お、おう…」

 ニコラスが圧倒されているわ。


「おじさま、貴重な体験をさせて頂きましたわ。私はセシルの妹、シャルロイド公爵家はフランソワ・ド・シャルロイドと申します。ぜひお名前を教えて頂けないかしら」

「測量士だ、バルタザール」

「バルタザールのおっさんは、カッシーニギルドの人間なんか!?」

「…昔、在籍していたことがある」

 ほれ、とバルタザールさんは飄々とニコラスから六分議を受け取って、

「精進しろ、小僧ども」

 そう言い残して去っていったわ。

え、最近のタイトル遊びすぎです?

いやだって私も数学苦手ですし。むしろ高校の時に教えて欲しかった。

タンジェントとかピタゴラスの定理ってそう使うのか!! って

※ガチで分からなかったのでAI使いました。ごめん。


※数学苦手な方、同志ですね! ぜひブクマを!

※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。

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