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第17話 コレットは所謂、綾波・長門系です。だって登場人物皆口やかましいんですもん

 その日はギルテニアの宿に一泊したわ。なぜかニコラスも泊まったけれど。


「いや、実家気まずいやん」


 とのこと。そうかしら? ギルテニアの時計職人よね…きっとミリ以下の精巧な部品を扱っているんだわ。ぜひ見学させてほしいものね。とはいえ、先に用事を済ませておかないと。


「コレットはな、ザハリアスのおっさんのところで修行しとるんや」

 再びインクラインへ。コレットが働くレンズ工房は山の手にあるらしいわ。レンズと言えば研磨に大量の綺麗な水が必要なはずだから、上流に位置していた方が有利よね。

 ちなみにエラリーは科学に感謝していたわ。その内崇め奉りそうだけど。インクライン大社…もしくは蒸気大明神…あってもおかしくないわね。その内お社でもできそうだわ。


 ものの10分もしない間に頂上へ。ああ、またお風呂に入りたいわ。朝風呂としゃれ込んだら昼過ぎまで浸かっていそうだけれど。そこから歩いて5分ほど。ログハウス風の木造建築がレンズ工房らしいわ。建屋の隣は急流が流れていて、水車が回っているの。推力を研磨に利用しているのね、おそらく。そして清涼な水を豊富に使う…驚いたのは排水管が別に用意されていたことよ。


「中腹にも下流にも工場はあるからな。ほれ、下の方にため池があるやろ。あれで研磨剤なんかを沈殿させとるんや。昔は流しっぱなしだったらしいけどな、これも議会で決まったんやで。下流の方が黙っちゃいないからな」

 とのこと。汚染対策も先進的だわ。最終的には海に流すらしいけれど…。

「汚水で魚が不味くなったらギルテニア全部を敵に回すで」

「大いに同意するわ」


 ぎぃ、と木造の扉を開く。

「邪魔するで!」

 ニコラスが威勢よく入ると、小柄な女の子がこちらを振り向いた。

「…兄さん」

 ショートボブの女の子が振り向いたわ。研磨の手をとめて、とてて、と寄ってくる。そのまま、ニコラスに抱き着く…かと思ったんだけど!

「…待ってた」

「コレット、おまえそのトンカチしまえ、危ないわ!」

「…うらぎりもの」

「裏切ってへんわ! 俺は学院で大成するんじゃい!」

「おう、来たかニコラス。おめぇヨアヒムの所、顔出してねぇそうじゃねぇか」

「ザハリアスのおっさん! しゃーないやろ、インクライン終電してたんや。今日は顔だすわ…コレット、痛いやろ! 軽くたたいてもトンカチは痛いんや!」

「ど、独特な子だね…」

「そ、そうね?」


「…研磨は、できる」

 セドリック先生からお預かりした顕微鏡を見せると、コレットは興味深げにレンズを見て、何事もなかったかのようにピントを合わせて…旅の途中でズレてしまっていたのだけれど、私たちが二日かかってできなかったピント合わせを一発で合わせて、鏡を少し調整してから、そう言ったわ。

「できるの!?」

「…やってみる?」

「お願い、とっても大事なの!」

 こくり、とコレットが頷いて、慣れた手つきでレンズを外したわ。そして使い込んだ鉄皿の上にそれを置いて、赤黒い砂粒(後で聞いたら、酸化鉄の粉らしいわ)で研磨し始めたの。松脂かしら。粘り気のある濃いめのクリームみたいなものが鉄皿の上にあるわね。

「…」


 無言になっちゃった。ニコラスの話だと、一時間か二時間はかかるみたい。その間、工房を見学させて頂いたわ。見慣れた製品も多いわね。『ザハリアス印』は最高級品の代名詞なの。望遠鏡、測量儀…。アリア海軍旗をあしらっているものも。

「うちも船に一つはザハリアス印があるよ」

 とはエラリー。彼女は商船だけれど、私が知っているのは海軍仕様のものね。

「良く見えるのよね。10海里以上先の船舶の旗を判別できるのよ」

「おめぇさんら、船の関係かい?」

 ザハリアスさんだわ。

「申し遅れましたわ。私、シャルロイド公爵家はフランソワ・ド・シャルロイドと申します」

「私はエラリー・ド・シャトーブリアンよ」

 今度はザハリアスさんが目を丸くしたわ。

「監査じゃあるまいな」

「まさか! ニコラスが、妹のコレットさんならあの顕微鏡を進化させられる、と言うので。ザハリアスさんの弟子だったとは思いませんでしたわ。むしろ納得いたしました」


「あの子はよぉ、所謂天才だ」

「天才?」

 ああ、とザハリアスさんが頷いたわ。

「こちとら碌に教えていないことでも、見様見真似ですぐに実践しちまいやがる。この工房じゃ最年少だが、入って一年でどの職人よりも腕をつけやがった」

「天才…ですわね」

「ああ、天才だ。空恐ろしくもあるがね。だが、危険でもあるわな」

「危険、と言いますと?」

「純朴すぎる。レンズはてめぇの腕で良くも悪くもなるが、売る相手はそうとも限らねぇ。白を黒というような輩は割とその辺にいるからよ。第一、健気に見えるが、まだまだ両親にも兄にも甘えたい年頃だ」

 ニコラスをトンカチで叩いていたのは、彼女なりの愛情表現なのかしら。


「それに、あいつはレンズ以外、何も知らねぇ…。教えちゃいるが、興味があることしか耳に入らねぇのかもしれねぇな」

「そうでしたの…」

 言われて、コレットを見る。研磨の手を止めていたわ。

「…これ以上は、無理」

「無理?」

 こくり、とコレットが頷いて、顕微鏡に戻したの。少し下にスライドさせたわ。ピントを合わせてくれたのね。

「…はい」

 促されるままに覗き込む。

「すごい!」

 前よりも、随分と視界がクリアになったわ。なったけれど…。

「まだ、少しぼやけているわ」

 再びコレット、無言で頷く。


「これ以上…研磨すると…ガラスが割れる…。ガラスでは、これが限界」

 どれ、とザハリアスさんが腰を上げた。顕微鏡を覗き込む。

「コレット、上出来だぁ」

「…ん」

「ありがとう、コレット。これでも随分と良くなったわ。でも…」

 これでは、油でのブラウン運動は観察できないわ。

「別の方法、考えたほうがいいかしら?」

「せやけどな。屁理屈精霊論やで。今から間に合うんかいな」

「そうね…」

 今日は8月6日よ。今から王都に戻って、8月10日か11日。

「一カ月以上あるわ。一から理論を組みなおせば…」


「…ある」

 蚊の鳴くような声で、コレットが口を開いた。

「方法は、ある。蛍石(フローライト)…」

「蛍石?」

「ガラスは…色を混ぜてしまう…。だから、ぼやける…。蛍石は、光を分けない…色が、滲まない…」

「その、蛍石と言うのはどこにあるの?」

 耳馴染みが無いけれど、鉱物よね?

「…フェンリル・ベルク産の蛍石は…ミルドガルド一という…話…」

「フェンリル・ベルク…聞いたことがあるような」

「あれだろ、ハンスの実家だろ」

 それまで退屈そうにしていたシオンがようやく発言したわ。

「ハンスの…フィヨルドよね」

「地図ならあるけど」

 エラリーが腰袋から地図を取り出してくれたわ。大陸図よ。…なんで持ってるのかしら。

「商売人なら当然でしょ~。あった、ここだね。フィヨルドの北の果て」

「いやめっちゃ遠いやんけ。ハンス、こんなところから留学してたんか!」

「でも、行けば蛍石、手に入るんでしょ? 何かいい方法はないかしら?」

「いやいや、帆船でも二カ月くらいかかるんちゃうか? 終わってまうで、グランド・ディベート」

「…コレット」

「なぁに?」

「蛍石があれば、完璧にクリアな視界が担保されるのよね?」

「…うん」

「なら、それに賭けましょう。エラリー、シャトーブリアン商会には早馬制度があったと思うけれど、それで王都まで、ここから何日かしら?」

「え? えっと…二日あれば!」

「今から?」

「夜間便は生憎ないよ、明日出発になっちゃう」

「明日は8月7日よね」


 セシルお兄様はなんて言ってたかしら。

 8月10日に出港。早馬は8月9日には到着するわ。

 もしエヴェイユ港の出発が10日なら微妙な所。王都を9日には出発してしまう計算になるし。でも、王都発が10日なら、1日分余裕がある!


「賭けるわ、エラリー、今すぐ早馬を手配してくれる? 私はお兄様へ手紙を書くわ!」

「フランソワはん、いくら海軍艦でも、フェンリル・ベルクまでは相当時間かかるんちゃうか?」

「セシルお兄様ならできるわ。いいえ、セシルお兄様しかできないわ。フェンリル・ベルクまで、一週間で向かうわよ!」

 そんなアホな、とニコラスが目を丸くしたわ。

綾波・長門系で伝わるキャラクターってすごくない? すごいと思う。

多分髪の色は水色系(決めてない)


※無口美少女キャラがお好きな方はぜひ応援ください!

※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』でも連載しています。

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