第16話 異世界だからってお刺身とお寿司を食べない理屈は無いと思います。(7割くらい飯食べてるだけです)
インクラインで一気に街に降りたの。すこーし、揺れて怖いけれどとにかく便利で! 鉄路の上をゴンドラが登って降りるのよね。
「蒸気機関でワイヤーを巻き上げているのね」
「流石や、フランソワはん! でも、それだけやないで」
「もしかして、下りと上りで重力を交換してるの?」
中腹で上りのゴンドラとすれ違ったわ。
「せや! ゴンドラ一つだと、下りでスピードがつきすぎるからな」
「危ないわね、それは」
「これ、平地だとできないの?」
エラリー、良い事を言うわね。
「理論上はできるはず、だけど。重力を使えない分、難易度は高いと思うわ」
「せやな、もう少し研究が進んで、蒸気機関が小型化して、出力が上がれば、平地のインクラインができるはずや! 蒸気ギルドが研究しとるで。なんでも、『蒸気機関車』というらしいわ」
「ぜひ一度話を聞いてみたいわね!」
とか話している間に街についたわ。ギルテニア中央駅...格好いいわね。
「これな、ギルテニアの意地なんや。まだここと山頂しか駅がないけどな、そのうちアリア中に蒸気機関車を繋げるんや!」
「なぁ、ニコラス」
「どうしたんや、シオンはん! シオンはんも気になるやろ? 鉄の塊が縦横無尽に走り回る未来が来るんやで!」
「…飯」
シオンはそういう子よね。
「ギルテニアはな、男も女もよう働くんや。メイドなんておらへん、コース料理なんてクソ食らえや。その分な」
繁華街の暖簾をくぐったわ。蒸気と麦…お店の名前ね。『スチーム&モルト』、良い名前だわ! シャルルもこういうお店は多いの。女性も家庭じゃなくて、共働きが多いのよ。
「やから、外食業はよお繁盛しとるねん」
「ニコラスやんけ! 生きとったんかワレ!」
暖簾をくぐった瞬間、ニコラスと同年代の若旦那が駆け寄ってきたわ。
「お前もや! えらい繁盛しとるやんか!」
「あたぼうよ、スチーム&モルトはギルテニア一、いいやアリア一や!」
ガハハ、と大笑い。所々で乾杯の歓声。醤油が焦げる香ばしい香り、お米が炊けるにおい。麦酒が溢れ、きつい蒸留酒とかすんだタバコの煙。
こういうお店、久しぶりだわ!
「なんや、場違いな嬢ちゃんつれて!」
「わいの連れやで」
「嘘やろ!?」
「嘘や!」
「いやぁ、お嬢さん、付いて来とるか? わいはニコラスの悪友、ジャコっていうんや!」
もちろん、ここでの作法は心得ているわ。シャルルの酒場と同じ雰囲気だもの。
「ジャコさん、私このお店気に入ったわ! とびっきり美味しいのをお願い! あと、お刺身、お刺身が食べたい! もう一年近く食べてないの!」
「嬢ちゃん、お綺麗さんなのにわかってるやんけ! ちょい待ち、四名様ご入店〜!」
はいよ! と店員さん達の威勢のいい声! 今度セシルお兄様も連れてきたいわ、絶対気にいるもの! …エラリーとシオンが目を丸くしてたけど。
「生魚」
出てきた刺身を見て、エラリーが今度は固まったわ。
「生魚よ、港町でしか食べられない最高の贅沢よ!」
「せ、せめてカルパッチョかマリネはないの?」
「エラリー、それは邪道よ」
「せや! 何がオリーブオイルや、ビネガーや! あんなん魚の旨い所を隠してるだけや!」
「そうよ、エラリー! この血の香りと潮と磯の香りが最高なんじゃない!」
「ええ…」
「うまい」
シオンは遠慮がなくていいわね。野菜は食べないけど。
「これが最高なんやで、エラリーはん! 騙されたと思って食べてみ!」
「ち、ちょっと遠慮しとく…」
「あ、店員さん、小エビのフリッターと、それからタコの唐揚げも!」
「タコ!?」
「デビルフィッシュやないで、夏のタコは最高や!」
「シュタイル海峡の急流に揉まれて、なんとも言えない歯応えになるのよね! あ、鯛も食べるわよね!?」
「流石フランソワはんや! 対岸同士、美味いもんは把握しとるってことやな!」
「それ! シャルルの鯛は天下一よ!」
「何言うてまんねん、ギルテニアの鯛が一番や!」
「取れる場所は一緒だけどね!」
いえーい、とハイタッチ。あら。エラリーが固まっているわ。
「エラリー、煮豚もあるわよ?」
「鴨も置いとるで、魚には負けるけど!」
「あ、うん、できれば焼いてるやつで…」
「かたい」
「そりゃシオンはん、骨やからな、それ」
で、ニコラスと鯛は刺身か塩焼き(ふわふわ)かで喧々諤々な論争が始まった訳だけれど、それよりも大きな問題が起こったのよ!
「ニコラス、これは一大事よ!」
「どうしたんや、フランソワはん!」
「メインが選べないわ!」
メニュー表には色とりどりの、それはそれは美味しそうな料理がイラスト付きで書いてあるの、書いてあるんだけど!
「サバと米の箱詰め、ムール貝と白身魚のパエリア、採れたてシラスとレモンのピッツァ、そして極めつけはこれ! イカ墨パスタ! どうしよう!」
「アカン、フランソワはん、これは究極の選択やで!」
「なんでもいい」
「箱詰め以外で! 箱詰め以外でお願い!」
エラリーが必死だわ。そんなに嫌?
「バッサじゃ生食しないの! すぐ悪くなるじゃん!」
「新鮮だから大丈夫よ、目の前から採ってるのよ?」
「そういう問題じゃないの~!」
「そういえばシオンは抵抗が無いわね?」
「そりゃ、冬の保存食と言えば猪の生ハムだし」
「ルイベってやつやな、シオンはん!」
「ルイベ?」
「北の方じゃ、生肉を凍らせて悪い虫を殺すらしいで」
「そっか、シオンは山の方の出身だから…」
「理屈は分からないけど。塩と薬草で三年くらい吊るすといいらしい」
なんて話しているとね。
「嬢ちゃんら、威勢ええなぁ!」
ぬっ、と頭が禿げ上がった小男が現れたわ。その割に筋肉が引き締まっていて、指先は黒く変色しているの。ひと目で分かるわ。歴戦の技術者ね!
「嬢ちゃんら、酒は?」
「あいにく、成人前ですの」
「がはは、食いっぷりによらず若者やな! おいジャコ! 鯖の箱詰めと…あとなんだ!?」
「パエリアとピッツァとパスタですわ」
「全部もってこい! おっちゃんが奢ったる!」
「え、いいんですの!?」
「私、箱詰めは食べないよ!?」
まいど! ってジャコの威勢のいい声。
「ってか、ゼンのおっさんやんけ!」
「おう、ニコラス、おめぇも学院なんて似合わねぇところじゃなく、さっさと弟子入りしろや。おやっさんが愚痴ってたぞ、コレットは真面目なのによ」
「わいも真面目や、大真面目! わいはな、ギルテニアの技術でこのふるーい教会を全部解体してやるんや!」
「がはは、言うようになったな! で、修学旅行ってか?」
「遊びちゃうわ! それこそコレットに頭下げにいくんや、ホントは嫌やったんやけど!」
「おめぇさん、昔からコレットには弱かったわな」
「そ、そんなことないで!」
「ところでニコラス、このお方は? さぞかし高名な技術者とみたわ!」
「せや、フランソワはん! 流石お目が高い、この方はな」
「ゼンや、お嬢ちゃん。おもろい子やな。普通貴族ってたら…そこの嬢ちゃんみたいに固まってるんやけど」
そこの嬢ちゃん、つまりはエラリー。確かに硬直してるわね。雰囲気に飲まれたかしら。
「ゼンさんことお目が高いわ、どうして貴族だと?」
「指と顔や」
「不徳の致すところですわ。科学者たるもの、指先は炭と薬品でボロボロになるべき…私、もっと精進します!」
「ほんまおもろい子やな?」
「せや、ちょーっと変わってるんや。だからこそ連れてきたんやけどな」
「ところで、ゼンさんはどんな技術を?」
「もう体験したで」
ニコラスがにや、と笑ったわ。
「もしかして…」
「おう、インクラインの蒸気機関なら俺が作ったやつや」
「神様! 神様に会えたわ! ゼンさん、もう最高でしたわ! 急坂をものともせずに登る逞しいインクライン、それに廃熱を利用したお風呂! 全てが計算され、無駄のない設計ですわ!」
「フランソワはん、風呂場に三時間くらいいたんやで」
「それは言わないで頂戴!」
「がはは、分かっとるやんけ嬢ちゃん! ジャコ、酒追加、嬢ちゃんらには…せやな、なんか旨いジュースでも出してやれ、これも奢りや!」
「おじさま、最早神を越えましたわ!」
「箱詰め、旨いぞ」
「シオン君、旨くても嫌なのは嫌なの」
シオンとエラリーは完全に置いていかれてたけど。
だってお魚最高じゃないですか。舞台は真夏ですし、王都では多分ハモが名物だと思います。
そろそろお気づきかもしれませんが、フランソワはかなり日本人的な感性の持ち主です。
エラリーの方が異世界人っぽい…。(深読みされるとアレなので補足しますが、フラグでもなんでもないです。フランソワは現地人)
※真鯛は刺身派です? それとも塩焼き派? ちなみに真鯛の刺身をゴマダレにヅケて、大葉を散らしてご飯に乗っけたら滅茶苦茶旨いです。
※ブクマの依頼するつもりが普通に飯の話になっちゃいました。
※『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載中です。




