第15話 蒸気と鉄の街ギルテニア到着! その前に、ひとっ風呂いかがです? 瓶牛乳もありまっせ。
「合議制やな」
四日目、ニコラスが手配してくれた通行証ですんなり入場が許可されたわ。ここからしばらくは森を抜けていくらしいの。
「合議制?」
「せや。代表者が10人ばかし集まってな、議会ちゅーもんをやるんや」
「貴族院みたいなものかしら?」
いくらビアンカが暴走皇王でも、一人で全ては決められないのよね。貴族資格があれば参加できるのだけれど、大きな方針や予算なんかは貴族院の認可がいるの。
「貴族院ならお父さんも参加してるよ。そもそも、貴族になったのは政治権力が欲しかったからだし」
とはエラリー。法律の認可も貴族院の権限ね。
「議会自体は似とるけどな、特徴は議員の選出や。ギルドの代表者が参加するんやで。しかも任期は5年と決まっとるんや」
「と言うと…代表者が定期的に入れ替わるの?」
「そう言うことや」
それは画期的だわ。今の貴族院だと、耄碌したおじいちゃんでも資格を剥奪される事はないし。
やがて、ごうん、ごうんと地響きみたいな音が響いてきたわ。初めて聞く音だけれど、もしかして。
「せやで、フランソワはんの考えてる通り…そしてギルテニアの技術の結晶や!」
ぱっ、と視界が開けて、きらきらと輝く夏の海が一面に広がったの。今日は天気が良くて、対岸のシュタイル島まで見えたわ。
「シャルルだわ!」
私の故郷、シャルル。海一つ隔てた向こう。その奥には幾重にも連なった山々。海に浮かぶ天険。
「シオンの故郷、あの奥よね」
「ああ…懐かしいな」
「シラカヴェル…きっと温泉があるわよね!」
超標高の温泉…どんな絶景かしら? 一度は訪れてみたいわね。
「猿が入ってるのでよかったら」
「猿が入るの!?」
テンションも上がって、気分は上々よ。さらに降っていくと、さらに音が大きくなってきたわ。
間違いない、これは…!
「蒸気機関!」
森を切り開いた一角に、それはあったわ。鋼鉄の巨大な機械。煙突からはもうもうと蒸気。ごうん、ごうんという音はピストンの音だったのね。
「せや! これこそギルテニアの名物、インクライン(ケーブルカー)やで!」
ニコラスが指差した方向を見ると、急斜面をワイヤーに沿ってゴンドラ(客車)が登っていたわ。殆ど満席ね。立ち客もいるわ。客車の後ろには露天の荷台。ワイン樽がいくつかと、長方形の箱がいくつか。麻袋に詰められたものは石炭かしら? 口のところが黒ずんでいるの。
「噂では聞いていたけれど、見るのは初めて! 本当に実用化していたのね!」
「レガリア街道にも欲しい!」
エラリー、切実過ぎるわ。気持ちはわかるけど。
「でも、帰りはここまでインクラインで登れるのよね。随分と楽できそうだわ」
「せやで、あとな、フランソワはんが喜びそうなもんがあるんや」
「ギルテニア最高! 科学最高だわ!」
そう、蒸気機関の排熱を再利用した大浴場! しかも男女別! 安心、最高! 旅の途中はまともにお風呂も入れなかったの。夏の汗ばむ時期だったし、香水で誤魔化していたけどもう限界で!
しかもしかも、お湯が使い放題なの! 使い放題、ということは水資源が溢れる程豊富、ってことよね。真水は貴重なのよ。乾燥地帯だと飲み水を確保するだけで精一杯なのに、ここでは工業用水に回す余裕がある、ってこと。
蒸気機関の加熱にも使うし、記憶が確かなら冷却水も大量に必要なはずよ。きっとアルバ山地から豊富な水が流れ込んでくるんでしょうね。これだけでもギルテニアが発展する理由になるわ。敢えて不満を探すなら、温泉ではないのが唯一残念、という所かしら。でも、もう十分すぎる設備だわ!
「…フランソワってもしかして入浴好き?」
「大好きよ、小さい頃から温泉に入ってるし」
「バッサには無い文化だなぁ〜」
「エラリーもきっと気にいるわ。私もうこのままギルテニアで暮らしたい…」
「そこまで!?」
かぽーん、と響いて、しばし瞑想。お湯の中でお水と一体化するみたい。ここでロッサム教授に「精霊の存在を認めたまえ!」とか言われたら間違いなくこう答えるわ。「精霊は知らないけど、お風呂には神様がいます!」って断言するわ。
どのくらい浸かっていたかしら。エラリーはすぐに出ちゃったのだけど、ぼんやり、のんびり、天井の水滴を眺めつつ…。
「ごめん」
日が傾いたのは想定外よ。私の至らぬところよ。シオンにジト目されたわ。
「腹減った」
そうよね!
「ホントは今日、工房に顔出そう思ったけど…これやと明日やな」
「ごめん…あの、もう一つ我儘で…」
「どうしたんや、フランソワはん」
「冷やし牛乳、もらって良いかしら?」
はい。数話前に予告した、ほんのりお色気シーンです。
え、イメージと違う? いやだってその…ラッキースケベとか主題じゃないですし…この話、ハーレムモノでもないので…。
※期待外れ! ってお怒りの方! 不満は感想で受け付けます!
※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』でも掲載しています。




