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休日(後半、シエルフォード視点)

「あら!久しぶりじゃない、元気そうね」

「シャーナさんも元気そうで何よりです!」

「ほら、カイリも隠れてないで出てきなさいよ」


 顔だけ覗かせたカイリは恥ずかしそうに俯いて来たかと思うと、シャーナさんの後ろに隠れてしまった。


「よう」

「久しぶりね、怪我はもう良いの?」

「別に。もう何ともないけど…」


 シャーナさんは「嘘おっしゃい」と言って、少年の首根っこを掴んだ。


「昨日も木から落ちて擦り傷作ったんでしょうに!ほら、消毒が済んだんだから帰んなさいよ!」

「うるせえ!」


 きゃっきゃと賑やかな空間。シャラっと煌びやかな音と共にカーテンが開かれて一気にその空気を変えた。

 シエルは兄であるシャーナさんを一瞥した。それを受けたシャーナさんは分かりやすく微笑み「お久しゅうございます」と言って膝を折った。


「あの、私カイリと遊んで来ます」


 言葉に詰まった私が最大限気を遣って出たのがそれだった。

 草が繁茂した庭は、相変わらずよく整備されている。ほとんどが薬草だとシャーナさんは言っていた。降らせた雨が、草木の成長を助けている様が目に見えて分かり、喜ばしい。


「さ、庭で虫取りでもしようか」


 跳ねるバッタが露を爆ぜ、私の掌に収まった。


「ルナレスカ、やっぱさ…」

「ん?」

「いや、なんでも」


 バッタは再び緑の中へと身を隠し、揺れる葉はバッタのせいなのか、風のせいなのか分からなくなった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 気に食わない。


「で、なんだその顔は。シエルフォードくんの火の気質がそうさせるのだろうが、嫉妬深いのは嫌われるぞ。いや、もう嫌われているのか?」

「……」


 ぎろりと睨むと、女のような兄は楽しそうに手を広げて大袈裟なため息をついた。


「まあ、いずれ距離を置かれているんだろう」

「なっ!」

「手に取るように分かる。悲しいくらいにな」

「っっ!…アクアクォーレの国王が、処刑前の自分の息子をルナリーに会わせやがった」

「……貴様っ!!」


 大きな瞳がこぼれ落ちんばかりに見開かれて、華奢なはずの腕が僕の肩を力強く押さえつけた。


「お前が悪い、シエルフォード!!なぜ寄り添ってやらない!?」

「時々、ルナリーが俯くんだ」

「大馬鹿野郎が!」

「ああ、そうだ!ルナリーの心の暗闇に触れてしまうのが恐ろしくてたまらない!ひとたび、かの元王太子の名前がルナリーの口からこぼれ落ちれば、気が狂いそうになる…!」

「ふざけるな。なら、ならば…本気で俺がルナレスカを貰い受ける」

「兄上…」


 己の情けなさから顔を上げれば、兄は見たこともないほど大層怒っていた。


「まさか…兄上……」

「俺がルナレスカを愛していないなどと、どうして言い切れる」


 ゆらゆらと揺れる瞳に、僕が映り込んでいる。なんと情けない顔をしているのだろう。


「彼女は特別だ。あれだけ他人のために尽力できる女は少ないだろう。加えてあの可憐さだ。壊さぬよう慎重になる気持ちは分からんでもない。…だが」


 やっと手を離した兄は、台所で何やら茶葉を煎じ始めた。独特な匂いが鼻をつく。


「ルナレスカとて一人の女だ。俺はな、シエルフォード。女になってみてよく分かったことがある」

「それは?」

「理由なく護られるのは、不本意だということだ」


 カップが二つ運ばれて、色んな匂いが複雑に混じった湯気が立ち上っていく。


「そういう意味では、お前の火の気質というのは、随分と厄介だな。護りたい、だから護る。愛している、だから愛す。ある意味、実に清々しいが……お前は昔からそうだ」

「幼き日、兄上が城から去る時も随分と泣きました」

「ははは!お前はいつまでも可愛い弟だ。だから愛した人さえも、お前に任せられる。ならばせめて、二人とも笑っていて欲しい」

「願わくば、そうありたい」

「なら、ルナレスカの水の性質を考えてみたら良いだろう。お前は一生ルナレスカに頭が上がらんなあ、まあ、お前たちはその方がうまくいくだろうよ」


 独特の匂いの茶は、やはり独特な味がした。

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