帰国してから
デューべに戻ってからというもの、アクアクォーレまで雨の調整をする日々が続いている。
(集中しなくては)
そう思うのに、ライウス様の最期の笑みが頭から離れない。
恋心など抱いたことはなかったけれど、想像もしなかった最期に胸が痛む程の情は確かにあったのだ。
(気分が悪い…)
あと少し、あと十分だけ降水させたら、今日の勤めが終わる。
ルードアンが休憩のために周りを整え始めた。
やがて、しとしとと小降りになった雨は止み、忙しなく風が吹いて雲を蹴散らすと、太陽が砂漠の地を照らし始めた。
窓の外で雫を落としている木々の瑞々しさはこの上なく美しく、思わず目を見張るほどだ。
ルードアンも、茶器を準備する手を止め、窓を開けて身を乗り出している。
「デューべの人々は、この様に雨で様変わりする故郷を知ることができて、ルナレスカ様に感謝していることでしょう」
「私も雨の後の世界が大好きなのよ」
「うむ、うっとりとして見入ってしまうな」
突然の低い声音に驚き振り向けば、それはシエルだった。
私があんまり目を見開いて驚いているので、余程面白いものでも見たかの様に笑っている。
「勤めが終わったら、茶でもと思っていたんだが、伝わっていなかったか?」
ルードアンは、あっという顔をして、頬を赤くして俯いた。
その表情を見て、大いに頷きシエルは言った。
「良い。ルナレスカの雨に見惚れていたのなら、その気持ちは僕もよくわかるからな」
「シエル、お仕事はよろしいのですか?」
「君に報告もあってな」
なんだろうと思いながら、湯気が上るお茶を啜って束の間の休息に浸る。
上質な茶葉は、デューべで採れたものだという。細工物だけではなく、水捌けの良い土壌を生かした特産品が増えることは喜ばしい限りである。うんうんと思っていると
「君の銅像の件だが」
というシエルの一言で思い切り咽せた。
「げほっげほっ…!!ほ、本当に作るつもりなのですか!?私てっきり…」
「当たり前じゃないか。できる限り煌びやかにするつもりだ。半年後には完成するだろうから、除幕式には参加するつもりで頼む」
「えぇ……」
シエルとの関係は以前ほどひび割れていない。
彼の生い立ちや立場を踏まえれば、今までのことも何となく得心がいく。
お互いどこか気を遣っているのだろう。そう、あえて言うなら
(気まずい)
「……」
シエルの薄い色素の瞼が閉じられて、お茶の余韻に浸っている表情が絵に描いたように美しい。
(長いまつ毛…)
「僕に何かついているかい?」
「え?…い、いや、そういうんじゃないです」
「見つめてくれたと思っても良いのか?」
「……まつ毛が、長いなと…あの、すみません、決して変な意味ではなくて!」
「ぷっ、はははは!」
ほっ、と胸を撫で下ろした。
(まつ毛が長いなんて、男性に向けて言う様なことではなかったけれど…)
「…シエル?」
どこか切ない顔をして私のことをじっと見ている。
ハッとした様に繕う笑顔に違和感を覚えた。
「明日は、勤めがないだろう?良かったら少し羽を伸ばさないか?」
「よろしいのですか?私、行きたいところがあって」
「診療所以外なら、どこへでも行こう」
「……その診療所なのですが…」
「却下だ」
キッパリ言い切ったシエルに、先ほどの違和感は感じない。
(気のせいかしら?)
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