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地下牢にて(ローズナリア視点)

 今日、私は処刑されるのだという。


 目に入れても痛くないと言っていた、望めばなんでも買い与えてくれた両親の姿が目に浮かぶ。


(あれだけ愛をくれていたのに、保身のためなら随分と呆気ないものだったわね)


 取り押さえられた家族たちは、我が身可愛さに全てを告発する代わりに減刑を申し出た。


(殊更近親の告発は、より罪を軽くできる…馬鹿でも知っていることだわ)


 ついでにやってもいない罪の二つや三つ押し付けられたのだからお笑い種だ。


(お父様が、帳簿をちょろまかしていたことも、賄賂を受け取っていたことも知っている)


「ライウス様の首ももうじき刎ねられるのかしら…」

「五月蝿いぞ、偽聖女!」


 看守がギロリと睨んだ。その瞳の奥に怨念めいたものを見る。


(愛した人を巻き込んで、どうしてこうなってしまったのかしら)


 ふ、とルナレスカの後ろ姿が浮かんだ。

 いけすかない女。折角こちらが気にかけてやっても、少しもこちらに取り入ろうとしない。


(平民のくせに)


 なんの後ろ盾もない、アクアクォーレのただの水源。この国において、水など無価値なのだ。なら、あの女も無価値ではないか。


(それなのに)


 ああ、あれはいつかの私だろうか。


『ルナレスカ様、こちらでお話しませんか?美味しい茶菓子もたくさんあるの』

『ありがたいお申し出なのですが、これから授業がございますので、失礼します』


 お辞儀の姿勢にやや違和感がある。所詮は平民出身だ。


『花嫁修行がうまくいっていないと聞くわ?』『当たり前よ、生まれが違うもの』『お気の毒ね』『本当に、くすくす』



(私も、あの時の令嬢達のように、鼻で笑えればよかった)


 式典ではいつもライウス様の隣にいて、他の令嬢達の輪に入ろうともしない。王太子妃の座に治れば、貴族令嬢に媚を売ることもないと考えているのだろう。


(つくづく、いけすかない)


 ライウス様の隣には、あんな平民ではなく、無価値な水の聖女などでもなく、私こそが相応しいのだ。

 聖女でなければ妻になれぬのなら、無価値な水よりもこの地に富を産む火の聖女にでもなって仕舞えば良い。

 そもそも、水は無限に湧くと言うのに、何が水の聖女なのだろう。ここはアクアクォーレ、水の国だ。

 ルナレスカは、異邦人に水をくれてしまうと問題になっていたが、そんなものその辺の露天の婆でも柄杓で掬って与えられるのだ、汚いのでわざわざやらないだけである。

 だったら私でも聖女になれるというものだ。蝋燭の火に、あれは私の象徴だと言えば良いだけ。簡単なこと。


(なのに、なぜ水は乾き、私は投獄された?)


 分からない。


「…あれ?そういえば私、どうしてライウス様を好きになったのかしら」

「おい!うるせぇぞ!!」


 ガン、と思い切り柵が蹴られた。鉄柵は、僅かに振動しながら、不協和音を立てている。


(ルナレスカが羨ましかっ…た…)


 そんなはずはない、そんなはずはない、そんなはずは…。

 私は愛して愛し抜いた人を欺いた故に死にゆくのだ。

 けれど、どうにも思い出せない。どうしてライウス様が好きだったのか、その一点が。


「こんなことで……」


(死にたくない)


「私、死ぬの?」


(本当にルナレスカが羨ましかったっていうの?)


「違う」


(私は愛する人を手に入れるために…)


「……ああ…ああ!ああああ!!!」

「この!黙りやがれ!アクアクォーレの悪魔め!!」


 看守の言葉に、目の前にヒビが入ったような感覚に陥る。


『あれはまごうことなき悪魔にございます』

『今日より我が子は、生まれたと同時に死んだものと思います』


(お父様、お母様…)


 ライウス様との結婚が決まって、良くやったとお喜びになったではないですか。

 火の聖女の素質があるのか、そうかそうかと、よく確かめもせず、送り出したではないですか。

 本当に、私だけが悪いのですか。

 良き夫に支えよと、より身分の高い殿方の心を射止めよと、カタン家である誇りを持てと、見下されるな、見下せと、常にそう言っていたではないですか。


『娘が火の聖女を騙るなど、到底許せることではありません。ですが、あれに脅されたのです。火の力で燃やしてやると。屋敷ごと、焼き尽くすぞと……』

『私たちだけは、どうかお許しください』


 はは、と勝手に笑いが漏れる。あんなに切羽詰まった両親を始めて見た。


 格子のついた窓の外で、久方ぶりに雨が降っているのが見える。きっと、ルナレスカがアクアクォーレにいるのだろう。

 塀の外では歓喜に湧いて、ルナレスカを讃えているに違いない。ここからは歓声も聞こえないけれど。


(火の祭りも、いまいち盛り上がらなかったわ。私には歓声のひとつもあがらない)


 ルナレスカはデューべの王太子妃となったのだという。ライウス様は明らかに肩を落としていた。

 ライウス様はもう、首を落とされたのだろうか。この雨なら、さぞ刑場の血も綺麗に落ちることだろう。


(……ああ、私は…本当に死ぬのだな。しょうもない嘘で、勘違いの恋で、つまらないプライドで、自分の人生を書き換えてしまった)


 あの日、ルナレスカに話しかけたあの日、他の令嬢達と同じように笑えていたら、私は今頃どうしていたのだろう。

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