シエルの炎に包まれて
アクアクォーレから書簡が届いた。
(どこまでも馬鹿にしているわね)
ローズナリアが偽聖女だったことが分かったので、国外追放は取り消したい。近くアクアクォーレに戻って欲しいという内容だった。
(あれだけ拒否をしたというのに、まるで理解されていないみたいだわ)
曰く、そもそも水の聖女はアクアクォーレの所有であり、一時的に放棄したものの、デューべが所有することは認めていないと書かれていた。
(所有…放棄…)
まるで私をモノみたいに扱うような言葉が綴られている。国の所有物、これが聖女の正体だ。
(けれど…文章の端々に、国民が渇きに苦しみ、疲弊している事実が記されている……)
紫陽花を手渡した幼い手を思い出す。胸がずきりと痛んだ。きっと彼らも渇きに苦しんでいるだろうことは容易に想像できる。
(駄目ね、復讐の好機に…祖国の幼子を思い出しては)
扉が開いて「失礼する」と入室したのはシエルフォード様だった。彼は、開口一番「ああ、やはり読んだか」と言った。
「私宛の書簡、読んでいけないことがありましょうか」
シエルフォード様は些かたじろいで「っっっ」と声にならない声の後にため息をついた。
「君が…取られるんじゃないかと心配している。…手紙を見ても?」
(取られる…結局私は、ここでもモノ扱いだわ)
半ば諦めた気持ちで便箋を渡した。キョロキョロと文字を追う目線の速さときたら!本当に一言一句読めているのかしらと不思議になる。
「……ふざけている。所有だと!?放棄だと!?ルナレスカをなんだと思っている!」
「それはシエルフォード様とて同じことでしょう。取るか取られるか、そんなふうに聞こえます」
「っ!そんなつもりじゃないが……。すまない、君がライウス殿に……いや、もう止めよう。きちんと君に向き合わなければならないな」
シエルフォード様は、目を閉じて何かを堪えるように噛み締めてから、跪いて私の手を取った。
「僕は…っっ。僕が、火の聖女の力を持っていると言ったら?」
「…はい?」
ついにおかしくなってしまわれたのか。いや、私がアクアクォーレに帰ってしまうのではないかと思って、慌てて大博打に出ているのだろうか。
「信じていないようだな。なら、その目に見せよう」
部屋に置いてあったいくつかの蝋燭に、一気に火が灯ったので、私は息を呑んだ。
「これは…!どんな仕掛けですか?」
「仕掛け?そうか、君はそこまで僕を信じられないのだな」
「シエルフォード様…」
ゴッと音を立てて、彼の周りを火が畝る。突然の出来事に、思わず腕で自身を庇った。カーテンやシーツやカーペットに引火してしまいやしないかヒヤヒヤする。
「引火が怖いか?火が移らないようにコントロールすることなど僕には容易い。たとえ燃え移っても、この炎が何かを焼くことはない」
「それは一体、どういう…?」
「…僕は誰よりも君の苦しみを理解できているつもりだ。この力のせいで、僕は生まれながらに母を焼き殺しているのだから」
「……え?」
「火を制することができるようになった今は、触れても熱くない炎が出せる」
切なく笑っている口元が震えている。今にも泣き出してしまいそうだった。
「この力を呪う僕が、本当の火の聖女がいるのなら探し出したいと思う気持ちは、愚かか?」
「シエルフォード様……」
遂に頬を伝った涙に、いっそ炎に燃えてしまっても良いと思えて、その涙を拭った。
「本当に、熱くないのですね。不思議だわ」
「ルナ…ルナレスカ…!!君は…」
「…ルナリーと、呼んでください。シエル」
「ルナリー!!」
ぎゅっと抱きしめられた腕から、メラメラと私に炎が移っていく。何も燃えず、熱くもなく、ただ炎が肌を這っていくのだけを感じた。大きな炎に包まれた私たちは、この瞬間、一つになれたような気がした。
「…君に…話したいことがたくさんあるんだ」
「ええ。私も…」
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