シエルフォードの悩み(シエルフォード視点)
「…雨だ」「ああ!ルナレスカ様が元気になられたんだな!」「どうなるかと思ったけど、これでせっかく植えた作物も枯れずに育つだろう」「貯水池の水が安定して使えるな」「でも…大丈夫かな、聖女様」
ルナレスカは何かを吹っ切るように集中して、デューべに雨を降らせている。
『これから雨を降らせるって!?いくらなんでも無理だ、せめてもう一日休んでくれないか』
そう懇願したけれど、彼女は冷静にそして吐き捨てるように言った。
『ご心配なく。もう、倒れるようなことは決してありませんから』
それで、せめてルナレスカの側にいさせて欲しいと無理に同席させてもらっている。
(なんて神聖な気持ちになるんだろう)
雨を乞う聖女の横顔は、この世の奇跡を見ているかのように美しい。
腕を伸ばす先に、何か見えるのだろうか。あの視線を向けられる対象があるのなら、僕はそれが妬ましい。
しとしとと窓にぶつかる雨が、一定のリズムを刻んでいる。
「…もう間も無く終わります。…ずっとそこにいらっしゃったのですか?」
「ああ」
どうして、と問おうとするルナレスカの口元をじっと見つめた。
「な、なんでしょう?」
「君が考えていたことを当てようか」
「はい?」
「アクアクォーレにも雨を齎さなくて良いのだろうか、かな?いや、他の国々も決して例外ではないか」
「私も……シエルフォード様のお気持ちを当てて見せます」
「ほう?」
挑戦的な視線を向けられる。雨乞いの時のような、あの焦がれる視線を向けてはくれない。
(当然か。嫌われたものだな)
「それで、僕の気持ちというのは?」
「シエルフォード様は、本当の火の聖女様を探すおつもりですか」
「?そのつもりだが」
僕が火の聖女の性質を持って生まれたというだけで、火の聖女が不在という理由にはならないのではないだろうか。その疑問がどうしても拭えない。
(僕は…自分が火の聖女の力を得ているだなんて、認めたくない)
僕の出生が、まるで呪われているようで、とても受け入れることができないのだ。
ルナレスカは、「やはり、そうなのですね」と言って諦めたような笑顔を向けた。
(君は、一体何を考えているんだ)
✳︎ ✳︎ ✳︎
父はデューべの国王、僕を産んだ母は公爵家の令嬢だった。
幼馴染の二人は長年お互いを想い続けていた。よくある話だ。
けれど、父は王太子だった頃からすでに婚約者がいた。火の聖女・ビビア。彼女はルナレスカのように、市井の出身だった。
父はビビアと結婚し、兄上が産まれたのだ。けれど…あろうことか父と母は逢瀬を重ねていた。父はビビアと離縁し、母を正妃として迎えた。
やっと真実の愛で結ばれた相手と添い遂げることができる、二人は舞い上がっていたのだろう。
けれど、現実は残酷だった。
聖女との縁を絶った格好になる父に、神が怒ったのか、はたまた運命の悪戯か。
産まれてきた僕は火の聖女のような力を持っていた。産まれるその瞬間、僕は母を焼き殺したのだ。
聖女の性質など、生まれながらに分かるものではない。幼少期になって、少しずつ発露するものだと聞く。もちろん、ビビアの母親は健在だ。
(僕は、自分の力が恐ろしくてたまらない)
僕は産まれるのと同時に、母を殺してしまった。
父は、愛した人が遺した僕をどう思っているのだろう。時折考える。
そして、もしまた僕の子がそのような力を持っていたら…。
(過去に王族が、ましてや男が聖女の力を発露するなんて聞いたことがない)
僕だけの特例なのか、はたまた他に聖女が存在するのか。ローズナリアが火の聖女ではないとわかった今、ルナレスカが子を成した時、彼女はどうなるのか。
ローズナリアが本当の火の聖女と裏付けを取ったつもりだ。けれど、それは火の祭りを見て判断したとのことだった。ローズナリアはアクアクォーレに生まれ、ライウスと婚約した。ならば神の怒りを買う理由にはならない。そう思って、やっと安心できたというのに…
(ローズナリアを調査するために、ルナレスカを兄上の元に預けたのに)
「うまくいかないな…」
僕がいまだに寝屋を共にできないでいることを、ルナレスカは自分自身を愛していない証拠だと思っているだろう。
母を亡くした同じ理由で、ルナレスカを失うのではないか…そう思うと疼く体を治めることしかできない。
(君の笑顔に絆されて、僕は…)
あの焦がれるような視線を向けられた時、僕は自分を抑えることができるのか、自信がない。
「…情けないな」
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