火の聖女を探しに(後半、ローズナリア視点)
「身分を隠して…?なぜ…」
「その問いに答えることが最善ではないと思っていたから、言わなかったのだ」
「シエル!!!」
壁を背にした私から、ちょうどシエルの肩越しに一着の白いドレスが飾ってあるのが見える。
着る人をじっと待っているかのようだ。
「…僕は…アクアクォーレに出現したという火の聖女を探しに入国した」
どくん、と心臓が跳ねた。
ローズナリア様を探し出して、秘密裏に捕縛しようとしたということだろうか。
「…なるほど。それで火の聖女を取り返そうとアクアクォーレに行ったは良いけれど、既にローズナリア様はライウス様との婚約が決まっていたのですね」
「違う、ルナリー」
「婚約破棄をされて残った私に求婚したと言うわけですか。へえ、なるほど!すっきりしました!」
「そうじゃない、聞いてくれ」
「だったら初めから、あ、愛しているなんて言わずに政略結婚だと正直に仰れば良いでしょうに」
「ルナリー!」
「もうそのように呼ぶのはやめてくださいませ!!」
シエルはびくりと肩を跳ねさせて、「落ち着いて」と言ったが、どうしてか感情的になってしまって回路が切り替わらない。
「おかしなシエルフォード様。私はこのデューべを潤すと約束しました。それを反故にするつもりはありませんわ。なにをそんなに慌てていらっしゃるのですか?」
「僕は、君を愛している。君は勘違いをしているんだ。実は…」
「もう、よして下さい!愛の言葉で繋ぎ止めようとするのは!もうたくさんです!」
シエルフォード様は、何度か私の名前を呼んで、無理に抱きしめようとしたので、思い切り突き放した。
「私は、水の聖女として、王太子妃として、この地でひたすらに勤めを果たすまでです」
「あ……」
「…もう二度と私の心を揺さぶらないでください」
「君ときちんと話がしたいんだ、聞いてくれないか!?」
「不要です」
すっくと立ち上がって、裾をぱんぱんと払うと、呆然とするシエルフォード様を横目に退出した。
どうしてだろう、気持ちがささくれだって涙が出てくる。
別に初めから分かっていたこと。私がデューべで生きていく覚悟を、シエルフォード様が見誤っただけ。王太子という立場上、それも当然だろうと思う。祖国への帰還を望まないと言い切ったとて、誰が信用などするだろう。
異国の小娘など、空っぽな愛で繋ぎ止めて仕舞えば良いと判断されただけのこと。
たくさんの愛の言葉などいらない。不確かな絆もいらない。私はただ与えられた天命を、命尽きるまで全うするだけ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ローズナリア!業火で焼き尽くしてしまえ!」
「ライウス様…?それはちょっとやりすぎでは…」
「なにも兵士たちを燃やすことはない。周りの木々や、武器、人々が驚き士気を削ぐことができれば良いんだ」
(どうしよう!)
私がこの場を収めなければ、ライウス様はやっぱりルナレスカと別れなければ良かったなんて思うのだろうか。
(そんなのいけないわ!…でも……)
クラバ側で、お父様やお兄様が馬にまたがっているのが見えた。
「っっっ!!!」
「どうみても劣勢だな。このままでは…」
「助けてください!ライウス様!!この争いをすぐに止めるように…」
「だから君がいるんじゃないか」
「…え?」
「君が今すぐに火の力を使えば、ムーリアは尻尾を巻いて逃げ帰るだろう」
「それは…」
「さあ、早く。…うん?父君の馬が走り出したが」
「ライウス様!!」
思い切り絶叫したが、ライウス様はじっと私を見るばかりだ。
だらだらと冷や汗が垂れる。
「どうした、ローズナリア。これじゃあ君と婚約した意味がないじゃないか。早く…」
「ライウス様…私…私には…聖女の力など…あ、ありません…」
「……ローズナリア?おかしなことを言う。君の力を使って、この戦を散らせば、みなルナレスカの追放に目を瞑る。さあ、早く」
「本当なのです!わ、私、ライウス様の妻になりたくて…火の聖女などと、嘘を…」
ぽんと私の肩にライウス様の手が乗った。にこりと微笑んだ彼は私を見つめて言った。
「分かった、デューべの土産がないので拗ねているのだな?」
少し恐ろしくなって、懸命にふるふると頭を横に振る。
「ああ、それとも初めて戦場を見たので恐ろしくなって力が使えないのか」
「そ、そうじゃありません!私は…!」
「大丈夫だ、ローズナリア。きっとすぐに慣れる。これからもっと大きな戦争を他国に仕掛ける。その時、君の力が必要なんだ。練習だと思って、さあ!」
「ライウス様っっ!!!」
ぽかんとした顔でライウス様は固まっている。私は手を握り込んで訴えた。
「私は、火の聖女などではありません。父や、兄を助けてください。お願いします」
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