ルナレスカは僕の妻だ
「ルナレスカは…水の聖女はどこにいる」
「さァて」
「っっ!こちらが下手に出ているうちに答えろ!アクアクォーレを侮辱するなら、国際問題にするぞ!」
「一人で砂漠を渡った聖女など、今まで聞いたことが…」
「今言葉遊びをしているつもりはない。ルナレスカはいるのかいないのか、いるならこの場に出せと言っている」
「嫌だと言ったら?」
「……」
緊張と怒気を孕んだライウスの目線。それを弄ぶかのような余裕。
私は少し開いた扉の外からそれを見ていた。
(…ライウス様があんなに焦っているのを初めて見る)
その態度は、そのままアクアクォーレを取り巻く今の雰囲気だろう。
そう気づいた瞬間、私は扉を開けていた。
「…ルナ……ルナ!!!」
「そのように呼ぶのはお控えくださいとお伝えしましたが」
「っっ、む、迎えに来たんだ」
「なぜですか?どうしてでしょうか?」
「なぜって…君が十分に反省したなら、アクアクォーレに戻っても…」
ふっと鼻で笑ってしまう。それだけで、ライウスは少し怖気付いたようだ。
「国外追放になった私を、連れ戻す?おかしなことを」
「なっ…違う、違うだろ、ルナ、ルナレスカが…」
「何がどう違うのですか?私はてっきり、国外追放した元婚約者の顔を見て笑いに来たのかと思いましたが」
「っっっ!!」
ライウスは立ち上がりかけた中腰のまま、言葉に詰まってただ動揺している。
今まで強気に出たことのない私が、毅然としていることに頭の理解が追いついていないのだ。まるで立場が逆転してしまったようで耐えられないのだろう。
(そう、庶民である私が意見するなんて、とんでもなかった)
でも、今は違う。
私を庇うようにシエルが背に隠そうとした。
「返してもらおう、ルナレスカは俺の…」
「…ライウス殿の、なんだ?」
シエルは思い切り冷たい目線で見下している。
とん、とごく軽くライウスの左胸に中指を突き立てた。
「っっっ!」
「ルナレスカ殿を国外追放し、婚約は解消された。デューべは砂漠で行き倒れていた聖女殿を助け、保護したのだ。感謝こそされど、詰め寄られる理由がどこにあろうか。言うに事欠いて、返せだと?先ほどから随分と挑戦的だ」
「それは……っ。ルナレスカがそう言ったのか、国外追放などと…」
「違うのか?ならば問う。なぜライウス殿は火の聖女殿と婚約を?」
「ど、どうして…」
「どうしてライウス殿が火の聖女殿と婚約したのを知っているのかって?当然だろう。僕はその時、アクアクォーレにいたのだから」
瞬きすら、忘れるほどの衝撃を受けた。シエルの告白に、ライウスより驚いているのは、私だ。
(シエルが、アクアクォーレにいた。それも、私が国外追放された時に)
ごくり、
嚥下の音が五月蝿いくらいに耳に響いた。
(そうか、私を助けたキャラバン隊を率いていたのはシエルだと聞いたわ)
少し得心がいって、心を落ち着ける。今は私が動揺している場合ではない。
ちらりとシエルを見ると、切ない笑顔を向け、私の手を取った。
「お、おい!ルナに触れ…」
「何が悪い?」
「は?」
「ルナリーに触れて何が悪いんだ」
「ル、ルナリー…だって?」
私の手の甲に口付けを落としたシエルは、挑発的に勝ち誇ったような顔で笑った。
ライウスは、初めて見る怒りに満ちた顔で私に手を伸ばす。
「ルナ!!離れろ!!すぐに帰るぞ!!」
「…嫌ですわ」
「な、なっ!!意地を張るなよ!早く…」
「ふ、ふふ」
「ルナ…?」
「冗談でしょう?どうして私が?」
「どうしてって…え?」
ライウスは思い切り動揺して、私に詰め寄ろうとした。シエルが再び私を背中に隠す。そして言い放った。
「ルナレスカは僕の妻だ」
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